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唯一の武器は講演スキル、露木志奈さんの戦い方 SDGsをボトムアップ
「人生を変えるプレゼンができます」と豪語し大学を休学
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「人生を変えるプレゼンができます」と豪語し大学を休学
環境問題が日本でも大々的に取り沙汰される中、Z世代を中心とした若い人たちが次々と声を上げ始めています。「環境活動家をなくすことが目標」と語る、20歳の環境活動家 露木志奈さんもその一人。世界で一番エコな学校と言われるインドネシア・バリの「グリーンスクール」を卒業。地球温暖化の国際会議(COP)の青年の部にも参加しました。現在は大学を休学し、小学生から大学生に気候変動の危機を伝えるための講演活動を精力的におこなっています。20歳にして、自らの強みをいかしてアクションを起こしつづける露木さんに、どうやったら一人一人がSDGsのアクションをしていけるのか、そのヒントを聞きました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)
〈SDGs(Sustainable Development Goals)〉
地球環境や経済活動、人々の暮らしが持続可能になるよう、国や企業、個人が垣根を越え、2030年までに取り組む行動計画。2015年に米ニューヨークであった「国連持続可能な開発サミット」で、193の国連加盟国の全会一致で採択された。貧困の解消や教育の改善、気候変動の対策など17分野の目標がある。各目標の下に、「各国の所得下位40%の人々に国内平均より高い所得の伸びを実現」といったより具体的な169の目標を掲げている。
――露木さんはよく「Z世代の環境活動家」として紹介されています。大人たちから、そう呼ばれるのは、ぶっちゃけどう思っていますか?
かっこいいじゃないですか(笑) 私も「Z世代」と呼ばれるようになったのは日本に帰国してからだし、なんの「Z」かもよくわからないままだったんですけど、「私もZ世代なんだ」って最近気づいて(笑)。でも、「Z」って響きはカッコ良いですよね。いいのか悪いのかよくわからないですけど。
――では、そのままZ世代と言いますね。Z世代の周りの人たちはSDGsや環境問題に興味がありますか?
Z世代は関心がある人が増えているんじゃないですかね。でも、そういうのも、留学をしたりして、日本の外で何が起きているのか、ということを見るような機会がすごく増えているのが大きいと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前なら、安い飛行機代で気軽に海外に行けるようになって、土日くらいの休みだけで海外に行けちゃう世の中でしたから。環境系の活動をしている若い世代で、日本の外に一度も出たことがない人に今まで会ったことがないです。1年間の留学じゃないにしても、1~2週間、1カ月くらいは海外に行っていた人がほとんどです。
もちろん、実際に海外に行かなくてもSDGsを考えている同世代はいます。共通しているのは、外の世界から日本という国を見ている点だと思います。そういう視点があると、たぶんSDGsへの意識が高くなるんじゃないかなと思いますね。
――国内の海に行くと、プラスチックゴミがたくさんありますよね。その状況だけしかわからないと、たしかに、それが当たり前と思っちゃいますよね。
比較するものがないと、「これはやばい!」と思わないですよね。この前、石垣島の学校で講演をさせてもらった時も、「ずっときれいな海しかみたことがないから、ゴミがいっぱいの海は想像できない」と生徒さんが言っていました。もう一つ違う場所から見ることによって「あ、これってこんなにやばいんだ」とか、「こんなことが起こるかもしれない」と比較できて、予想ができるようになるんだと思います。
――露木さんは現在、全国各地小学校から大学を回って、気候変動を伝える講演をされていますよね。私もその講演の映像を見させてもらいました。子どもたちが食い入るようにプレゼンを聞いていましたね。
自分で言うのもなんですが、プレゼンは比較的上手な方だと思います(笑)。毎日のように講演しているし、これを極めていきたいなと思っています。
――気候変動を伝える手段として講演を極めたいと。
そうです。必ずしも、私が科学者になって研究しなきゃいけないわけじゃないし、政治家になって何かをしなきゃいけないわけじゃないし、人それぞれ役割があると思っています。私はインドネシア・バリにある、世界で一番エコな学校と言われる「グリーンスクール」を卒業したので、そこについて話ができるし、自分ならではの話ができるからこそ聞いてくれる人が多いんじゃないかなと思っています。だから、それをいかすため、講演という手段を通して気候変動を伝えたいなと思っています。
――今までにどれくらいの人に講演してきたのですか?
