連載
#11 マスニッチの時代
クラブハウス、一番の不満は「招待制」 調査で明らかになった実像
ピークは「午後8時」 差別の懸念すでに…
突如として話題なった招待制の音声SNS「Clubhouse」は、実際、どのように使われているのでしょうか? ネット上のアンケートからは、<夕ご飯をすませた午後8時ごろから、ネットサーフィンをしながら、暇つぶしのため使う>という日本人ユーザーの利用スタイルが見えてきました。話題となった招待制ついては否定的な意見が多く、差別発言への懸念も。調査から見える「Clubhouse」の実像について考えます。
アンケートは、「Yahoo!ニュース」を通じて、2千人のYahoo!ユーザーを対象に2021年2月に実施しました。
まず、回答者2千人のうち、「Clubhouse」を「使っている」と答えたのは全体の8.5%でした。9割以上は「使っていない」と回答、まだまだ、ユーザーは一部にとどまっているようです。
「使っていない」理由として最も多かったのは「興味がない」の44.7%で、「招待してくれる知人がいない」の26.3%を大きく上回りました。アプリの特徴でありハードルであるとも言われる招待制という仕組みですが、「Clubhouse」を使いたいと思う前に、そもそも関心を持つきっかけがない状況が見えてきます。
iPhoneなどのiOS端末でしか使えないこともハードルとして挙げられていますが、「スマホがアンドロイド」を理由にした人は3番目に多い19.1%でした。また、「時間がもったいない」も3.4%おり、「Clubhouse」を使いこなした上で、はまってしまうと時間がどんどん過ぎてしまう「沼」の状態を警戒する声も少数ながらうかがえます。
「Clubhouse」は、他のユーザーとのリアルタイムの交流が目的のため、投稿だけで終わるツイッターやインスタグラムに比べると、一定時間、その場所で過ごすことが前提になります。同時に、音声のためスマホやパソコンを操作したり、食事をしたりする手を休める必要はなく「ながら聴き」ができるという特徴もあります。
それでは、実際、何時が一番、「Clubhouse」の〝ゴールデンタイム〟なのでしょうか。
調査で最も多かったのは「20時から22時」の3.3%でした。次に「22時から0時」3.1%が続きます。夕食後、一息ついた時間にアプリを立ち上げる様子が見て取れます。
一方、「12時から14時」は5番目の0.8%で、お昼時に比べると、朝の仕事前と思われる「8時から10時」の0.8%と「6時から8時」の0.7%での使用が目立ちます。忙しい朝ほど「ながら聴き」ができる「Clubhouse」がフィットしているのかもしれません。
誰でも発信できる「Clubhouse」には、膨大な数のコンテンツが存在しているとも言えます。
ユーザーの使用目的をたずねたところ、1位には「暇つぶし」の2.7%が上がり、2位は「趣味の情報を聞いたり発信するため」の2.2%でした。「Zoom」などを使ったオンラインイベントなどとの違いとして、思いついた時にトークの場所である「room」を立ち上げられるのが「Clubhouse」です。ユーザー側も、そんな気軽さにひかれて使っている様子がうかがえます。
それは「Clubhouseをしながら何をしていますか」の回答にも現れており、1位は「ネットサーフィンをしながら」の2%で、次に「お酒を飲みながら」と「テレビを見ながら」の1.6%が続きます。もともと別のことをしていた時間帯に〝副音声〟としての「Clubhouse」が入ってきたのか、「room」の話題を深掘りしながら聴いているのか、あらたな生活スタイルが生まれつつあるのかもしれません。ちなみに、「家事をしながら」も1.3%います。
ツイッターアカウントに紐づいた「Clubhouse」は、IT系の企業人やインフルエンサーが当初の人気を牽引しました。仕事面での利用について見てみると、使用目的の3位、4位、5位には「仕事上の有益な情報を収集するため」(1.9%)、「仕事上の成果や知見を他のユーザーに伝えるため」(1.5%)、「仕事上の人脈作りのため」(1.4%)が並びます。「友達や同級生やプライベートの交流のため」(1.2%)よりもビジネス関連の目的が上位にあることは、「Clubhouse」の〝もう一つの顔〟として見逃せません。
「Clubhouseのいいところ」として挙がったのは「会話の記録が残らない」の2.8%でした。ユーザーは、話の中身より、録音や外部への公開が原則禁止というサービスの特徴を重視しているようです。
ただ、2位には「趣味の話を聞くことが出来る」の2.7%が入っており、深夜帯に立ち上がるアニメやスポーツについてファン同士が語る「room」の熱気と重なります。3位に入っている「有名人の話を無料で聞ける」の2.6%からは、キー局の番組に出ているような有名人のざっくばらんな会話が「Clubhouse」の特徴として受け止められている様子も浮かび上がります。これは、新型コロナウイルス後に増えたタレントによるユーチューブチャンネルの参入につながる現象といえそうです。
「自分の話を知らない人に聞いてもらえる」(1%)や、「自分の話をフォロワーや知人に聞いてもらえる」(0.9%)など、自分で発信することは下位にあることから、「聞き専」が多い様子も浮かび上がります。
「Clubhouseの問題点」についてたずねたところ、「不正確な情報にだまされる可能性がある」が3.6%と最も多くなりました。
