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消えたたばこCM、ネットで流れる理由 「二つの基準」へのモヤモヤ

ネットで動画を視聴するサービスが普及しているが、そのCMに注目すると……。※画像はイメージ
ネットで動画を視聴するサービスが普及しているが、そのCMに注目すると……。※画像はイメージ

目次

テレビから姿を消したたばこのCM。それが今、ネットテレビで盛んに放送されています。なぜ可能なのかと調べてみると、業界の定める「二つの基準」の存在、そして「『たばこ』ではなく『デバイス』」という業界側の論理が浮かび上がってきました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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「たばこCM」ざわつくネット

ネットで地上波テレビ番組のアーカイブを視聴できる無料サービス「TVer」を観ていたときのことです。

民放キー局5社が番組を提供し、月間アクティブユーザー数は2021年3月時点で約1700万、再生数は約1億8000万回と人気のこのサービス。その中で、繰り返し放送されるある広告が目につきました。

「ながらーにPloom」

目を引くイラストと印象的なメロディ。それが何度も何度も放送されるのです。

Ploomという言葉は聞いたことがあります。たしか、これは日本たばこ産業(JT)が販売する加熱式たばこのブランドだったはず。

試しにネット検索すると「加熱式たばこプルーム(Ploom)とは?」というタイトルの、JT公式サイトのページがヒットしました。

CMを最後までしっかり確認すると、終盤に加熱式たばこデバイスの写真と「ながらーを応援するPloomTECH」という文言が映し出され、最後の数秒で「20歳未満の者の喫煙は、法律で禁じられています。」という注意文言が。

つまり「ながらーにPloom」とは「加熱式たばこのCM」だったのです。同広告でクリエイティブディレクターを務める會澤浩さんは、ウォーカープラスのインタビューで、以下のように狙いを語っています。

>「どこにプルーム・テックの需要があるかと改めて考えたときに『“ながらたばこ”をするシーンって多いよね』と考え至ったのが今回のCMの出発点です」

仕事、ゲーム、ドライブ中――生活の中のさまざまな場面で「ながらー」に「Ploom」を勧めるこのCM。繰り返し放送されたのは記者だけではないようで、SNSでは「よく流れるCM」などとして複数のアカウントに言及されていました。

會澤さんは前述のインタビューで「SNSを見る限りでは、反響の3割が共感で2割がネガティブ。TVerやAbemaTVで流れるときは『ながらーにプルーム』ってフレーズが何度も繰り返されるのでそれが嫌がられているみたいです(笑)。」と分析しています。

ここで記者がふと疑問に思ったことがありました。

「そういえば、たばこのCMってテレビで禁止されているのでは?」

同じテレビ番組を放送しているのに、なぜネットはOKで、テレビはNGなのか、調べてみることにしました。

なぜ消えた?テレビ「喫煙CM」

三浦友和さんや高倉健さん、鹿賀丈史さん、豊川悦司さん――。テレビでは90年代まで、時々のスターが紫煙をくゆらせ、直接的にたばこを宣伝するCMが放送されていました。

しかし現在、たばこ会社が提供するテレビCMは、JTの「ひとのとき​を、想う。」のような抽象的な「イメージ広告」や、喫煙マナー向上を訴える「マナー広告」に限られます。

実は、たばこの広告については、国際的な取り決めがあります。2003年にWHO(世界保健機関)総会で採択され、日本も批准している「たばこ規制枠組条約(FCTC)」です。

FCTCではたばこの広告、販売促進およびスポンサーシップを禁止または制限しています。その理由は、たばこにより世界中でたくさんの命が失われてきたから。

公衆衛生上の大きな問題として、WHOはたばこによる健康被害の防止に努めています。

これを受け、日本の所管省庁である財務省が2004年に告示「製造たばこに係る広告を行う際の指針」(2019年改正)を発表しました。

この指針は「未成年者の喫煙防止及び製造たばこの消費と健康との関係に配慮するとともに、たばこ広告を過度にわたらないように行うこと」を目的にしています。

この指針に沿う形で、JTなどのたばこ会社が加盟する日本たばこ協会が広告・販売促進活動に関する自主基準(※同協会は「規準」と表記)を設定。現在、放送されている広告は、この自主基準に則ったもの、ということになります。

