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「テレワーク 九九の呼吸が 漏れ聞こえ」 川柳作った商店主の関西魂
「テレワーク 九九の呼吸が 漏れ聞こえ」。働きながら子育てに奮闘するパパとママの日常をテーマした「働くパパママ川柳」。5回目となった今回は、6万1813句が寄せられました。働き方の変化やアルコール、マスクなど、新型コロナウイルスの感染拡大によって様変わりした生活を切り取った作品が多く、大賞もテレワークと昨年大ヒットした「鬼滅の刃」を掛け合わせた一句に。受賞者は、商店街のお祭り好きな店主です。「この1年、暗い話題が多かったけど、みんなに笑ってもらいたくて。クスっとなるような川柳を考えました」と話します。
大賞に選ばれたのは、兵庫県に住む西灘っこさん(49)。「テレワーク」や「呼吸」といった時代を切り取るフレーズを取り入れ、自宅で子どもをそばに感じながら仕事を頑張る様子を表現したことが評価されました。
西灘っこさんは家業を継いで、商店街で印刷関係の仕事をしています。2人の子どもは高校生以上で、育児真っ最中ではありませんが、作句にあたっては、学生時代の友人との「オンライン飲み会」がヒントになりました。
「コロナが流行して、リアルには飲み会もしづらくなったので、オンラインですることもあるのですが、あるとき子どもの声が友達の背後からしてクスッと笑ってしまったんです。漏れ聞こえてくる感じがかわいらしいなと思いました」
国民的漫画になった鬼滅の刃の人気フレーズ「○○の呼吸」も、商店街の仲間の子どもがきっかけでした。
「小学校低学年の息子が『九九の呼吸』と言って、かけ算の練習をする動画を知人がSNSに投稿していたんです。鬼滅の刃がはやっていたこともあり、ほほ笑ましく思ったことが頭の片隅にありました」
川柳を考えるときは「キーワードを書き出して、組み合わせることが多い」という西灘っこさん。今回もこの二つのエピソードに、「仕事中」というシチュエーションを組み合わせて、作句しました。
生粋の関西人である西灘っこさんは「面白くないとダメや」がモットーです。コロナの流行により、イベントや祭りなど顔を合わせてワイワイする行事がことごとく無くなってしまったのが「本当につらい」と言います。
西灘っこさんは昨年、店舗の前にモニターを設置し、商店街の映像を流し始めました。映像は徐々に変化し、違和感に気づくと脳が快感を覚える「アハ体験」ができます。「商店街を訪れた人に少しでも楽しんでもらいたくて。撮影、編集も見よう見まねでやりました」
川柳はコロナ禍の自身の楽しみとして、昨年末から始めました。「言葉遊びをするのが楽しいです。行動が制限された分、良い気分転換にもなっています」。できた句は同じく川柳を詠む三つ下の妹とLINEで見せ合っていて、応募前に見せたときは「まぁまぁやな」という反応だったそうです。
西灘っこさんも「まさか自分が大賞を取れるとは」と振り返る今回の受賞。一報を聞いたときは「だまされているのでは」とも思ったそうです。
「いまだに信じられない気持ちもあるのですが、受賞後、妹からは『おめでとう!まいりました!』とお祝いが、商店街の仲間からは『お役に立ててうれしいです』という声をもらいました。自分のフェイスブックでも報告したら、みんなが喜んでくれました。明るい話題を提供できたことがうれしいです」
オリックスグループが2017年から主催する、働くパパママ川柳。過去最多となった今回は、子育て世代の30~40代を中心に6~95歳の応募がありました。昨年に引き続き男性からの応募が半数近い45.9%あり、男性の育児参画の機運がますます高まっていると事務局。応募方法はWEBが87%、郵送が13%でした。
川柳家の尾藤川柳さん、爆笑問題の田中裕二さん、ジャーナリストの浜田敬子さんが特別審査員となり入賞したのは、西灘っこさんの大賞を始め19作品。「テレワーク ママより仕事 楽と知る」(パパ目線賞)や「居間は今 教室オフィス 保育園」(ママ目線賞)といった、在宅勤務と子育てを描いたものや、「アルコール 飲まず手に塗り 君をハグ」(ママ目線賞)「孫会う日 爺のマスクは 炭治郎」(優秀賞)などといった感染予防から発想を膨らませた句が目立ちました。
尾藤さんは「社会の変化を捉えた力作ぞろいでした」と総括。田中さんは「健康問題から一大ブームを巻き起こしたアニメまで『2020年』が集約されていて、楽しく読ませてもらいました」。浜田さんは「家族と向き合う時間が増えた一年、皆さんの家での経験がはき出されたリアルな作品が多かったと感じます」と選考を振り返りました。
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