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テレ東局員がガチYouTubeに手を出したら、そこは「天国」だった

テレビ東京の高橋弘樹さんが製作責任者として関わる「日経テレ東大学」=テレビ東京提供
テレビ東京の高橋弘樹さんが製作責任者として関わる「日経テレ東大学」=テレビ東京提供

目次

プロデューサーとして、『家、ついて行ってイイですか?』などを立ち上げたテレビ東京の高橋弘樹さんは、この春からYouTubeに取り組んでいます。距離が近づいてきたとは言え、YouTube専用のオリジナルコンテンツを作るのはテレ東でもまだ少数派。高橋さんは早速「こんな天国ある?」と動画制作を謳歌しているようです。と同時に、ある危機感も。本格的にYouTubeに携わって感じたことをつづりました。

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日経とタッグでYouTube

「テレビは、もうヤバいかもしれない」

真剣にそう思った。

それは「web動画はテレビを作るより断然たのしい」、直感でそう思ったからだ。テレビ東京に入社して16年。ずっと映像制作に携わってきたが、ほとんどは地上波、BSなどテレビで放送する映像だった。

だが今年4月から、兼業でYouTuberになることになった。作り手として。「日経テレ東大学」という映像コンテンツの責任者をすることになったのだ。このサイトは名前の通り、日本経済新聞社とテレビ東京HDの共同事業だ。

急速に変化しているテレビ局

ことの発端は昨年。日経で、

「とにかく、おもしろい経済動画メディア作りたい! なんで新聞社が、ガチの動画サイト作っちゃいけないんだ! つくりたーーい!」

という若手・中堅のみなさんたちのあついプロジェクトが発足したらしく、テレビ東京に企画募集がきた。

これは、これまでのテレビ局ではありえないことだった。テレビ局の制作局と呼ばれるコンテンツ制作に携わる部署は、テレビで放送するコンテンツ制作に専念するのが普通だった。なぜなら、それが一番コストパフォーマンスが良かったからだ。

しかし、テレビ局は急速に変わりつつある。ここ数年、にわかにweb配信動画に力を入れ始めた。地上波の放送収入が下げ止まらないからだ。テレビ東京でも2020年には、(テレビもつくりながら)テレビ放送以外の映像コンテンツ制作も行うクリエイティブビジネス制作チームなる怪しいチームができて、私もそこの一員となった。

そして2021年には新たに、地上波放送以外のコンテンツ戦略を担う配信ビジネス局という名の部署ができ、これまで地上波放送を作ってきた制作局から、優秀な人材がポンポコ異動していった。

変わろうとしているのは日経も

そんな流れの中で、日経がテレビ東京に企画募集を投げかけた。その内容はやや衝撃的だった。web配信といっても、これまではテレビ放送の転用やスピンオフなどがメインだった。だが、この日経からの募集は放送が一切関係ない募集だ。

簡単に言うと、

「おい、テレビマン、YouTuberにならない?」

という募集だった。そしてコンペの結果、わたしの「日経テレ東大学」という企画が通った。

だが、これがいろんな意味でヤバかった。まず、企画書に書いたこの大学のコンセプトは

「あなたは、なぜ人がエロ本を一度しか読まないか、説明できますか?」

だった。

経済原理をしっかり学べば、実はその理由はわかる。大学時代に学べなかった、経済の基礎的な知識を、もう一度、たのしく学び直してみませんか?という趣旨だ。

とは言え、こんな企画を通すなんて、どうかしている。かたい会社だと思っていたが日経は本気で変わろうとしているのだと思った。

高橋さんが提案した企画書の一部=テレビ東京提供
高橋さんが提案した企画書の一部=テレビ東京提供

ヤバかった日経

そして、日経のスタッフがヤバい。顔合わせにきた日経の社員は、とつぜん新潟のご当地アイドルNegiccoのすごさを語り出した。妻と子どももNegiccoを応援しているのだそうだ。いわく
 