去年の11月から始めて6千人くらいです。
――もう6千人も。同世代にどんなことを伝えているのですか?
気候変動を中心に話はしますが、やっぱり気候変動でもなんでも社会課題を認知してもらうっていうことを伝えたいと思っています。なんでも知るっていうことが大事ですから。「こういう問題が存在する」ということを知ってもらわないと始まらないし、その先で詳しく調べることもできないから。それを伝えることが自分のやりたいことだと思って、やらせてもらっています。
――気候変動を通じてそのことを話すんですね。
はい。その上で、「何ができるか」っていうと、もちろん、いろいろなことができるけど、マイバック、マイボトルだけやっていても世の中変わらない。気候変動という面において、一人一人ができる、一番インパクトがあることって、お肉を減らすことと、持続可能なエネルギーに変える、この二つだと思っています。同世代じゃなかったとしてもやって欲しいですけどね。もちろんやってほしいけど、まずは知るところからです。
――最初の講演はどんな感じでしたか?
去年の11月、札幌の女子高校での講演でした。初めての講演だったので、100%完璧じゃなかったけど、気候変動について丁寧にプレゼンしました。そうしたら、講演後にいろんな子から連絡がきました。「アクションしていきたいから相談にのってほしい」とか、「こういうことをやっていきたいんだけど」とか、実際に行動を起こそうと考える子がたくさん増えました。
――これまでの講演で印象的な場面はありますか?
この前、静岡の小学校で講演した時は、講演後に20人以上もの生徒さんが集まってくれて、30分くらいずっと質問してくれました。校長先生が「勤務して2年くらい経つけど、こんなに生徒の目が輝いているのを初めて見ました」と言ってくれました。自分だからこそ届けられたものがあったのかなと、その時にあらためて思いましたね。
講演って効果が目に見えないじゃないですか。自分が講演したからといって、二酸化炭素排出量がすぐに減ることはなくて、「きっかけづくりを届ける」というのが講演の目的ですよね。すぐに答えが出るものじゃないから、モチベーションを上げるのは正直大変だし、ずっとやり続けるって大変だと思っています。なので、そういう風に言っていただけると、やりがいを感じるし、やっていきたいなとあらためて思う。やっていてよかったなと思うんですよね。
――講演活動は、グリーンスクールから帰国後、すぐに始めたんですか?
いえ、大学入って1年後ですね。気候変動をなんとかしなきゃとは思ったのですが、大学が1年通わないと休学できない決まりだったので。
――大学の勉強はつまらなかったんですか?
楽しかったです。でも、これで気候変動がよくなるのかなとも思いました。ダイレクトなアクションにつながらないなって思いもあって休学しました。それで、講演を始めた感じですね。
――大学に通いながらでもできそうですが、やめないとできない何かがあったのですか?
別にそういうわけじゃなかったんですけど。私はこれと決めたらとことんやるタイプで、極端なんです。両立というよりは、「これっていったらこれ」みたいな(笑)。だから、そうなっちゃったんだと思います。
――じゃあ、まず休学して、その後に講演のプログラムを考えて、自分で売り込んだのですか?
そうです。全国の先生が集まるコミュニティーを運営している方がとてもよくしてくださって、先生の集まりで私の話をしてくれたんです。
――初めは誰かに頼まれて講演して、その評判が広がって講演が増えていく、というのが普通の流れな気もしますが。
そうですね。だから、「こういう話をしたいです」という内容を考えて、「この話を届けたいから呼んでください!」って言ってました。熱くなると、もはや「人生を変えるプレゼンにするんで呼んでください!」と。スライド一枚もできていないのに(笑)。口だけ言ってましたよ。
――自分はやりきれるという自信があったと。
そうやって追い込んだらやらざるを得ないじゃないですか(笑)。
――20歳にして、もうやることが明確になっているんですね。
確信しているわけじゃないのですが、ただやりたいからやっているという感じです。しかも、私すごい勉強苦手なんですよ。やらされるのも嫌だから(笑)。休学したら自分がやりたいことができるじゃないですか、だから、やっています。
――休学から戻るつもりはないんですか?
それはまだ決めていないんですよね。あんまり先のプランとかは立ててないです。やりたいときにやりたいんです、飽き性なんで(笑)。講演会を始めたのも、去年の11月で、実際これまで講演している期間ってたった2カ月とかなので。始めてから少ししか経っていないんですけど、もしかしたら飽きちゃうかもしれないし。この先どうなるかは、私もわからないです。
――高校はインドネシア・バリにある世界的に有名なエコな学校「グリーンスクール」に留学されています。いきなり海外の高校は大変だったんじゃないですか?
