連載
#9 眠れぬ夜のレシピ
梅雨の夜、甘い焼き菓子で苦悩を「変換」する魔法 眠れぬ夜のレシピ
「天候のせいにしてしまえば良い」
梅雨や台風。疲れたり、落ち込んだりしがちな季節になってきました。そんなときは嫌なことをやり過ごす、ちょっとした「魔法」を使います。一人の夜を少しでもあたたかい気持ちで過ごせるように。あなたに贈る、真夜中のレシピです。手紙を添えて、お届けします。(漫画・コラム、午後)
午後さんのプレイリスト
不安に襲われる夜。午後さんの身近にあった音楽を教えてもらいました。
あなたの夜の隙間も、少しでも埋められたら、幸いです。
こんばんは、午後です。
いよいよ今年も梅雨、天候が不安定な季節になりました。いかがお過ごしでしょうか。
私はというと、低気圧がやって来る度に体調が崩れるので、憂鬱になっています。気象病、本当に厄介ですよね。毎回痛み止めに頼るよりも、最近は、漢方薬も取り入れて様子を見ようかと思っています。
天候に伴うどうにもできない体調不良、その他の理不尽、痛み、憂鬱…ただ生きているだけでも苦悩はつきもので、本当に嫌になります。でも、そんな苦悩を、私たちは甘いお菓子に変えてしまうことができるのです。特に、今夜ご紹介したスコーンは手で直に生地を触るので、嫌なものや悪いものを、手を通してスコーン生地に移してしまえる感じがします。
むかし聴いた童謡の歌詞に『ほんとにおばけが 出て来たら どうしよう 冷蔵庫に入れてかちかちにしちゃおう』というフレーズがありました(おばけなんてないさ/まき みのり 作詞/峯 陽 作曲)。当時、子どもだった私はそれを聴いて“おばけを冷やしてアイスクリームにしてしまうのだろう”と考えていました。嫌なものは美味しいもの・楽しいものに変換できるという、私の中にある思想のようなものは、この歌によって培われた気がします。“おばけは白のイメージがあるから、きっとおばけのアイスクリームはバニラかミルク味だろうな”とか呑気に考えるような子どもでした。“大人って、そんな魔法が思いつくなんて凄いなぁ”とも思っていました。
悪いものは高温や低温にはきっと耐えられません。おばけをキンキンに冷やしてアイスクリームを作ったように、憂鬱を折り込んだ生地を180℃のオーブンでじっくり焼いて、美味しいスコーンにしてしまいましょう。私たちは、そんな魔法を使うことができる大人になれたのです。
とはいえ、行動を起こすことができないほど疲れ果ててしまった夜もあります。そんな時は、天候のせいにしてしまえば良いのです。この星に住む限り、天候の影響は受けるから仕方ないよねと、自分を許すことができます(実際天候のせいですし…)。私は日々をこのような感じでやり過ごしていますが、やり過ごすことが大事なことのような気がしています。
それでは、今夜も素敵な夢を見られますように。おやすみなさい。
午後
SNS作家。2020年5月からTwitterに漫画を投稿をしている。今年1月に初の書籍「眠れぬ夜はケーキを焼いて」(KADOKAWA)を出版。Twitterアカウントは@_zengo。
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