リモートワークや時差出勤……「働く」が大きく変わった1年でした。そんななか在宅勤務の「あるある」や、メリット・モヤモヤを、ユーモアたっぷりに描いたマンガ「在宅勤務子ちゃん」が書籍化されました。Twitterでリアルタイムに作品を発信してきた一秒さんに、マンガに込めた思いを聞きました。
一秒さんが在宅勤務をテーマにマンガを描き始めたのは、2020年4月に初めて緊急事態宣言が出た頃でした。
「SNSでマンガ『100日後に死ぬワニ』が話題になって、私も〝何日後に何かが起きる〟という作品を描いてみたいと思っていました。そこで『出社まで何日』というカウントダウン形式で描き始めたんです」
マンガは、宣言下で在宅勤務が始まった会社員・在タク子が主人公。
最初は「すぐ休憩できる」「リラックスできる」「通勤時間がない」「私、在宅勤務の才能あるかも」と思っていたタク子でしたが、徐々に「雑談したい」「テキストのコミュニケーションって難しい」……と在宅勤務のしんどさも描かれていきます。
現在は漫画家として在宅勤務で働くことが日常の一秒さんですが、会社員として働いていた頃、週5で出社していた日々を思い出し、「いきなり在宅になったら、最初は『最高!』と思っていても、だんだんつらくなってくるだろうな……と考えました」と振り返ります。
1年前の宣言が出た時は、夫も完全に在宅勤務になり、子どもの保育園もお休みに。狭い部屋のなかでイライラが伝わり合うこともあって、育児と仕事の両立は難しかったといいます。
「緊急事態宣言が延長されたとき、自分で思っていた以上にショックを受けました。『あと少し我慢すれば外に出られる』と思っていたのに……タク子と同じように酒を飲みましたね(笑)」
外に出られないストレスを「食」で発散したり、近所の飲食店の閉店を知ってショックを受けたり……。一秒さんの思いを反映したマンガは共感を呼び、フォロワーは6000人以上増えたといいます。
マンガの終盤には、出社が決まったタク子の何げない「うらやましいな~マホはフリーだからこれからも在宅で仕事できるね」という言葉に、マホが「フリーや非正規の人の大半は不況になるって不安しかないよ」「『正社員』の恵まれた立場からそんなこと言わないで」と言い返し、けんかになってしまいます。
一秒さん自身が、独身のときに会社を辞めてフリーになり、「自分が倒れたらこれでおしまいだ」と心細く思っていたこと、会社員とは見え方が違うと感じていたことを描いたといいます。
「コロナ禍って、そういう立場の違いや壁を際立たせるものだったと思うんです」
作品を発信していた当時、「在宅勤務ができるだけいい」「自分は在宅勤務は全くつらくない」といった反応もありました。
そんな「立場の違い」を意識したことで、書籍化の際には、タク子以外のキャラクターにフォーカスを当てたマンガを描き下ろしました。
仕事が減って不安を覚えるフリーのマホ、宣言下でも出社しなければならなかった総務の久保さん、子どもがいて在宅勤務の違った困難さを抱える太田マネージャー、「ずっと在宅勤務でいい」「家から出たくない」と考えている太郎くん。
「在宅勤務ひとつとっても、さまざまな立場や思いの人がいるんだと改めて考えました。『働く』って人の根幹に関わる、アイデンティティーの深いところにあることなんですよね」
リモートワークが定着し始め、一秒さんは「在宅勤務がOKかどうかを会社選びの基準にする人もいるかもしれません。自分のライフスタイルにあわせた働き方を選びやすい時代に近づいていると思います」と指摘します。
一方で、コロナと日々向き合っている医療従事者はもちろん、スーパーといった小売業、現場に出る必要のある建設業など、在宅勤務ができない職種もたくさんあります。
一秒さんは「医療現場や、コロナで傷ついた人たちのことまで描けなかったことは心残りではあります」と語ります。
ただ、このマンガの制作を通じて「その場その場で、毎日をしぶとく生きていくしかないと感じました。ありきたりの言葉ではありますが、コロナ禍ってそんなストレートな言葉が染みる非日常な時代なんだと思います」。
『在宅勤務子ちゃん わたしたちのリモートワーク日記』(PHP研究所)は一秒さんにとって初の単著となりました。
「『あの時こんな風に思ってたんだ』『つらかったことって意外と忘れちゃうんだな』と振り返りながら読みました」と話します。
2年前に出産し、育児とマンガの両立が難しいのでは……と考えたこともありましたが、マンガ家を育成する「コルクラボマンガ専科」で学び始めたことをきっかけに、SNSで作品の発表を重ねてきました。
「2週間で終わると思っていた『在宅勤務子ちゃん』が50日間続き、本というカタチになりました。継続って大事なんだなぁと。そして、描くことで、私自身もタク子と一緒にあの時期を乗り越えられたんだと思います」