大変でしたよ、英語が苦手で全然できなかったのに行ったので(笑)。初めの2、3カ月は毎晩のように勉強をしていました。全く話せなかったから、友達もいなかったですし。本当に大変でした。
――その後は?
逆に、英語を覚えた後は、大変なことはあんまりなかったです。たぶん自分の性格的にやりたいことをやらせてくれる「グリーンスクール」がすごくフィットしたんだと思います。
例えば、グリーンスクールには自分で内容を決めて授業がつくれる「インディペンデントスタディ」という授業があるんです。すべて自分で考えるという、グリーンスクールでは有名な授業です。私はその授業をとって、自分でもすごいと思うくらいがんばって取り組みました。でも、実際ほとんどの生徒はその授業を取らないんです。高校は100人くらい生徒がいるのですが、「インディペンデントスタディ」をとっているのはせいぜい2人とか3人ぐらい。私は、すごくグリーンスクールの空気に合ったんだと思います。
――世界中から優秀な人が来ているんじゃないんですか?
テストはないので、勉強ができなくてもグリーンスクール入れちゃうんですよ。勉強の出来不出来よりも、「なんで入りたいのか」がグリーンスクール合否の判断材料になるので。グリーンスクールは小学校から高校までありますが、ちっちゃい子になればなるほど、親の意向で入学することが多いんです。そのため、みんながSDGsなどに関心を持っているかというと、ぶっちゃけ違っていました。そんな中、私はかなり活発的に活動していた方だと思います。
――同級生の中でもダントツに活発だったのですか?
いや、2人くらい同い年で、すごい人がいました。1人は、メラティ・ワイゼンさんという、もはやグリーンスクールの顔になっているんですが、「Bye Bye Plastic Bags」というNPOをやっている子です。プラスチックバック、つまりポリ袋をなくす活動なんですが、SNSで多くの世代に呼びかけ、そして、いろいろな人に働きかけて、法律も変えてしまった子なんです。同い年なのに。
もう一人は、ダリ・シェーンフェルダーさんという子で、バリで「Nalu Clothing」という洋服のブランドをやっています。場所によると思うのですけど、インドでは制服が買えなくて学校に行けない子どもがいるんです。そこで、このブランドは、洋服を買ったら、その売り上げの一部で、学校に行けないインドの子どもたちに無料で制服を届けるという仕組みにしているんです。
――その二人の同級生に影響を受けたんですか?
そうですね、まさに。「この年でもやっていいんだ」と思いますよね。普通だったら卒業して、大学に行って、その後に「やりたいことがあったらやる」みたいなイメージがありました。だけど、「やりたいことがあったら、大人になるまで待たなくていいんだ」って。そんなことを身近で感じられたのは大きかったです。
――その二人がいなかったら、淡々と普通の生活をしていたかもしれないと。
はい、そうだと思います。私はどこでもなじめちゃうタイプなんで。だから、グリーンスクールの中にそういうすごい人がいて、それが当たり前になっていったんでしょうね。それが、よかったんですよね。
――SDGsの先、つまり2030年の後の自分はどうなっていると思いますか?
自分の活動について、何でもかんでもプランしないです。その時、その時代とか、自分がやりたいことに合わせて変わっていくという意味でプランしないということです。ただ、目標は変わらず、常に持っていますよ。
――10年先の目標はどのように考えているんですか?
「どうなるのか」というより、「どうしていきたいのか」っていう話なんじゃないのかなと思いますね。
――未来は「変えよう」という意志だと。
講演していても、最後の質問コーナーで、「今後はどうなると思いますか?」「気候変動は止まると思いますか?」と聞いてくる人がいるんですよ。質問してくれるのは嬉しいけど、自分たちの手で変えていけるということを伝えたいんです。それは環境問題だけでなく、選挙に行くということもそうです。日々の生活の中で、一人の人間の力って、そこまでインパクトがないと思いがちだけど、「どうしていきたいか」ということをまずは考えて、その上で今できることを考えたいなと思っているんです。
――ボトムアップでどこまで世の中を変えられると思いますか?
