お金と仕事
竹下通りに「テナント募集」の光景…みんなの〝思い出の場所〟の今
雑貨屋店主「売り上げは95%減」
竹の子族やかわいい文化など日本の若者文化を生み出し、世界中の人が訪れる日本の代表的な観光地なのが原宿、「竹下通り」です。東京在住でなくとも、修学旅行などの東京観光で一度は訪れ、〝思い出の場所〟となっている人も少なくないはず。そんな、みんなの思い出がつまった竹下通りは現在、コロナ禍で厳しい状況に直面しています。「テナント募集」の看板が目立つようになった街の声から、「竹下通り」の未来を考えます。(笑下村塾・相川美菜子)
そもそも竹下通りって、なんでこんなににぎわうようになったのでしょうか?
もともと原宿表参道付近は、1964年の東京オリンピック以前は静かなエリアでした。戦後、代々木錬兵場跡地(現・代々木公園や代々木体育館付近)にGHQが米空軍の兵舎である「ワシントンハイツ」を建設。表参道沿いには外国人軍人向けの、書籍やおもちゃを販売する店(現在のキディランド)などがオープンしました。
東京五輪後は、1970年代後半からクレープ屋やブティックなどが誕生し、竹下通りが商店街化します。
ディスコ音楽に合わせてステップダンスを踊る「竹の子族」が同じころ代々木公園付近で流行しましたが、その由来の一つは竹下通りにある「ブティック竹の子」で衣装が購入されていたことだと言われています。
1978年にはラフォーレ原宿も開業し、ファッション・アパレルの流行の発信地としての色を強めました。
その後は、ゴスロリ、プリントシール機、タレントショップ、タピオカなど若者のブームを次々に生んできました。また、女子高生向けのイベント施設や、動物カフェなどの体験施設も増え、国内外問わず観光客に人気のエリアになります。
東京五輪の2020年大会直前の2020年3月には、日本最古の木造建築の駅舎として愛されていた原宿駅舎が役目を終え、新駅舎が開業。さらに増える観光客を迎え入れる準備は整いつつあった中で襲ってきたのが新型コロナウイルスでした。
現在の竹下通りを歩くと、人が少ないのはもちろんのこと、「テナント募集」の看板が掲げられたシャッターが少なからず目に入ってくることに衝撃を受けました。
インバウンドでの売り上げがほとんどを占めていたお店は特に大打撃を受けているようです。
「コロナ前に比べて売り上げは95%減」と話すのは、竹下通りに店を構える雑貨屋店主です。
「給付金も底をつきはじめて、去年の年末あたりから閉店が増えています。竹下通りで買い物をするのは外国人が多かったから、国内の緊急事態宣言に関係なく売り上げは低いままですね」
また、よく見かける、ちょっと怪しい客引きをしているアフリカ系のお兄さんも、明らかにお客さんが見つかっていなさそう。最初はお金をくれなきゃ話さないと強い口調で真っ向から断られてしまいましたが、徐々に心を開いてくれました。
「一日中お客さんがこないのはよくあること。1週間お客さんがこなかったこともあったよ。今は貯金を削る生活。子ども3人を育てるのは厳しいね。」
ちなみに、客引きは高級ブランドのロゴが入った服を買わせるためであることが多いそうです。
「8時に閉店するだけで飲食店だけがお金をもらえているのは正直不平等だと思います」と訴えるのは、インバウンド向けの商品を扱う服飾店の店員さんです。
「政府が悪いわけじゃないけど、このままじゃどこもやっていけない。五輪の開催はコロナを考えると当然中止したほうがいいけど、個人としては開催しないと経済的に厳しいのが現実なので複雑な思いです」と話します。
また、「渋谷のほうが観光客以外の買い物客がいるおかげで、徐々に活気を取り戻しているように見えるのはうらやましい」と近くのエリアでも被害に差が生まれていることへの不満も漏らしていました。
竹下通りに店を構える不動産会社の関係者は「賃料価格はコロナ前と比べてほとんど下がっていません。坪単価10万程度。例えば50平方メートルの店舗の場合、150万円から200万円くらいです」と説明します。
飲食店の売り上げに占める家賃比率の理想は10%程度と言われているので、2000万円程度売り上げなければいけない計算になります。若者でも買いやすい比較的安価な商品を扱うお店が多い竹下通りでは、現状その売り上げを確保するのは難しそうです……。
家賃が高いだけでなく、竹下通りの建物は給排水の設備がないことが多く、飲食店利用ができないなどの制限があることから、浅草などの他のインバウンドエリアに比べても余計入居者が限られるそうです。
筆者にとって「竹下通り」は思い出の場所。小学生のころからプリントシールを撮りにいき、中学生になるとアイドルの生写真を選ぶのに夢中に。高校生ではコスメを買いあさり、大学時代はのどが渇いてもいないのにタピオカを飲み……竹下通り無くして私の青春は語れません。
そんな竹下通りが、インバウンドの回復が見込めないとなると、緊急事態宣言が明けても、このまま〝シャッター街〟になってしまうのではないかと、私自身ふと怖くなりました。
最近テナントの大量閉店が話題となったような「GINZA SIX(ギンザシックス)」などの商業施設であれば、運営会社側による営業によって対策を練ることもできますが、商店街である竹下通りはなかなかそんなわけにはいかないでしょう。
一方で、今回の事態をチャンスに変えることもできます。
不動産会社の関係者によると、通常竹下通りの路面店は毎年1軒程度しか空きが出ないそうですが、現在は7、8軒程度確認できるそうです。
家賃の高さなどのハードルはあるものの、空き家となっているテナントに、これまでなかったジャンルの店が出店していけば、新しい食やファッションなどの文化も誕生する可能性はあります。
元気のない竹下通りを目の当たりにして、あらためて、商店街が単にものを売るだけでの場所ではなく、新たなカルチャーを生み出す役割を担っていたことを再確認しました。
未来の中高生にも、私たちの青春の地を受け継いでもらいたい。生クリームを少なめにしてもらったクレープを頰張りながら、そう思わずにはいられませんでした。
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