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連載

#2 Key Issue

健康食品「上がって下がった」支出の推移 コロナ禍“危機感”の実態

コロナ禍で売れ行きが好調だという健康食品だが……。※画像はイメージ
コロナ禍で売れ行きが好調だという健康食品だが……。※画像はイメージ 出典: PIXTA

目次

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、健康意識が向上した人も多いことでしょう。それに応じるように、総務省の統計によれば、2020年平均の健康食品への支出は前年比で増加、ここ数年の市場の停滞を抜け出していたことがわかりました。

しかし、より詳細に推移を確認すると、1年の中でも変動が。そもそも病気を治したり防いだりする効果はない健康食品への、コロナ禍における支出の推移からは、人の“危機感”の実態が浮かび上がってきます。(withnews編集部・朽木誠一郎)
 
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朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)
医療記者、withnews副編集長。専門分野はネットと医療、ヘルスケアビジネス。著書に『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー・トウェンティワン)、『医療記者のダイエット』(KADOKAWA)。2014年群馬大学医学部医学科卒。
 

「買い控え」の中、健康食品が復調

総務省の調査から見えてくるのは、新型コロナウイルスの感染拡大によってお金を使う機会が減っている中、「健康食品」の売れ行きが好調だということです。

総務省の統計局は、「家計調査」を毎月、実施しています。家計調査とは、一定の統計上の抽出方法に基づいて選定された全国約9000世帯を対象に、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査するもの。2021年2月5日に2020年の年間の調査結果が公開されたばかりです。

この2020年の年間平均によれば、2人以上世帯の同年の消費支出は、1世帯あたり27万7926円。前年比は実質(名目から物価変動の影響を除いた数字)で5.3%の減少でした。総世帯(2人以上世帯に単身世帯を加えた数字)では、1世帯あたり23万3568円で、前年比は実質6.5%の減少。この結果は比較可能な01年以降、最大の下げ幅です。

一方で、実収入は2人以上世帯・単身世帯ともに増加。2人以上世帯では実質4.0%の増加です。2年連続のプラスで、上げ幅は01年以降で最大となりました。この増加には一律10万円の特別定額給付金が影響したとみられます。

支出は大きく減少していますが、収入も増加している、コロナ禍の不安を反映した買い控えの状態であるともいえます。

このような社会情勢の中で、1世帯あたりの支出額を前年比で増やしたのが「健康保持用摂取品」、サプリメントを中心としたいわゆる健康食品です。実は健康保持用摂取品の支出額が年平均で増加するのは2016年以来、4年ぶりのことです。

2人以上世帯の健康保持用摂取品の1世帯当たり支出額は1万4427円となり、前年比は名目で8.2%増加しています。総世帯における同年の健康保持用摂取品の支出額は、1世帯あたり1万3594円で、前年比は名目で3.6%の増加。ただし、単身世帯の1世帯あたり支出額は1万2034円で、前年比は名目で5.2%減少しています。

このことから、コロナ禍で健康意識が高まり、2人以上の世帯ではサプリメントを中心としたいわゆる健康食品をこれまでより購入するようになったことがわかります。ダウントレンドだった健康保持用摂取品の市場が復調するのでは、と見る向きもでてきました。ただし、年内の推移をみると、イメージはやや変化します。
 

後半は減少、「コロナ慣れ」か

2020年全体では伸びた「健康食品」ですが、総務省の調査を少し詳しく確認すると、2020年の前半と後半で様子が違うことがわかります。

2020年の月ごとの支出額に注目してみましょう。2人以上世帯について、名目の前年同月比は2月以降8月まで7カ月連続で増加していました。1月は名目で7.8%減からスタートしましたが、2月は7.1%増、3月は6.7%増、4月は22.5%の増加。4月の上げ幅はコロナ禍で需要が拡大した乳製品や酒類とほぼ同等でした。

以後、20%前後の上げ幅が続き、8月は51.7%の増加を記録。しかし、9月には21.2%の減少を示します。10月に0.2%増とやや回復しましたが、11月・12月は3.4%減・6.2%減と、2カ月連続の減少でした。

振り返ると、2020年前半の支出が大幅に増加し、後半は減少、年間で増加という結果。ここで浮かび上がってくるのは、消費者の健康意識の変化です。

コロナ禍の社会情勢と照らし合わせてみましょう。2月は新型コロナウイルスという単語をニュースで頻繁に耳にするようになった時期、3月は「ステイホーム」が推奨されるようになった時期で、4・5月は一度目の緊急事態宣言中。ここでの健康食品需要は伸びています。

それが明けて7月の下旬にかけて再度、全国的に感染者数が増え始め、8月はいわゆる第二波の真っ最中。伸び続けていた健康食品の支出は前年同月比50%を超えました。

この第二波が収束していったのが9・10月。9月で健康食品への支出の前年同月比は一気に下がり、10月は例年並みの水準に。

ここから11月はいわゆる第三波と呼ばれる状態に陥り、2021年1月の二度目の緊急事態宣言につながりました。

これまでの流れであれば、11・12月の健康保持用摂取品の支出は増加しそうですが、前年同月比で逆に減少したことは非常に示唆的です。

この時期、特に11月25日からはいわゆる「勝負の3週間」として集中的な対策の呼びかけが行われましたが、感染拡大に歯止めがかからず、「コロナ慣れ」と呼ばれる状態が指摘されています。

そして「コロナ慣れ」にもつながる私たちの“危機感”の実態は、ここで示した健康食品への支出の推移からも見て取ることができるのです。
 

私たちの“危機感”の実態

「上がって下がった」コロナ禍の健康食品需要。ここで忘れてはならないのが、健康食品には「病気を治したり、防いだりする効果はない」という原則です。

「健康」食品というネーミングから「なんとなく健康に良さそう」と思っている消費者も多いことでしょう。しかし、これはあくまで「良さそう」なだけ。もし、その商品が新型コロナウイルスの感染予防対策になるなら、それは医薬品として認められているはずです。

では、健康食品とは何かと言えば、あくまでも「食品」。そのような効果はありません。消費者庁も長らく注意喚起していますが、例えば2017年10月に発行した『健康食品 5つの問題』というリーフレットの中でも“錠剤・カプセル状の製品は、薬のように見えますが、「食品」であり、病気を治す効果、防ぐ効果はありません”と明言しています。

同庁はコロナ禍で宣伝を強める健康食品市場について、2020年以降あらためて、広告表示や販売方法を巡り、事業者に対する監視指導や消費者への注意喚起を強めています。

率直に言えば「コロナ禍において増加した健康食品の支出」というのは、新型コロナウイルス感染症対策としては、根本的にムダな支出なのです。

とはいえ、消費者もほとんどの場合、健康食品を摂取することで本当に新型コロナウイルスの感染予防対策になると思い込んでいるわけではないでしょう。それができるなら、感染はここまで拡大していないのですから。

そして、コロナ禍の不安を背景に「念には念を」とついで買いをする、という温度感だからこそ、11・12月に感染が拡大しても「慣れて」買わなくなってしまったと考えることもできます。

健康意識は高いが、それが本質的でない対策にも向いてしまい、最終的には慣れてしまう――2020年の家計調査からは、そんな“危機感”の実態が浮かび上がってくるのです。
 
 

〈Key Issue(キーイシュー)〉めまぐるしく変わる時代のトレンドを「Z世代」「メディア」「子育て」「健康」などの分野で取材を続ける専門記者が読み解きます。
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