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「都合のいいイクメン」がもたらしたデメリット 育児に必要な無力感

仕事の成果を減らしても許せますか?

「イクメン」という言葉の功罪……その使い方、「都合のいいイクメン」になってませんか? ※画像はイメージです
「イクメン」という言葉の功罪……その使い方、「都合のいいイクメン」になってませんか? ※画像はイメージです

目次

「イクメン」から「フツメン」へ。男性学が専門で大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さんは、育児も仕事も「無力感」を自覚することが大切だと訴えます。育児にかかわる時間が増えれば仕事の成果が減るのは当たり前なのに……それを、受け入れにくい現実があるのはなぜでしょう? 戦後から現代にいたる父親像を踏まえた、普通のメンズ(フツメン)による「キラキラしない子育て」について聞きました。

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田中俊之(たなか・としゆき)1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授。日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。男性学を主な研究分野とする。著書に『男性学の新展開』(青弓社)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
田中俊之(たなか・としゆき)1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授。日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。男性学を主な研究分野とする。著書に『男性学の新展開』(青弓社)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。

あいまいだった戦後の父親像

田中さんは、「イクメン」の言葉を考える際、忘れてはいけない点として、戦後の父親像のあいまいさがあると指摘します。

とにかく、家族の中で父親が一番偉く大黒柱であるという「権威主義」を否定することから始まったのが戦後の父親像だったという田中さん。裏返すと、「民主的な父親」というのはなんなのか「答えは出ていないまま今にいたっている」と言います。

「1960年代には揺り戻しも起きていて、石原慎太郎氏が1969年に著しベストセラーになった『スパルタ教育』には、男親は女親より偉くて、子どもを殴るのは愛情表現といったことが書かれている」

石原氏のような主張が出てきてしまうのも、「戦後の父親像がすごくあいまいで、お父さんというのがなんなのかわかりにくかったから」だと説明します。

そんな中、10年ほど前に生まれたのが「イクメン」という言葉でした。

田中さんは「イクメン」という言葉自体は「父親は仕事をしているだけではダメ。育児に関わらないといけない、という考えを伝えるには画期的だった」と評価します。

一方で、現在では弊害も目立つようになったと言います。


石原慎太郎『スパルタ教育』

仕事の成果は落ちてもいい?

田中さんが懸念するのが「企業に都合のいいイクメン」の広まりです。

「子育てのために短時間で仕事をして生産性をあげる。こういうタイプのイクメンはデメリットしかない」。それは、「企業に都合のいいイクメン」だと疑問を投げかけます。

「仕事の時間が制約されるなら成果物が少なくなるのは当たり前。〝出来る父親像〟は、普通の父親にとってプレッシャーになってしまう」

そのため、田中さんが提唱するのが「フツメン」の子育てです。

「私の場合、年に1、2冊の新書を出していたのが、今では数年に1冊。労働時間が減れば仕事の成果は落ちる。それでよしとするかどうかが問われている」


田中俊之『男子が10代のうちに考えておきたいこと 』

子育てに生産性は期待できない

田中さん自身、子育てをする父親の当事者となって思い知らされたのは「自分は何の役にも立たない」という事実でした。

「生き方を変えるほどの衝撃を受けた。逆に言えば、これまで、多くの男性は、自分の生き方を変えるほどの関わりを子育ちに持ってこなかったかもしれない。それを、女性に背負わせていた」

研究者として、父親として子育てに関わり見えたのは、生産性を求める「企業に都合のいいイクメン」が成り立たない現実でした。

「子育てに効率性は期待できない。子ども中心の生活を組み立てていく不合理さに向き合っていかないといけない」

それは専門の男性学の研究にもつながる経験になっていると言います。

コロナで社会は変わらない

2020年は、新型コロナウイルスによって家で過ごす時間が増え、リモートワークなどが広まった年にもなりました。

しかし、田中さんは「むしろ、ここまでのことが起きても社会全体はさほど変わってない」ことに驚いていると言います。

「東日本大震災も同じ。10年前、あれだけ関心が高まった電力のあり方についても、今、ほとんどの人が考えていない」

背景にあるものとして指摘するのが「強固に完成している社会の仕組み」です。

「リモートワークも、会社によっては、結局、すぐ戻ってしまった。この社会の仕組みを変える余地が我々にどれくらいあるのか、考えさせられた」

強固な社会を変える上で田中さんが注目するのが、1990年代に起きた「メンズリブ運動」です。

「男性たちが自分の不安を共有しようと集まった。子育てで自分の生き方が変われば、不安も生まれる。それを共有できる人がいたらいい」

田中さんが強調するのは、コロナのような外部からの変化ではなく、「自分たちがどうするのか」という人の意識のレベルでの変化です。

「フツメンによる普通の子育てを肯定するには仲間がいる。コロナで社会は変わらない」

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