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんは、「We need indivisual and system change.(システムと個人の両方が変わらないといけない)」とよく言っています。気候変動という問題は特にそうだけど、世の中が変わるには、やっぱり国とか企業とかのシステムチェンジ、大きいシステムの変化と、個人の変化が必要ですよね。
私の今の立場でいうと、お金を持っているわけでもないし、株を持っているわけでもないし、政治家になれる年齢でもない。それを考えたときに、自分の今の立場を最大限にいかしながら、自分が作りたい世の中にしていくために、そして、世の中にインパクトを残すために、どういう風にすれば良いのか。それって消費者、つまり「indivisual change」の部分が大事なんじゃないかなと思いました。講演会ということを通して、特にわざわざ同世代というターゲットを通してお話させてもらっているのも、年齢が近い方がメッセージを伝えやすいかなという期待を持っているからこそやっているので。
――自分の今あるポジションを生かせるのが「indivisual change」の部分だと。
はい、自分が今後どうなるのかわからないけど、「indivisual change」、つまり消費者の部分で活動していきたいと思ってやっています。もちろん、必ずしも消費者の選択だけでかわるとは思っていないし、「そんなに世の中は簡単な話じゃない」とみんな言うし、それはわかっています。だけど、企業や国が変わっても、消費者が変わらなかったら、それはそれでだめですよね。企業とか会社とかメディアとかもだいぶ変わってきているし、チェーン店とかで大豆ミートとかを普通に売ってくれるような世の中になり始めている。そんな中で、それを求める消費者も必要だし、そういうところで、自分は自分の強みを生かしながらできることをやっている。そんな感じですね。
「やりたいときにやりたいんです」。そう言いながらも、客観的に自分がやるべきことを捉えている露木さん。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの発言「We need indivisual and system change.(システムと個人の両方が変わらないといけない)」を引用しながら、「indivisual change」、つまり「ボトムアップでの変化」の重要性を語っている際にも、そのバランス感覚を感じました。
SDGsでは、社会を変化させるため、「ボトムアップでの変化」がよく語られます。ただし、ボトムアップだけでは、なかなか社会課題がよくならないのが実態です。露木さんは、トップダウンとボトムアップという二極から別々に語るのではなく、大きな社会の仕組みの中でのボトムアップの役割を踏まえて行動しています。だからこそ、たった2カ月だけでも、子どもから大人まで、多くの人たちに気候変動を伝え、心を動かすことができているのだと思います。
未来について尋ねると、未来は「どうなるのか」ではなく「どうしていきたいのか」だと強いメッセージで返してくれました。ボクたち大人は目標を立てるとき、現状から予測して、その延長線の「確からしい未来」を考えてしまいがちです。その結果、大きな夢のようなものを描けないまま、ずるずるとものごとを進めてしまい、抜本的に社会を変えることができていないように感じます。
とはいえ、未来を「どうしていきたいのか」という目標はそう簡単に言えるものではありません。「人生を変えるプレゼンしますので!」と、やったことがなくても言い切った露木さん。延長線でものごとを考えてしまいがちな大人を尻目に、「たとえ見切り発車でも、やりたいことをやる!」という覚悟が必要なことを教えてくれました。
やりたいことを見つけるためのヒントもありました。Z世代がSDGsに関心が高いのは、海外での経験など、「外」の視点があることを教えてくれました。日々の生活に追われる中で、国内、そして組織の中だけで考えがちになる大人は多いと思います。Z世代が大人以上に未来を見据えた活動を始めているのは、「若い」ということ以上に「外から日本を見ている」視点が大きいのではと感じます。コロナ禍で海外に行けず、思考まで国内に閉じてしまう人が多いかもしれません。しかし、様々なデジタルツールが登場して、海外と接点をつくりやすくなりました。しっかり「外」から日本を見ることで、やりたいことを見つけることができるかもしれません。
SDGsが注目されている今、若い世代も大人の世代も、新しい未来をつくるために、そして、SDGsとどう向き合えば良いのか、悩んでいる人は多いかと思います。露木さんが見切り発車で始めた講演を続ける心の中には、それらのヒントとなる様々な示唆がありました。
田原総一郎さんが新しい領域に挑戦する若い人と対談する「相席なま田原」に、露木しいなさんが登場します。SDGsにつながる様々な活動をしている露木さんの思いを田原さんがズバズバ聞いていきます。今回は官民連携のSDGsオンラインシンポジウム「ジャパンSDGsアクションフェスティバル」とコラボ開催。フェスティバルサイトにて、3月27日14:40~15:20にオンエアされます。【詳細はこちら】
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