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父が手放したフェアレディZ「まさか娘が…」クルマ好き親子の22年間
購入を決めてから、ずっと撮りたかった写真。
22歳の女性がツイッターに写真投稿した、愛車の4代目フェアレディZ(Z32型)を前にVサインする自分。そして、一緒に投稿されたもう1枚の写真は、「私が生まれる前に手放したZ32を、まさか娘が買うなんか思ってもなかった若かりし頃の父」。一晩で「いいね」4万超が集まった、この大反響の写真投稿に込めた思いを聞きました。(北林慎也)
風情ある茂みを背景に、愛車のフェアレディZ(4代目・Z32型)と自身の写真をツイッターに投稿したのは、兵庫県内在住の「ひなこ」さん(22)です。
先月末に納車されたばかりのお気に入りの一台。往年の走り屋の定番だったR32スカイラインGT-R純正ホイールと、控えめで上品なエアロが目を引く渋いモデルです。
ひなこさんはこの写真と一緒に、父親の写真を投稿しました。接写されたプリント写真の撮影日付は「'97 10 11」。
彼と一緒に写るのは、ひなこさんが生まれる前に手放した当時の愛車。ひなこさんと同型のZ32でした。
私が生まれる前に手放したZ32を
— ひなこ (@d_hinako_1106) May 1, 2021
まさか娘が買うなんか思ってもなかった若かりし頃の父👨
約23年越しに同じ場所で撮ってきた🥰 pic.twitter.com/AFzGBQBdp9
こんな言葉を添えて1日夜に投稿したところ、大きな反響がありました。
この写真を撮った理由と投稿に込めた思いを、ひなこさんに聞いてみました。
22歳のひなこさんは、物心付く前に両親が離婚。父子家庭で育ちました。
クルマ好きだったお父さんは若い頃、トヨタのスープラやマークIIなどを乗り継ぎ、結婚前に中古でZ32を買ったそうです。
当時の日産が誇る憧れのスポーツカーでしたが、お父さんはひなこさんが生まれる前にZ32を手放します。
乗り換えたのは、スバルのレガシィ・ツーリングワゴン。後席も広く使えて荷物もたくさん詰める一方で、ラリー仕込みの水平対向エンジンの回転フィールが痛快な、子育てとクルマ趣味を両立させる絶妙なチョイスです。
そしてしばらくすると、お父さんは男手一つで、ひなこさんを育てることになりました。
ひなこさんは、小学校からバレーボールを始めました。
お父さんは送迎や遠征のため、後席スライドドアの小型トールワゴンであるトヨタ・ポルテに買い替えました。子どもが乗り降りしやすいように、という配慮です。
その後もプリウスに買い替えながら、春高バレーに出場するまでに部活に打ち込んだひなこさん最優先で、家グルマを選び続けました。
ですが、ひなこさんの大学入学を機にようやくまた、念願のスポーツカーを買いました。
6代目となる現行型フェアレディZ「Z34型」です。
一方で、我慢してファミリーカーに乗りながらもクルマ好きだった父親の影響で、ひなこさんもまた、小さい頃からクルマ好きとなりました。
特に、大学生になってからは、アニメや映画にもなったコミック作品「頭文字D(イニシャルD)」に夢中になり、劇中で活躍する90年代国産スポーツカーに魅せられます。
そして大学卒業と鍼灸(しんきゅう)師としての自立を機に、初めてのマイカーに選んだのがZ32でした。
クルマ購入を考え始めた最初のうちは、現在の走り屋の定番でもある現行型トヨタ86あたりを候補に考えていたそうです。
ですが次第に、思いきって90年代の国産スポーツの購入に考えが傾きます。
年を追うごとに程度の良い個体のタマ数が減っていき、価格も高騰し始めたため、「乗るなら今しかない」と思い至りました。
そのうえで、S13シルビアなどの定番ではなく、その「他と似ていない、独特なデザイン」に強く惹かれて、Z32の購入を決めました。
いまだ海外でも根強い人気があり、手頃で良好な個体はどんどん見つけにくくなっているZ32。