例えば、日本で急速に広まった1月下旬ごろは「Clubhouse」の利用規約について様々な情報が飛び交い、「無音ルームに入るとアカウントが停止される」など、その時点では真偽のわからない情報が飛び交っていました。一方で、ミャンマーで軍事クーデーターが起きた際には、現地に駐在する日本人による「room」が急きょ、立ち上がり、報道機関によるニュースにはない生々しい情報を即座に聞くことができました。「不正確な情報」の問題は、他のSNSでも変わりはなく、「Clubhouse」がツイッターのアカウントと紐づいている仕様を考えると、ツイッターでの発言やフォロワー数、認証マークなどとセットで、情報の信頼性を確かめることが必要かもしれません。
問題点として2番目に多かったのは「知らない人に思いがけず自分の話を聞かれてしまう」の3%でした。「Clubhouseのいいところ」では上位にこなかった発信機能について、ユーザーが戸惑いながら使っている様子が浮かび上がります。
「長時間使ってしまう」は2.5%と3番目に多く、何時間も「Clubhouse」に滞在して「住んでしまう」状態にまでになったヘビーユーザーの悩みとともに、そうならないよう警戒する心理が見て取れます。
「Clubhouse」で「問題のある場面に遭遇したことはあるか」には、「いいえ」が7.2%を占め、「はい」の1.2%を大きく上回りました。日本では限られた人にしか広まっていないことから、「Clubhouse」内での会話は概ね、健全に保たれているようです。
ただ、「問題のある場面」として「外国人を差別する発言があった」(0.7%)や、「女性を差別する発言があった」(0.6%)が上がっていることから、限られたコミュニティーが持つ危うさの一面はすでに現れているようです。実際、アメリカでは、差別や陰謀論の会話に使われているという批判も生まれています。
「Clubhouseの改善点」でトップだったのは「招待制をやめてほしい」(2.7%)でした。
「招待制」という独特な仕組みは、希少価値を生みメルカリで招待枠が転売される事態にも発展しました。「Clubhouse」の最大の特徴とも言える「招待制」ですが、実際は、他のSNSと同じように誰も使えるようにしてほしいというユーザーの声が大きいようです。
また、「アンドロイドで使えるようにしてほしい」(2.3%)、「パソコンで使えるようにしてほしい」(2.1%)も根強く、招待制と合わせて使えない人がいることへの不満が高いことがわかりました。
一方で、「特に改善してほしいことはない」も2.1%あり、音声だけでテキストのやりとりはできないという機能をあえて絞ったコンセプトは、ある程度受け入れられているようでもあります。
ネットは様々なサービスが生まれ消えていく中で、ごく一部のものだけが生き残る競争の激しい世界です。
2017年には「Clubhouse」と同じように急拡大したSNSとして、ドイツの当時24歳の男性が開発した「マストドン」が盛んに取り上げられました。しかし、検索ワードの使われ方を測るグーグルトレンドで調べたところ、「マストドン」のピークだった2017年4月の検索量を「100」とすると、現在はたったの「1」です。「Clubhouse」も今後、どのような形になるか未知数です。
一方で、2017年に比べると、GAFAに代表される巨大なネットサービスの存在は、さらに大きくなっています。そんな中で注目を集めた「Clubhouse」には、富や影響力が一極集中する現状に警鐘を鳴らす役割も感じます。「Clubhouse」のアカウントはツイッターのアカウントと紐づけられます。そのアカウントがどんな人のものなのかは、ツイッターのタイムラインが〝ポートフォリオ〟となって証明してくれます。そんな「Clubhouse」の仕様からは、すでにインフラと化している既存のSNSと適度な距離感をもって乗っかる〝したたかさ〟も感じます。
アメリカでは、投資アプリ「ロビンフット」がヘッジファンドに対抗する〝草の根〟の投資家の武器になったとして話題になりました。同時に、「ロビンフット」には株の売買をギャンブル化させたという批判も起きています。今回の調査では、日本人にとってはまだまだ限られた人のサービスだと言える「Clubhouse」で、すでに差別的な発言が問題視されている兆しが見えます。自由さがはらむ落とし穴は、分断化が進むと言われる現在の社会では特に注意して見守る必要があります。
それでも、「Clubhouseの改善点」として挙がった「招待制」への批判は、狭いコミュニティーに閉じこもることへの違和感とも受け止められますし、それはユーザーがネットに求める健全な姿勢として勇気づけられます。「Clubhouse」を通して、既存のネットサービスが抱える課題をあらためて再確認できたのだとしたら、この〝黒船〟はすでに十分な役割を果たしていると言えるのかもしれません。
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この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。Yahoo!ニュースが実施したアンケートの結果を利用しています。アンケートは全国のYahoo!JAPANユーザーを対象に2021年2月に実施しました。
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