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#4 地デジ最前線

「IE使われていたが…」都のデジタル化、「副業」大学生が見た変化

東京都庁
東京都庁 出典: 朝日新聞社

目次

地デジ最前線
【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

毎夕にメディアが速報する東京都の新型コロナウイルスの新規感染者数は、全国的にも高い関心を集めています。そうしたデータが一覧できる都のコロナ対策サイトの構築に、最先端の情報システムを学ぶ大学生が「副業」で携わっています。都が募集した「デジタル人材」として採用された、21歳のソフトウェアエンジニアに話を聞きました。

東京都のオープンデータカタログサイト。中央卸売市場の日報として販売予定数量と販売結果も公表されている
東京都のオープンデータカタログサイト。中央卸売市場の日報として販売予定数量と販売結果も公表されている 出典:東京都オープンデータカタログサイト

公表データを読み取りやすい形式に

「卸売市場のデータからサバが余っていて、安くなるということが分かる。その情報をサバを取り扱う飲食店に提供し、消費者に来店を促すことで、食品ロスが減らせるのではないか」 

2月に開かれた都のオープンデータの活用を官民が議論する場で、IT企業からこんな提案がありました。都では中央卸売市場の販売予定数量と販売結果のデータを公表していましたが、コンピューターが読み取るのが難しい形式になっており、サービスに活用しづらい状況でした。

これに応え、すぐに読み取りやすい形式に変えたのが、都が「デジタル人材」として採用した寺田一世さん(21)です。「本業」は東洋大の4年生。都が昨秋に募集した「デジタルシフト推進専門員」に採用され、大学で学ぶプログラミング技術を活かして、「副業」として都の新型コロナ関連のデータやオープンデータの整形を担っています。

東京都のデジタルシフト推進専門員として働く寺田一世さん=2021年5月
東京都のデジタルシフト推進専門員として働く寺田一世さん=2021年5月 出典: 東京都提供

週1でOKのデジタル人材、高校生も

「デジタルシフト推進専門員」とはその名の通り、都のデジタルシフト業務を担う人材として都が募集した非常勤職員です。雇用形態の柔軟さが特徴で、勤務日数は「週1、2日」、任用期間は「3カ月更新」。応募のハードルを下げ、副業のように働けるようにまでしたのは、デジタル人材の確保が「喫緊の課題」だからです。

昨年2月の都の資料によると、例えば米ニューヨーク市では職員12万5千人のうち、ICT(情報通信技術)部門は約1500人で全体の1.2%なのに対し、都は行政職3万2千人のうち、ICT部門は約100人で全体のわずか0.3%です。同じ職員規模の米ロサンゼルス市は約400人(1.2%)だといいます。

今回デジタルシフト推進専門員として採用した数名の中には、大学生の寺田さんのほか、高校生もいます。都は昨年度の職員採用試験から「ICT職」を新たに設けました。9月に「デジタル庁」の創設を控え、デジタル人材の獲得競争はますます厳しさを増しています。

世界の大都市と比較したICT部門職員数。資料では「東京のデジタルシフトを進めるためには、ICT人材の確保が不可欠」と記されている
世界の大都市と比較したICT部門職員数。資料では「東京のデジタルシフトを進めるためには、ICT人材の確保が不可欠」と記されている 出典:東京都が昨年2月7日の公表した「スマート東京実施戦略」

新型コロナの感染状況、富山版を制作

寺田さんが自治体のコロナ対策サイトの構築に携わるのは、実はこれが2回目です。
 
出身地の富山県で新型コロナの感染者が出始めた昨年3月末、都のコロナ対策サイトのオープンソースが公開されていることをツイッターで知りました。

調べてみたところ富山県版はなさそうでした。民間企業が主催するオープンデータ活用のコンテストでの表彰歴もある寺田さんは、「それなら自分が」と他の地域のサイトを参考に都のオープンソースを使い、県内の感染者数や検査件数などをまとめたサイトをわずか数日で制作。それがすぐに県庁の担当者の目にとまり、「県公認」のサイトとなりました。

