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フィギュア女子選手の食事管理 浅田真央さんが教えてくれたことは…

2008年から2年間浅田選手の専属栄養士をつとめた河南こころさんに聞きました

バンクーバー五輪に向け、浅田真央さんの専属栄養士として支えた河南こころさんに取材しました。写真はバンクーバー五輪表彰式での浅田さん=上田幸一撮影
バンクーバー五輪に向け、浅田真央さんの専属栄養士として支えた河南こころさんに取材しました。写真はバンクーバー五輪表彰式での浅田さん=上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

目次

フィギュアスケートは、繊細な競技です。体重の増減はジャンプの精度に影響します。さらに、芸術性を求められることから、多くの女子選手が苦労するのが、体重のコントロールです。14年間の競技経験のある筆者も、毎日体重計に乗って記録していました。そもそも、スケート選手はどんな食事をしたらいいのでしょうか。浅田真央さんの選手時代、食事のアドバイスをしていた管理栄養士の河南(かわなみ)こころさんに聞きました。

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毎日体重計で管理

見た目の美しさも重要とされるフィギュアスケート。筆者も特に成長期のときには、体形にかなり気をつけていました。毎日練習後にコーチ室で体重計に乗り、折れ線グラフをつけていました。お菓子や油ものは控えるように言われ、1年に1度くらい、コーチから「絶対午前中に食べるんだよ」と渡されたドーナツのごほうびがおいしかったこと。懐かしいです。

スケート自体はかなり強度の高いスポーツです。9時間程練習したときには、練習前より1~2キロ体重が落ちていることもありました。
しかし4分間のプログラムを滑るにはスタミナが必要で、体重を落としすぎるのもよくありません。マラソンをしながら足に重りをつけて走り幅跳びを何度もするようなイメージです。きちんと栄養も摂取しなければなりませんでした。
夜の9時や10時ごろまで練習があるので、合間には手作りのお弁当を食べていました。祖母の作ったお弁当は栄養たっぷりで、ほうれん草のおひたし、肉巻き、切り干し大根などが大好きでした。

体重のコントロールと健康維持の両立

フィギュア選手が体重コントロールをする理由の一つが、ジャンプの精度に影響するためです。繊細な競技で「ベストな体重」を保つことが難しいのです。
成長期になると、身長が伸びた分、空中での軸がぶれやすくなります。同時に体重も大幅に増えてしまうと、跳び上がるときの力がより必要になる上、着氷のときの衝撃もより強くなってしまいます。多くの女子選手は成長期にスランプに陥ることがあります。
思春期に体重管理の問題にぶつかると、摂食障害になってしまうこともあります。体重管理にはメンタルのコントロールも大切になってくるのです。

トップ選手で摂食障害を経験した選手もいます。鈴木明子さんは、18歳で摂食障害になり、半年以上、リンクで滑ることができませんでした。復活を遂げ、2013年の全日本選手権で逆転優勝、ソチ五輪にも出場しました。元全米女王でGPシリーズ2度制覇など成績を残したグレイシー・ゴールド選手は、2015年ごろから不調を訴え、17年秋には米フィギュアスケート協会を通じてうつ、不安障害、摂食障害の治療を続けていると明かし、平昌五輪をあきらめました。平昌五輪銀メダリストのエフゲニア・メドベージェワ選手も自身のSNSで摂食障害に苦しんでいたことを明かしたと、今年ロシアのメディアが報じています。

浅田真央さんの管理栄養士

管理栄養士の河南ころろさん
管理栄養士の河南ころろさん

バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央さんの栄養サポートをしていた、管理栄養士の河南(かわなみ)さんは「審美性の競技では体重は軽い方が良いという風潮がまだまだ根強く残っているように感じます。しかし、筋肉がなければ体を支えることが難しくなりますし、成長期で身長が伸びると必然的に体重は増えます」。他の選手と比べてしまうことについても心配しています。「比較して『私は体重が重たい』と思うかもしれませんが、その選手とは身長差もあるでしょうし、持って生まれた体型の違いもあります。体重を増やさないようにするために食べなくなると、必要な栄養素もとれなくなっていまい、バテやすくなったりケガをしやすくなったりします。さらに進行すると、摂食障害に陥ってしまうかもしれません」と危惧しています。


筆者は、保護者が子どもの体重管理のために炭水化物を抜いた食事を与えていると聞いたことがあります。河南さんは「悪もの扱いされがちな炭水化物(糖質)ですが、アスリートはもちろん一般の方にも必要な栄養素です。体はさまざまな栄養素が助け合ってつくられているので『これさえとっていれば大丈夫』という食べものはありません。栄養素も偏ることなくとることが重要です。そのためには、バランス良く食べることを心掛けてほしいです」と 話します。