「全員が結婚しているアイドルなんていますか? Negiccoだけです。これこそが、これからのアイドルの形です」
 
と。

日経のど真ん中である証券部で記者としてならし、その腕を買われて新規事業を任されているとは思えない人物だった。どうかしている。

新潟を拠点に活動するアイドルNegicco=2018年12月
新潟を拠点に活動するアイドルNegicco=2018年12月 出典: 朝日新聞

そうかと思うと、slackの写真が毛沢東という、およそ日経新聞のイデオロギーと真逆のエンジニアが突然、「ちょっと日経本社に来て欲しい」と言い出す。何をするのかと思ったら、そのまま、日経の島耕作的なポジションの人物にプレゼンしに行くという。相談役である今のシリーズの少しだけ前のポジションにある人物だ。

プロジェクトメンバーで一番若い、その毛沢東エンジニアは、マスクで窒息しそうになりながら、熱をあげて日経の島耕作に、新聞社が動画制作をする重要性を説いていた。

「中華人民共和国は、今日、成立した」

かの有名な、1949年の建国宣言なみの熱いプレゼンに、日経の島耕作も真剣に耳を傾ける。

風通しがいいと言われるテレビ東京でも、よくわからない動きたてのプロジェクトを、若手が経営トップに説明することはほぼない。

そういう意味では、日経とは、かなり風通しがいい組織かもしれないとは思った。日経の島耕作は、すぐに説明された新プロジェクトのテスト動画をスマホで見ていた。

この会社は、いい意味でヤバい。

その日経の毛沢東エンジニアは、どちらかというと鄧小平だ。日経を改革開放しようとしているように見えた。鄧小平は言う。
 
「不管黑猫白猫,捉到老鼠就是好猫」
 
黒いネコだろうと、白いネコだろうと、ネズミをとる猫は、いいネコだ。経済報道の間口をもっと広げるため、メディアとして進化していくためなら、提案された企画が、日経とおよそ程遠いバラエティの手法であろうと、取り入れる、と。

テレビは、もうヤバいかもしれない

こうして、「日経テレ東大学」というYouTubeサイトは4月にオープンした。そして「テレビは、もうヤバいかもしれない」と思ったのだ。

冒頭で述べたとおり、web配信動画は、簡単にいうとメチャクチャ楽しい。なぜなら、何本動画をアップしてもいいからだ。つまり、好きな企画やり放題。これが、テレビマンからすると、「こんな天国ある?」という感じだ。

テレビの企画は100本出しても、1本通るか通らないか。そんな世界だ。テレビの企画を通すというのは、ただただ来る日も来る日も、報われるかわからないが、苦行をやり続けることで悟りの境地に到達しようとする修験者的なつらさがある。

だが、YouTubeは、好きなだけ企画やりほうだい。

これはテレビの世界から飛び込むと、ロウリュで徹底的に追いこんだ体を、キンキンの水風呂に投げいれたような、快感なのだ。

制約がないわけではない。予算が極めて少ない。だが、それは裏を返せば、カメラから、台本、演出、そして時に出演まで自分でこな「せる」ということに他ならない。

「せる」と書いたのは、それはすなわち、極めて自分の世界観を映像に反映できるメリットがあるからだ。分業がすすみ、どんなに小さくても数十人が関わることが一般的なテレビ番組作りでは、フォーカスのタイミングからナレーションの一言一句までこだわる立場になるまでに、相当の修行をつまなければならない。カメラマンや、放送作家など、スタッフの誰もに「演出」としての能力を認められることが必要だ。

これは10年単位の相当な時間がかかるし、そこまでいっても自分の世界観だけで番組を作ることは、やはり難しい。

これも、テレビという極度の糖質制限を続けたような体にとっては、つい一口食べてしまったら最後のクレミアソフトクリームのようなものだ。一度開通してしまった快楽の回路は、なかなか閉じない。

いかに「作り手の流出」を防ぐか

これが、「テレビがヤバい」と思った所以だ。もしこの先、テレビが凋落していくとしたら、それは「視聴者に見られなくなる」という表層の理由にあるのではない。その深層には、

「テレビを作るよりも、YouTube作る方がおもしろい」
    ↓
「テレビでなく、YouTube、つーくろ!」
    ↓
「若い作り手、どんどんYouTubeへ」
    ↓
「YouTubeのコンテンツが面白くなり、そちらへ視聴者が流入」