そして、そのうちの一つ「製造たばこに係る広告、販売促進活動及び包装に関する自主規準」において、テレビ、ラジオや映画などでたばこの広告はしないこととされているのです。

また、90年代後半には、このような世界的な規制の流れに先手を打つ形で、たばこ会社による広告の自粛も始まりました。ゴールデンタイムにも放送されていたCMは深夜になり、そしてついに放送もされなくなったのです。

なお、政府が直接、たばこの広告を規制するのではなく、「指針」を作成し、それを受ける形で「自粛」や「自主基準」を設定する――直接規制を避けるためのこのような規制は極めて日本的と言え、世界的にも珍しいものです。

テレビでかつてのようにたばこの広告を見かけない理由は「たばこ業界団体の自主基準で禁止されているから」ということになります。

これは加熱式たばこも同様です。そのため「ながらーにPloom」は、TVerで観たのと同じ番組をテレビで観ても、こちらでは放送されません。

「ネットなら宣伝OK」の理由

ではなぜ「ネットならOK」となっているのか。その理由は同様に「たばこ業界団体の自主基準で許可されているから」です。

自主基準を設定する日本たばこ協会を取材しました。同協会担当者は「ネットは双方向であり、年齢確認が技術的に可能であるから」と説明します。

つまり、たばこ業界としては「未成年者の喫煙防止」に重点を置いている、ということです。従来のテレビは情報伝達が一方向のみで、視聴者層を特定できません。TVerは初めて使うとき、アンケートとして年齢を自分で記入します。

さらにJTを取材すると、意外な回答が。「『Ploom』は加熱式たばこデバイスのブランドであって、たばこ製品のブランドではない」と説明されたのです。

「たばこ製品」の広告をネットで流そうとすれば、免許証など公的な証明書による年齢確認が必要ですが、キセルやパイプなどの喫煙具は、自己申告の年齢確認があれば広告を流していいことになっています。

つまり、事実上、喫煙にしか使えない加熱式たばこデバイスにもかかわらず、業界団体の自主基準では「たばこ製品」にはあたらないのです。

業界団体の自主基準を詳しく見てみます。まず、「加熱式たばこ」は、「たばこ製品」部分と「加熱式たばこデバイス」部分に分かれます。

ここで「たばこ製品」部分とは、たばこ葉の入ったスティックやカプセルのこと。この部分はたばこ事業法上の「たばこ」に該当し、紙巻たばこと同じ扱いになります。つまり、この部分の広告を視聴する場合は、公的な証明書等による年齢確認が必要になります。

一方、そのスティックやカプセルを加熱するデバイスはたばこ事業法上のたばこ製品には該当せず、パイプやキセルのような喫煙具に該当する、というのが、自主基準上の定義なのです。あくまでも喫煙具なので、広告の自主基準が別になる、ということ。

自主基準も「加熱式たばこ製品の製造たばこ部分に係る広告、販売促進活動及び包装に関する自主規準」と「加熱式たばこ製品の製造たばこ以外の部分に係る広告及び販売促進活動に関する自主規準」に分かれています。※太字は記者による

これら二つの自主基準は、特にネットの広告について扱いが異なります。デバイス部分の自主基準では、年齢確認はサービス利用時の自己申告でよしとされているのです。

テレビでは流れない加熱式たばこの広告が、TVerで盛んに放送されることには、こんな背景があったのです。

さて、ここまでの取材でネットテレビで放送される加熱式たばこのCMは法律・自主基準上は問題ないということがわかりました。でも、ちょっとモヤモヤしませんか。

たとえば「たばこにしか火をつけられないライター」があったとして、その使用環境をプロモーションするのは、たばこのプロモーションと何が違うのでしょうか。

たばこ部分とデバイス部分を区別する自主基準により、ネットで大々的に広告される加熱式たばこ。このことについて、この連載でさらにフカボリしてみることにします。

【第二回はこちら】加熱式たばこ、普及の背景にネット広告 「技巧的で不自然」な基準による宣伝 表現の自由と医療からの批判


 

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