それでもこだわった条件は、屋根を外して開放感を味わえるTバールーフ・走らせて楽しい5速マニュアル・うっかり速度が出過ぎずに燃費も比較的良いNA仕様……という3つ。
走り屋御用達のターボでないのに走り屋がこだわるMTという、なかなかに希少な条件でした。
それでもひなこさんは、在学中に取った運転免許のAT限定を解除して、真剣に探します。
その熱い思いが伝わり、同じクルマ好きの仲間たちのツテから、栃木県内のショップで希望通りの一台にたどり着きました。
中古車情報サイト未掲載だった委託販売車両。3オーナーが乗り継ぐ間ずっとこのショップが整備を続けた、走行距離12万キロの程度良好な個体でした。
さらに偶然にも、昔お父さんが乗っていたZ32と、ミッション形式が違うだけのそっくりな仕様だったのです。
ひなこさんのお父さんが乗っていたのは、NAの2by2、TバールーフのAT仕様。フルノーマルのまま大切に乗っていたそうです。
購入前、「Z32が欲しい」とお父さんに相談すると、「そんなクルマはやめておけ」とつれない態度。すでにネオクラシックになりつつるスポーツカーは、ついこの前までAT限定免許だった自分の娘が最初に乗るには、ハードルが高いと思ったのかもしれません。
そこでひなこさんは、お父さんに黙ったまま先に契約。大学卒業式の日に、お父さん宛てにしたためた感謝の気持ちを伝える手紙の最後で、「もう買っちゃって、ローン審査も通りました」と、しれっと事後報告しました。
意外にもお父さんは怒ることなく、「あ、そうなん」とだけ答えたそうです。
先月30日に納車されると、さっそくお父さんのZ34と一緒に2台でトライブに繰り出しました。
いつの間にかお父さんも「お前の(Zの)ほうがかっこええやん」と、娘のZ32を見てはうれしそうな様子です。
ひなこさんはさらに、購入を決めてからずっとやりたかった写真撮影を決行します。
小さい頃から祖父の家で見ていた、お父さんとZ32の古い写真。それと同じ場所で、同じ構図で自分と愛車を撮るのがひなこさんの秘めた願いでした。
場所は祖父の家のガレージ前。
普段から「写ルンです」を愛用し、レトロ風味な写真を撮るのが趣味というひなこさん。念願のこの写真も、そのテイストで撮るつもりでした。
しかし、いざ撮ろうとしたらすでにフィルムを使い切っていたという「昭和~平成あるある」な痛恨のミス。
やむなく叔父にスマホで撮ってもらったそうです。
22歳で買った初めてのマイカーが、22年落ちのZ32となったひなこさん。
現代のクルマに比べて車高が低くドライバーの目線も低いため、ちょっとのスピードでもカートみたいに速く感じるのが面白いそうです。
駐車場でお気に入りポイントのテールランプを眺めるたびにうっとりしながら、お父さんのZ34とのツーショット写真も、たくさん撮り始めています。
今回の反響についてひなこさんは、「正直、こんなに反響があると思わなかったです。Z32がたくさんの方の憧れの名車であり、そんな車を所有できてとても光栄だなと、あらためて感じました」と話しています。
さらに、若かりし頃の自分の写真がまたたく間に拡散したお父さんの受け止めも、恐るおそるひなこさんに聞いてもらいました。
お父さんは「スポーツカーの良さを知ってもらえてよかったです。あと、コメントやいいねをもらえてうれしい」。
照れ隠しからかそっけないですが、娘さんとの時代を超えたコラボへの反響に、まんざらでもない様子が伝わります。
クルマ好きのひなこさんは、この親子の思い入れたっぷりのフェアレディZで、全国のクルマ好きのオフ会に参加したりモータースポーツ大会を見に行ったりしたい、とのこと。
そして将来は、トヨタの2代目ソアラなど、乗ってみたい憧れの名車がたくさんあります。
ですが、このZ32はずっと手元に置いたまま、次のクルマは増車で買い足す! 早くもそう心に決めているそうです。
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