連載
#76 ○○の世論
福島県のイメージは変わった? 10年間の調査から見えた「現実」
県民の半数は「イメージが回復した」、全国は…
有数の桃の産地で米どころ、浜通りの海の幸に会津の山の幸……。福島県と聞いて思い出すことは様々ありますが、こうした福島のイメージは、東京電力福島第一原発の事故で大きなダメージを受けました。この10年間で、事故前の「福島」のイメージはどこまで回復したのでしょうか。(朝日新聞記者・四登敬)
朝日新聞社と福島放送は共同で、事故の半年後の2011年9月から、福島県民が対象の世論調査をしています。翌12年からは毎年、2~3月に実施し、今年で11回目になります。
事故から10年となる今年、「福島」のイメージがどの程度回復したと思うかを質問しました。
「大いに」と「ある程度」を合わせて「回復した」と思う人は50%。5年前の30%と比べると、回復を実感する人が増えていることが分かります。
今年の結果を男女別でみると、男性は53%と、女性の46%より高めでした。年代別では、50代以下の現役層では、いずれも半数以上が「回復した」と答えました。
かつては、こんな質問もしていました。
福島産の農作物が買いたたかれても「やむを得ない」と思う人が事故1年後では7割、4年経っても6割以上いました。また、当時は、福島県民自身も、「福島産」を口にすることに、抵抗を感じる人が半数近くいました。
福島では、コメの全量検査や肉牛の全頭検査のような放射性物質検査を通じて、食の安全を確保してきました。福島県は風評被害対策にも予算を割き、県産品の販路回復や観光客の増加に取り組んできました。こうして、福島県の農業算出額は2010年の2330億円が11年は1851億円に減ったものの、18年には2113億円まで回復しました。
こうした地道な取り組みを重ね、10年を経てようやく福島県民の半数が「イメージが回復した」と感じられるようになったと言えそうです。
ただ、全国から見た福島のイメージは、福島県民以上に厳しいものでした。同じ質問を今年2月の全国世論調査(電話)と比べてみます。
全国で「回復した」と思う人の割合は、福島県民より少なく、「回復していない」と思う人が半数を超えています。
今回の福島調査で「福島の復興への道すじがついた」と思う福島県民は、「大いに」「ある程度」合わせて50%でした。復興もイメージ回復も、道半ばと言えます。
福島第一原発では廃炉作業が続いており、その工程は当初の予定より大幅に遅れています。敷地内のタンクには、処理済みの汚染水がたまり続け、政府は海洋放出を検討しています。この海洋放出には反対が根強く、今回の調査で、福島県民の87%が風評被害が起きる不安を「感じる」と答えました(「大いに感じる」が48%、「ある程度感じる」が39%)。
海洋放出が、福島の復興やイメージの回復に、水を差すことのないよう、政府には慎重な対応と丁寧な説明、そして十分な風評被害対策が求められています。
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