連載
#99 #父親のモヤモヤ
46歳で父になった社会学者、「強いオトコ大人」社会が阻む子育て
工藤さんは、共働きの妻、息子(7)、娘(3)の4人暮らしです。結婚は45歳。1人目の子どもが生まれた時は、46歳でした。
子育てや家事をして暮らす中で感じたことを新著『46歳で父になった社会学者』(ミシマ社)につづっています。
妻の妊娠を聞いた工藤さんは、こんなことを思います。
「子どもが成人するときは66歳。少なくともそこまでは大きな病気をすることなく元気でいたいなぁ」
「自分の年齢と健康のことだけが気がかりだったのだ」
一方の妻は違いました。「母親になる」ことに不安でいっぱいでした。「子どもを好きになれるか」「仕事で周囲に迷惑をかけないか」「キャリアが中断されるのではないか」
工藤さんの妻は、出産後9カ月で職場に復帰しました。工藤さん自身、子育ても家事も分担していました。ただ妻は、病気がちな子どもの世話をしながら、仕事も滞りなく進めようと無理を重ね、体調を崩してしまいました。
平日の夕食づくり、子どもが寝るまでの相手と家事。息をつく暇もなかった生活が、さらに忙しくなりました。
工藤さんは、別の編著『〈オトコの育児〉の社会学』(ミネルヴァ書房)で、「父親である」と「父親になる」は異なると書いています。
「父親は育児をすることで、父親になる(なっていく)と考えらえる」
「子どもを授かったことで父親であることはできるが、それだけでは、父親にはなっていない」
『46歳で父になった社会学者』では、「父親になった」工藤さんが感じた心の機微や考察がつづられています。
例えば、子どもを連れて、動物園や公園に行く場面。そこでは、子どもをのびのびと遊ばせる姿が描かれます。しかし、そこに向かう電車の中では、ベビーカーをたたみ子どもを抱っこします。「迷惑をかけないように努力しています」というパフォーマンスのようだ、と工藤さんは自身の行動を表現します。
動物園も電車も同じ「公共」の空間。なのになぜ、親の態度にこうも違いがあるのか。そんな考察を重ねます。
工藤さんは「父親」としての感覚を語ります。しかし、社会全体では、父親と母親の負担に大きな偏りがあることが、依然として大きな課題です。
総務省の「社会生活基本調査」によると、1日のうちで育児をしないと答えた夫の割合は約7割です。共働き家庭でも、専業主婦家庭でも、ほとんど変わりません。
父親自身の意識変化も必要ですが、男性の子育てを阻むものがあるとすればそれは何でしょうか。
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