これをきっかけにより深く都のデジタル化の取り組みに携わりたいと思い、デジタル人材に応募したそうです。

寺田さんが作製した富山県公認新型コロナウイルス感染症対策サイト。サイト立ち上げ後、仲間が増えサイトを改善していった
寺田さんが作製した富山県公認新型コロナウイルス感染症対策サイト。サイト立ち上げ後、仲間が増えサイトを改善していった 出典:富山県公認新型コロナウイルス感染症対策サイト

制約あるが、やりがいも

そんな寺田さんを悩ませたのは、データ処理におけるさまざまな都の制約でした。「IEがいままで使われていましたが、Chromeが使えるようになったり、使えるものがどんどん増えています」

業務用に支給された都の端末は、情報漏洩を防ぐため、ソフトやツールが自由に入れられません。ブラウザも当初はMicrosoftのインターネット・エクスプローラー(IE)が使われていましたが、ちょうど寺田さんが入ってから情報処理により適したGoogle Chromeを全職員が使えるようになりました。

大学では「APIを使わないと開かないロッカー」をプログラミング演習の教材として使う最先端のIoT環境で学んでおり、その差は非常に大きいものでした。

都庁でほかのデジタルシフト推進専門員らと打ち合わせをする寺田一世さん(左から3人目)=2021年5月
都庁でほかのデジタルシフト推進専門員らと打ち合わせをする寺田一世さん(左から3人目)=2021年5月 出典: 東京都提供

ただ、そのような制約下でも、寺田さんは行政での仕事にやりがいを感じています。

「実社会でデジタルの力を役立てる時に、行政にできることはとても多い。社会のためにさまざまな分野でデジタル化を推進する際に、保有しているデータの範囲が広い行政は理想的な場所だと考えています」

寺田さんの上司にあたる天神正伸・デジタルシフト推進担当課長は「いまの都には、寺田さんのような人材が活躍できる仕事が多くあると思う。そのポテンシャルを100%生かせるような環境を作りたいと考えており、そうなると新しい風が吹くのではないか」と話します。

身の回りの不便をデジタルの力で解決したい

来春に大学卒業を控える寺田さんの卒論のテーマは、バスの経路検索サービスの元になるデータ整備の支援ツールを作ることです。バスの時刻表や運行経路、遅延情報などの情報を受け渡しやすくするための情報フォーマットがあり、それをバス事業者や自治体の担当者にとって使いやすくしたいと考えています。

富山県ではそれをバス路線ごとに担当者が作っていましたが、情報の更新が負担になっていたり、担当者の交代によって作製に時間がかかったりしている、という課題を県庁の担当者から聞いたのがきっかけでした。

「身の回りにある不便なことに目を向け、困っていること、問題になっていることをデジタルの力を使って解決していけるような人になりたい」

高校生や大学生が自治体の職員になり、しかもその第一線で働くというとこれまではあまり考えられなかったかもしれません。天神課長は「デジタルシフト推進専門員」の働き方について「手探りでやっているところもある」と話していました。その言葉にデジタル人材の確保に対する都の危機感とともに、動きながら考えていくという柔軟さもまた感じました。

デジタル人材として「副業」で働く職員とは、その業務内容だけでなく、例えば固定した席を持たず、自由に席を選ぶフリーアドレスの導入など働く環境についても意見を交換していると言います。外部からの人材を採用した後、その専門的なスキルだけでなく、行政にはなかった視点や意見をいかに採り入れられるかが地域のデジタル化を進めるカギを握ると、取材を通じて思いました。

 

日本全国にデジタル化の波が押し寄せる中、国の大号令を待たずに、いち早く取り組み、成果を上げている地域があります。また、この波をチャンスと捉えて、変革に挑戦しようとする人たちの姿も見えます。地デジ化(地域×デジタル、デジタルを武器に変わろうとする地域)の今を追う特集です。

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