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ミニシアターの相次ぐ閉館、横浜聡子監督の無念「配信とは別物」

劇場に入ったら戻れない「1回性」の重み

新作「いとみち」を撮影中の横浜聡子監督。コロナ禍で撮影準備の中断を余儀なくされ、絶望の淵にいたといいます ©2021『いとみち』製作委員会
新作「いとみち」を撮影中の横浜聡子監督。コロナ禍で撮影準備の中断を余儀なくされ、絶望の淵にいたといいます ©2021『いとみち』製作委員会

目次

コロナ禍で映画を見る場所が映画館から配信へ、これまで以上に傾く現実を、作り手はどうとらえているのでしょうか。映画「俳優 亀岡拓次」やドラマ「バイプレイヤーズ」などで知られ、映画を完成させるたびに渋谷のミニシアターで上映している横浜聡子監督(43)に聞きました。(朝日新聞記者・田渕紫織)


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横浜聡子(よこはま・さとこ)
1978年、青森市出身。横浜の大学を卒業後、東京で1年ほどOLをし、2002年から映画美学校で学ぶ。07年、長編1作目の「ジャーマン+雨」が、日本映画監督協会新人賞。監督作品は、松山ケンイチ主演の「ウルトラミラクルラブストーリー」(09)、安田顕主演の「俳優 亀岡拓次」(16)など。近年は、ドラマ「バイプレイヤーズ」「有村架純の撮休」の監督にも参加。
 

最初に思った「ミニシアターがやばい」

記者が横浜監督のデビュー作を見たのも、渋谷のミニシアターでした。当時は大学生。強烈に自由な主人公や実験的な世界観に夢中になり、1週間も経たずにもう一度見に行った記憶があります。

取材はZOOMの画面越し。まず、相次ぐミニシアターの閉館について、受け止めを聞きました。

――コロナ禍……の残念ながら前からですが、ミニシアターの閉館が相次いでいます。

これまで、自分の作品を全国の色んなミニシアターで上映してもらってきて、そのたびに劇場に行って話して、特に地方のミニシアターの経営の厳しさは感じていました。

なので、去年3月の最初の緊急事態宣言の時に一番最初に浮かんだ心配事が「ミニシアターがやばい。なくなってしまう」ということでした。
休業したり席を半数にしたりレイトショーができなくなったりという状況が1年以上も続いているのだから、そりゃ本当に潰れてしまうよなと思ってしまいます。補償がほとんどないうえに、日本の政策が後手後手なので、劇場も十全に準備できないまま政策が先に決まってしまう、本当にひどい状況です。

ZOOMで取材に応じてくれた横浜聡子監督
ZOOMで取材に応じてくれた横浜聡子監督

「座り心地もそんなによくないけれど…」

――監督は、映画を仕事にする10年ほど前からミニシアターに通われ、バイトもされていたと聞きましたが、当時の自分にとってどんな場所でしたか。

私は大学入学で青森から上京して、大学生の頃から1人で行き始めたんですけど、当時、ミニシアターという言葉も知らなかったと思います。ただただ自分が見たい新作映画を『ぴあ』という雑誌で調べて行っていて、そのほとんどがミニシアターと呼ばれる場所だと気づいたのは随分後でした。


――映画館で過ごす2時間って、何が特別ですか?

暗闇の中で大きいスクリーンをひたすら見つめて、その非日常空間とふだん過ごしている日常空間を行き来する面白さというか、自分の人生が二つあるような面白さというか……。よく言われることですけど、映画館に入る前と後で自分が何かしら変わっている感覚ですね。特に若い時の自分には貴重な体験でした。

1人が好きな私にとって、映画を見ることってベスト中のベストでした。ただただ居心地がよくて。

「映画館に行って映画を」が難しい

――作り手になってからは、ミニシアターへの見方は変わりましたか?

今40代になっても、居心地のよさは変わっていません。映画館が家だったらいいのにな、ここに住めたらいいのになと毎回思います。
ただ、映画を見る手段は映画館以外にとても増えましたよね。


――特に配信ですね。

はい。自分もそれによって、ひとつひとつの映画を見る体験の強度が弱く、薄くなってしまっているという自覚があります。

ネットで見た映画ってすぐ忘れちゃうし、映画館で大きいスクリーンで目と耳をフルに使って見る体験とは、同じように見えてやっていることが全然違う、別物だと思うことにしています。


――コロナ禍で特に、映画を見る場所は配信に傾いています。

配信で見ていれば、早送りも巻き戻しもいかようにもできる。いったん映画館に入ったらもう戻れないという「1回性」の重みが消えてしまいました。

――映画館のよさって、単にスクリーンが大きいとか音響設備が本格的というだけじゃないですよね。どうすれば、場所としての映画館のよさを伝えられるでしょう?

口で説明するのは難しいなぁといつも思います……。そのうえ、これだけ私を含めた映画制作者もネット配信を頼りにし、依存している現状で、映画館に行って映画を見ようと言うのは本当に難しい。

そもそも映画館に行ってもらえなかったり、そもそもいい映画がかかっていなかったりしたら、机上の空論ですし、コロナという疫病で、本当に難しくなってしまっています。新作も6月から青森で先行公開し、渋谷のミニシアターでも公開する予定ですが、直前までわからない状況です。


――新作(「いとみち」)は、まさにミニシアターで映画をたくさん見てきた経験も反映されていますか?

今作に限ったことではないんですが、映画を作りながら、音の使い方や時間の推移の描き方を考えるとき、前にミニシアターで観た色んな映画の実験性が、自動的に思い出される時があります。「あれをまねしてみたい」という欲望がわいて、実際、もとになることもよくあります。

ミニシアターでかかる映画は、自由で過激で実験的で、作り手としての私にも勇気をくれます。それは、大型シネコンでかかるような、マスを相手にした映画からはなかなか得がたいものです。

※配信時の見出しを変更しています(2021年6月21日)

配信サービスの重たさ――取材を終えて

5月、日本の代表的なミニシアター「アップリンク渋谷」の閉館を取材しました。昨年発覚したパワハラ問題(元従業員5人が、在職中に浅井隆代表からパワーハラスメントを受けたなどとして、浅井代表とアップリンクを相手どり、損害賠償請求を求める訴訟を東京地裁に起こし、同年、和解)は個人的にもとても残念でしたが、ユジク阿佐ケ谷に続いてミニシアターがまたひとつ減り、その分日本で公開する映画が年間何本も減ることは大きな打撃だと感じています。

一方で私も、横浜監督が言及されたように、コロナ禍の昨年からは、ネットフリックスやアマゾンなどの配信で映画を見る習慣が染みついてしまっています。

過去の名画もリモコン一つで呼び出すことができ、細切れの時間でも見られて、たしかに便利です。
しかし、配信に依存すればするほど、ミニシアターにさらなる打撃を与えている気がして、もどかしさが募ります。

ミニシアターの運営は、今後も難しさが増すことは避けられないでしょう。だからこそ、映画館の目利きで選ばれた作品を、横浜監督の言う「1回性の重み」のある劇場の非日常空間で味わう時間の価値が高まっているともいえます。ミニシアターから得られるかけがえのない体験の場は、どこかで残り続けてほしいと願っています。
 

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