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連載

#102 #父親のモヤモヤ

「仕事か家庭か選べ」上司に言われ転職も 医療的ケア児の父親の苦悩

小林正幸さんと息子
小林正幸さんと息子

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。

「仕事か家庭か、どっちか選べ」。上司からそう迫られた経験がある男性がいます。男性の息子は、おなかの胃ろうから栄養剤を注入するといった医療的ケアを必要とする「医療的ケア児」です。

医療的ケア児を育てる家庭では、「2時間おきにたんの吸引が必要で、夜も眠れない」という話も珍しくはありません。ケアの負担が大きいぶん、父親は家庭に関わることを求められ、家庭と仕事との間で板挟みになりがちです。

医療的ケア児の父親で、全国医療的ケア児者支援協議会の親の部会長をつとめる小林正幸さん(47)に、医療的ケア児の「父親のモヤモヤ」を語ってもらいました。
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厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」の資料から
厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」の資料から
「医療的ケア児」とは、おなかの胃ろうから栄養や水分を注入したり、たんを吸引したりといった医療的ケアを必要とする子どものことです。医療が発達して、かつては助からなかった命が助かるようになり、医療的ケア児も増えています。厚生労働省の推計では、19歳以下の医療的ケア児は2019年時点で全国に約2万人いるとされ、過去10年間で2倍に増えました。

〈夫は仕事、妻は家庭〉役割固定化?

――医療的ケア児の取材をしていると、ケアや家事の分担をめぐって家庭不和におちいったり、離婚したりといった話も耳にします。

実は昨年、医療的ケア児300人あまりの家庭にアンケートをして、両親の就業状況などを調べました。そこでは両親が離婚したとみられる家庭は1割ほどでした。

障害のある子どもを置いて父親が出ていったというケースもあり、そうした話は目立ちますが、実態としてはむしろ夫婦で一致団結している家庭の方が多そうです。

その一方で、両親の就業状況をみると、父親は仕事を続けられているのに、母親は仕事をやめているというパターンが目立ちます。夫は仕事をして、妻が家事や育児をするという分業体制になっているようです。

もう少し正確に言うと、未就学児の母親では「正社員」という回答が多いけれど、小学校に上がると「パート」が増えます。

おそらく、子どもが生まれて当面の間は育休などの制度を使って仕事を休んでいたものの、どこかの段階で復職をあきらめている母親が多いのではないかと推測しています。

勤務時間でハンデ、リストラの不安も

――分業しているといっても、医療的ケア児の父親の場合、より家庭に関わることを求められるのでは。

そうですね。私もその問題で2回転職しています。

最初にいた会社では、「子どものケアで休んだり、勤務時間をずらしたりする必要があるのなら、時短にするように」と言われました。

次の会社では、前の職場でのこともあって仕事に力を入れていたところ、責任のある仕事を任されるようになり、今度は家庭のことが回らなくなりました。「仕事か家庭か、どっちか選べ」と迫られ、「答えられないなら異動させる」と言われました。

いまの会社は、理解があると思います。ただ、成果を出していかないと生き残っていけない、という危機感は常にあります。

というのも、ほかの人と比べて勤務時間などでハンディキャップがあるので、「あの実績なら子どものために休んでも仕方ない」と言われるぐらいの成果を出さないと、業績が悪くなったときにリストラされやすいのではないか、と。

そのためにスペシャリティー(専門性)を高めることも求められるのですが、自己研鑽を積む時間がなかなかありません。

――そうした仕事の状況は、家庭内では理解されていますか。

妻は私の仕事の状況まではわかっていないかもしれません。

長期的な視点で戦略を立てて

――医療的ケア児の家庭では、どうしてもケアの負担が母親に偏りがちです。

私は仕事でも、遊びでもいいので母親も外に出た方がいいと思っています。その方が余裕を持って家族のことに向き合うことができます。

我が家では息子が小学校に入ったころ、妻が「働きに行きたい」と言いました。

ふだんは平日の日中は妻が、夜は私が子どもの世話をしているのですが、毎週日曜日は私が「主夫の日」にして、子どもの世話や家事をすることにしました。その間妻は仕事にいくことができ、社会とつながるかけがえのない時間になっています。

――父親としては、どうすればいいのでしょう。

医療的ケア児の父親の場合は、どうしても仕事も回して、家庭も回してということを求められ、目の前のことにとらわれがちです。

でも、ここは一歩引いて、長期的な視点で考える必要があると思うんです。

子どもの将来を考えたとき、果たしてこの子は自立するのか。あるいはグループホームや施設に入ることになるのか。いつか、家族の手を離れることも見据えて、少しずつ親から離れる時間をつくっていく必要もあるのではないでしょうか。

そのために短期入所などの施設をもっと柔軟に利用できるよう、いまからでも行政に働きかける必要があるかもしれません。

父親がもし、ふだんから長期計画を立てるような仕事をしているなら、家庭でも必要なことを考え抜いて、長期的な戦略を立てることで貢献できるかもしれません。

(取材を終えて)仕事ができるだけ恵まれている?

私(記者)は共働きで、医療的ケア児の長男を育てています。長男に医療的ケアが必要になったことがきっかけで、5年前から医療的ケア児やその家族を取材しています。

【山下記者の記事】文科省が抵抗、動いた「懐刀」 ケア児支援法案の舞台裏

今回の企画を思い立ったのは、上司の言葉がきっかけでした。私の原稿を見て、上司はこう言いました。

「医療的ケア児の記事に登場するのは母親ばかりだよね。父親はいったい何しているの?」

確かに、私がこれまで書いてきた医療的ケア児の記事はすべて、当事者の子どもやその母親が主人公でした。

子どもが医療的ケアを必要としているため、保育園に入れなかったり、学校に通えなかったり。場合によっては、母親が仕事をあきらめざるをえなくなったり。こういった問題はとても深刻です。

【山下記者の記事】活動範囲2メートルでも ケア児支援法に署名2万5千人

一方で、取材で出会った父親たちが何もしていないわけではありません。むしろ、子どものケアに熱心に取り組む父親は少なくありませんが、そうした父親のこと、特に父親が抱えている気持ちやモヤモヤは、記事にしてきませんでした。

日々子どものケアに追われ、仕事に復職できずにいる母親のことを考えると、父親は仕事を続けられているだけ恵まれているのかもしれません。

でも、「恵まれている」で片付けてしまっていいのか、という思いもあるのです。

仕事に満足に時間をさくことができない歯がゆさや居心地の悪さ。家庭により関わるよう求める妻と成果を期待する職場との板挟み――。小林さんが指摘したモヤモヤは、私自身が日々感じているモヤモヤでもあります。

これからは、そんな父親の気持ちにも向き合っていきたいと思います。

父親のリアルな声、お寄せください

記事の感想や体験談を募ります。いずれも連絡先を明記のうえ、メール(dkh@asahi.com)で、朝日新聞「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。
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