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「何でもいい」が一番困る 1万5千円渡され知ったお母さんの努力 

「おいしいと思うなら素直に言おう」

キッシュを作った際の、手描きレシピ。作った後の感想も書き込んでいる=赤羽柚香さん提供
キッシュを作った際の、手描きレシピ。作った後の感想も書き込んでいる=赤羽柚香さん提供

目次

ちょうど1年前、新型コロナウイルスの感染防止のため、子どもたちは何カ月にもわたる休校に直面しました。与えられた食費の範囲内で家族のために作る食事。当たり前のように感じていたお母さんの工夫や思いに気付いたという中学生に話を聞きました。

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休校で寂しい…そんな時、お母さんから提案


話を聞かせてくれたのは、2020年度末にかけて多摩生徒会協議会が主催した「全国オンライン学生祭」での企画の一つ、「全オン祭NEWS『コロナと学生の今』」のwithnews賞を受賞した、赤羽柚香さんです。(全国オンライン学生祭についての記事はこちら)休校時は中学2年生で、現在3年生。東京都内に住んでいます。

「休校が始まってから1、2週間は『やったー』という感じだったんですが、どんどん友だちと会えない寂しさが出てきて…」
赤羽さんは1年前の心境をこう話します。

最初のうちはテニスコートに行って身体を動かしていましたが、「だんだん人も増えてきてしまって…」と、自宅で双子の姉とゲームをしたり、友だちと2時間以上電話をしたり、学校から出た課題に取り組んだりしていました。

ただ、時間を持てあましてしまっていた感は否めず、「夕方、仕事から帰ってきたお母さんからしたら、自分が疲れている横でダラダラされているのがイヤだったんじゃないかなあ」と振り返ります。

そんなお母さんからある日、提案がありました。
「1万5千円を渡すから、家族4人分の食事をつくってみたら?」
 

「料理の部活に入っているけど、目的は…」

赤羽さんは、料理に取り組む部活動に入るなど、料理に苦手意識はないものの「野菜の皮を剝くのも、ピーラーを使わないとできないくらい不器用」。
そんな赤羽さんへのお母さんの提案は、「『もう少し料理をやったら?』というお母さんの思いもあったんだと思う」。渡されたお金で何回分の食事を作るかなどの細かいルールはありませんでしたが、「余ったお金は好きなものに使っていい」という言葉にもひかれ、双子の姉と一緒に提案に乗ることにしました。

実は赤羽さん、料理の部活にこそ入っていますが、その目的は「料理をしたいというよりは、食べるのが好きなので、食べたくて入ったんです」と笑います。
部活ではミートソースパスタやレモンケーキ、おもちピザなどを作りましたが、自宅でそれらを作ることはこれまでほとんどありませんでした。

そのため、お母さんから出された課題に取り組むことが、ほぼ初めての家族のための食事作りに。
「お母さんに教えてもらいながらロールキャベツをつくったり、キッシュやパスタ、デザートも作りました」

デザートで作ったフォンダンショコラ=赤羽さん提供
デザートで作ったフォンダンショコラ=赤羽さん提供

2カ所のスーパーで買い物する理由がわかった

バラエティーに富んだメニューに挑戦する一方で、大変だった点を二つ挙げます。

「まず、品数です。私は食べられればなんでもいいタイプなんですが、お父さんのこだわりが強い。サラダと副菜2品は絶対で、献立の中には肉料理とお魚料理の両方が入っていないといやなんです」

それに伴い、大変だった点の2つ目が発生します。
「品数を多く用意する上で、『節約』が大変でした」

そこで赤羽さんが気付いたのは、「お母さんの日々の努力」でした。

「以前買い物についていったとき、2カ所のスーパーに分けてお母さんが買い物をしていたんです。当時は『1カ所で一気に買っちゃえばいいのに』と思っていたんですが、今回の経験を通して、同じ個数が入った野菜でもスーパーによって値段が違うことがわかりました」

「母特製プリン」のレシピ=赤羽さん提供
「母特製プリン」のレシピ=赤羽さん提供

「おいしい」の一言の偉大さ

休校期間中、食事作りに取り組んだのは数回でしたが、赤羽さんは「私は料理をするのが好きなんだ」ということに気付いたそう。
「作る過程で、『これがこんな風になるんだ』とか『良いにおいがしてきた』とワクワクしたりするのが結構楽しかった」と赤羽さん。