という流れが、構造的に横たわっている。そしてそれが、16年もテレビマンをやっていた身からすると、身にしみて痛いほどわかる。

本当に、糖質制限あけに、東北道のサービスエリアで食べた、クレミアソフトそのものだ。おかわりするに決まっている。

だとすると、テレビ業界がこれから向き合わなければならない課題は、明確だ。「視聴者に見られるコンテンツを作る」、という表層的な問題もさることながら、「作り手の流出をふせぐ」ための、企画選定、人材育成方法を構造的に考える必要があると思う。

「日経テレ東大学」より=テレビ東京提供
「日経テレ東大学」より=テレビ東京提供

テレ東に息づく「アングルは低く、志は高く」

構造的にといったのは、当然それらの課題はビジネスの問題にも直結してくるからだ。

まだまだ、テレビの良さはあるし、テレビ番組を作る楽しみももちろんある。そしてもちろん、激しい競争原理が働くからこそ、テレビが映像コンテンツとしてのクオリティを保っている、というのはもちろんわかる。そして、これまで、だから大丈夫だと、どこか自分をごまかしていた。

だが、いまは痛いほどわかる。
 
「作ってる方にしたら、そんなの一切関係なーい!」
 
ということだ。目の前に面白そうなことあったら、やるに決まっている。これは、やってみないとわからない。

「日経テレ東大学」という場で、YouTuberになって強くそう思いながらコンテンツを作った。もちろんテレビ放送と同じクオリティではない。

しかし、「大学時代もっと学んでおけばよかった!」「でも、やっぱつまんないと無理!」という、ビジネスパーソンのニーズに応えて経済をたのしく学べる場所にしたい、といえば聞こえはいいが、つまるところ、そう思う自分自身の思いや理想を少しでも実現すべく、いろいろな映像コンテンツを作ろうと思う。

「日経テレ東大学」より=テレビ東京提供
「日経テレ東大学」より=テレビ東京提供

コンセプトは、日経の島耕作も見てるということなので、表向き
 
「なぜエロ本を一度しか読まないか、説明できますか?」

から
 
「『令和のオトナ』に必要な『真の教養』を、誰でも『自由で平等』に! できれば、そこそこ楽しく! 」

に変えておいた。とりあえず、概要欄だけ。だが、あながちウソではない。

テレビ東京に30年ほど前から伝わる格言がある。
 
「カメラアングルは低く、志は高く」
 
最新のカルチャー情報や、料理レシピを、お色気に包んでお届けしていた教養番組、ギルガメッシュナイトのスタッフの間で、合言葉とされていた格言だ。

お色気番組はテレビからほぼ絶滅し、カメラアングルを低くする必要はなくなった。だが、この精神は今でもテレビ東京に生きている。
 
「お高くとまって、気取るのではない。ゲラゲラ笑える、『くだらない』、楽しいものを作ろう。でも、忘れてはならない。その奥底にしのばせた『志は高く』」

日本一、志の高い、くだらない、大学にしていこうと思う。
 
あ、朝日新聞のメディアで、長々と日経新聞の話、すみません。こんど遊びにきてください。

テレビ東京の高橋弘樹さん=河原夏季撮影
テレビ東京の高橋弘樹さん=河原夏季撮影

高橋弘樹 テレビ東京制作局プロデューサー・ディレクター。これまでの演出・プロデューサー番組に『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』『家、ついて行ってイイですか?』『逆転無罪ミステリー』など。著書に『TVディレクターの演出術』『1秒でつかむ』など。日経テレ東大学では、「教授」に就任し、制作を統括する。

【日経テレ東大学 開講予定授業 一覧】
<経済学部>
  ◯チャラすぎるミクロ経済学   ◯YOUは何しに日本株へ?  
  <経済文学部>
  ◯ラーメンDEビジネス名著   ◯脱サラの履歴書 
 <教養学部>
  ◯4歳でも分かる!にっけいしんぶん
 <経営学部>
  ◯社長、エントリーシート書いてもらってイイですか? 
  ◯産業スパイのための「やばい会社」経営学 
 <政治学部>
    ◯ウザすぎる社内政治学 概論
<スポーツビジネス学部>
    ◯ウィニングNIKKEI馬

【大学紹介動画】
https://www.youtube.com/watch?v=jnZ7bim6TLE&t=2s
【チャラすぎるミクロ経済学】
https://www.youtube.com/watch?v=SbVUhsncJMI&t=192s
【YOUは何しに日本株へ?】 
https://youtu.be/RWdHkD6XJbg

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