連載
メタセコイアの「メタ」の語源は…校閲者の〝がーん〟な朝
ギリシャ語?ラテン語?痛恨のスルー
「ちょっと待った!」
そんな大声がひびく、新聞社の編集現場。しめきりギリギリで校閲担当者が、記事の間違いを見つけたときのことです。
新聞は日々発行され、ネットニュースも刻々と配信されていきます。字句やデータの点検は一瞬でも気が抜けません。そんな校閲パーソンの日常を、四コマまんがといっしょにお届けします。こぼれ話満載の「こうえつ堂」、ちょっとのぞいてみませんか。
今月は「メタセコイアで痛恨のスルー」です。
締め切り間際、校閲者が赤鉛筆で原稿をチェックしています。
出てきた単語は「メタセコイア」。
時計を気にしながら、入念に原稿を読み直します。
原稿に出てきたのは「メタはラテン語」という記述。
「OK」を出してしまいます。
そして翌日、読者から電話が……。
「meta(メタ)はギリシャ語です」
痛恨のスルー。
「がーん」となる校閲者なのでした。
「校閲者は、記事の最初の読者」。言ってみれば、役得のようなものでしょうか。出来たての原稿を読むのは、仕事であり楽しみでもあります。と同時に、校閲は編集部門の最終関門、たとえるならばサッカーの「ゴールキーパー」。読み飛ばしには、つねづね気をつけているつもりなのですが……。
メタセコイアという木の話で、「メタというラテン語」と書かれているのをスルー(見落とし)してしまいました。メタはラテン語ではなく、正しくはギリシャ語だったのです。
メタセコイアの名は、「メタ」と「セコイア」の2語からできていて、メタは「後に・超えて・高次の」などの意味をもちます。日本の植物学者が、「セコイア」という木の化石の中から未知の植物を発見し、メタセコイアと命名。すでに絶滅した植物だと思っていたら、中国で現生していることが分かったのです。
そんなわけで、メタセコイアはシーラカンスのように「生きている化石」と呼ばれたりもするのですが、実は身近な存在。今でも街路樹として植えられたりします。朝日新聞東京本社の近くにも並木道があって、初夏のいま、鳥の羽のような緑の葉を茂らせています。
「メタ」はほかにも、別のことばにくっついて使われる場合が多く、メタ言語(ことばを説明することば)や、「過激でメタなギャグ」(フィクションさえも飛び出すようなギャグ)なんていう言い方も聞きます。
現在の西洋のことばには、ラテン語とギリシャ語、どちらも多く残っています。特にギリシャ語由来のことばは、学術や芸術の分野に多いですね。たとえば「ロゴス」(ことば・理論)は「サイコロジー」(心理学)など、学問を表す「○○ロジー」に見られます。
仕事柄、ふだんから語源をたどる作業は多いのですが、よくよく注意しなければいけませんね。(丹羽のり子)
まんがのキャラクターは校閲のマスコット、その名も「ルー」。私たち校閲記者の分身です。「カンガルー」と、「校閲」の英語訳proofreading(プルーフリーディング)をかけてネーミングしました。赤えんぴつ片手に、辞書を引いたりインターネットを駆使したりして、記事のチェックに奮闘します。
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