そして、「美味しい」の一言の大切さにも気付きました。
「私が作った料理を、両親は『おいしい』と言って食べてくれました。逆に『おいしい』って言われないと複雑な感じあります」
これまで、「言った方がいいんだろうな」という思いから、「本当においしんだけど、言葉にするときは義務的な感じで言っていた」という赤羽さん。
自分が料理をする立ち場になって「おいしいと言われることがうれしいとわかったので、おいしいと思うんだったら素直に言おうと思いました」

今年の春休みは、両親が仕事で不在のときは「ちょっとお昼ごはん作ってみようかな」という気分になったといいます。「実は今日の夕食も姉と一緒に作る予定です。二人で料理にはまっています」
また、今後挑戦したい料理の一つに「肩ロースのトマト煮込み」を挙げてくれました。「休校期間中に『作ってみたい』と言ったら、お母さんには『まだ難しいよ』と言われてしまったので、いつか作ってみたいです」

ちなみに、食事作りのために渡された資金は少しだけ余り、双子の姉と分け合って貯金に回したということです。

withnews賞「芽生える感謝の思い」

withnews賞を受賞した赤羽さんの記事全文はこちら
     ◇

「芽生える感謝の思い」

何日も外に出ない日が続いた今年度の春。私は母からある課題を与えられた。それは、休校中、支給された一万五千円で二人分の昼食と家族の夕食を作る、というものだ。母は十八時ぐらいまで仕事に行っているため夕食の準備をするのがとても疲れる、という。そんなときテレビで、子どもにお金を支給し、それで長期休暇中の食費をやりくりさせている家庭の様子を見た。そこで母は、「うちの子供たちはどうせ家でだらだらとしているのだし、我が家に合うようにこれを改良して、うちの子たちにもやってもらおう」と考えたのだった。
正直なところ、課題が与えられた当初は「めんどくさい」と思っていた。しかし、残ったお金はあなたにあげる、と母が言うので、自分の好きなもののグッズを買うための資金にしよう、と課題を受けた。ご飯を帰宅後に作らず済むという母と、お小遣いがほしいという私で利害が一致したのだ。
結果、やってみると想像以上に難しかった。和・洋・中が一食に混ざらないように、また前三日ぐらいと同じようなメニューにならないように、と考えるのはとても頭を使わなければならず、「学校の授業より頭を使った」と一緒に取り組んだ姉は言う。母はここからさらに栄養バランスや自分以外の好き嫌いを考えているのだ、と思うと、いかに毎日の献立を考えることが大変なのかを知った。
以前、母に「夕食何がいい?って聞いたときにさ、何でもいいって答えるのやめてほしい。その答えが一番困る。」と言われたことがある。当時は「本当に何でもいいのだからそんなこと言われても。」と逆に困惑し、そんなことを言う母に少しいら立つ気持ちもあった。しかし、今ならその気持ちがわかる。「献立を考えるのは本当に大変だけど、作るのなら家族が食べたいものを作ってあげたい」と思ったうえでの質問に、どうでもよさそうに答えられると誰だって腹が立つと思う。経験しないと母の気持ちが分らなかったのは自分でも不甲斐ないが、今回、母の思いを知ることができてよかったと思う。
新たな趣味も発掘
今回の課題で得たものはこれだけではない。新たな自分に気づくこともできた。それは、私が料理をすることが好き、ということだ。実は、私は学校で料理をする部活に入っている。そのため他の人よりは料理をすることに抵抗感はなかった。しかし、部活がない日はほとんど料理をしないし、部活も、「友達や先輩と一緒に料理をする」ということを楽しんでいた。だから、自分一人で料理をして、こんなに楽しむことができるとは思っていなかったのだ。
料理の楽しさに気づき、はまってからは自分のレシピ帳を作るようになった。部活で作ったものや今回の課題で作ったものなど、実に二十以上のレシピが記されている。今後も多くのレシピを記載できればと思う。

編集後記
私は今回母から与えられた課題によって、様々なことに気づき、発見することができた。今後も多くのことに挑戦し、新たな気づき・発見をし、それを大切にしていきたいと思う。

    ◇

この記事は、2020年度末にかけて多摩生徒会協議会が主催した「全国オンライン学生祭」での企画の一つ、「全オン祭NEWS『コロナと学生の今』」のwithnews賞「芽生える感謝の思い」を元に、筆者に取材をしたものです。

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