浅田選手の焼き肉の食べ方は

バンクーバー五輪の表彰式で、銀メダルにキスをする浅田真央選手=上田幸一撮影
バンクーバー五輪の表彰式で、銀メダルにキスをする浅田真央選手=上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

河南さんは2008年から2年間、浅田選手の専属栄養士となり、2010年のバンクーバー五輪銀メダル獲得まで、支えてきました。その後もバレーボールの実業団や、トップリーグ所属のラグビーチームなどをサポートし、現在は、プロ野球オリックス・バファローズの管理栄養士として活躍しています。

浅田さんから届く食事内容の報告にアドバイスをしていました。
ただ、浅田さんは自分でしっかり管理できていたそうです。ごくたまに焼き肉店に行っても、バランスを考えて食べていたといいます。
「肉は2~3枚で、キムチやビビンバなど、野菜もしっかりとっていました。『スケート選手なんだから焼肉はだめ!』と頭ごなしに否定するのではなく、食べ方を考えればいい。その点で真央さんは意識が高いなと脱帽しました」といいます。

浅田選手に教えてもらったこと「食べる楽しさ」

多くのアスリートに関わってきた河南さんは、浅田さんとの出会いで食事との向き合い方を変えたといいます。
「真央さんは、大会などで訪れた土地の名物の食べ物についてよく話していて、楽しそうに食事をしているのが印象的でした。『食べることが好き』というのが伝わってきました」
食事の制限がありながらも「楽しく、おいしく食べることの大切さ」に気づかせてくれたといいます。
それまでは選手の栄養バランスにだけ集中していましたが、楽しく食べるにはどうしたらいいかを考えて選手の気持ちに寄り添えるようになったといいます。
浅田さんに直接会えないことも多く、定期的に手書きの壁新聞のような「えいよう新聞」を作成。イラストを交えて心を込めて作りました。2008年5月に1号を発行、全20号までになりました。浅田さんは他の選手に「これ、真央のだよ」と言って大切にしてくれていたといいます。

河南さんが、浅田さんのために手書きで作った「えいよう新聞」の第1号
河南さんが、浅田さんのために手書きで作った「えいよう新聞」の第1号 出典: 河南さん提供

主食、主菜、副菜、乳製品・果物 5つのバランスを

成長期の女性アスリートが食事で気をつけることはなんでしょうか。
河南さんは、1日の活動量に合わせてカロリーを計算することをすすめます。
「食べなければ食べないほど良い、と思ってしまうとどんどん精神的に追い込まれてしまいます。そうではなく、食べてもいい目標となる数値があれば、気持ち的にも安心して食べられるようになります」

朝食も含めて、主食、主菜、副菜、乳製品、果物をバランスよくとることが大切だといいます。ただ、5つのバランスを考えて何品もたくさん作る必要はありません。「特に、朝ご飯は5つすべてとるのが難しいと考えがちです。でも、そんなに難しくありません。たとえば、パンに、ハム・タマネギとピーマンとチーズをのせてピザトーストにすれば、主食、主菜、副菜と乳製品をクリアします」と提案します。

農林水産省のホームページの食育のページでは「毎日食べている給食には、『食事バランスガイド』にある主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物という5つの料理グループがそろっています」と紹介している
農林水産省のホームページの食育のページでは「毎日食べている給食には、『食事バランスガイド』にある主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物という5つの料理グループがそろっています」と紹介している 出典:農林水産相実践食育ナビ

カギはいかに自分に無理なく継続することができるか、ということでした。河南さんは「長く続けられる食事方法にしなければなりません。急に食事量を減らしたり、炭水化物を抜いたりしても、それではずっと続けることができません」と話します。


どうしてもカロリーばかりを考えてしまう食事。毎日の生活にかかわるからこそ、「楽しく食べる」という大切な考え方に改めて気づきました。

スペースで音声配信します

4月22日の午後12時半~、「世界国別対抗戦(4月15日~18日、大阪)」を振り返る、音声配信を予定しています。普段はライバル同士の選手たちが団結し、日本は3位となりました。経験者ならではの「あるある」や「こぼれ話」もお伝えする予定です。 twitterの音声SNS機能「Spaces(スペース)」を利用します。スペースはツイッターが入っているスマートフォンからならます。誰でも自由に出入りできますので、ランチの休み時間に「ながら聞き」してみてはいかがでしょうか。 こちらのいずれかのアカウントから参加してください。

橋本佳奈@hashikana1218、奥山晶二郎@o98mas、 withnews@withnewsjp

出演者:withnews編集長・奥山晶二郎(北海道出身・スピードスケート経験者)、withnews編集部記者・橋本佳奈(フィギュアスケート競技歴14年)

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