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連載

#229 #withyou ~きみとともに~

「部活は全部禁止」に食ってかかった私 「県総体」の言葉だけで涙…

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

目次

高校生活の集大成として、陸上部部長の立ち場で挑む予定だった県大会が、新型コロナウイルスの影響で中止に。やりきれない思いを抱えながら代替大会のために努力を続けた高校3年生の経験を、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんが漫画にしました。広島県内の高校生に話を聞きました。
 
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この企画は、インスタグラムやツイッターを中心に作品を発表している、イラストレーターのしろやぎ秋吾さん(@siroyagishugo)との共同企画です。「10代のときにしんどかったこと、どう乗り越えましたか?」とSNSでエピソードを募り、しろやぎさんがマンガ化したエピソードの中から記者が取材を進めています。
《マンガ全編はフォトギャラリーで読むことができます》

私にとっては『部活こそしたいもの』

広島県に住む高校3年生の多久和華帆さんは、小学生の頃から陸上を始めました。

「中距離の種目を始めてから陸上がすごく楽しくなった」と、高校の陸上部では400メートルや400メートルハードルの種目でで県大会に出場したり、部長も務めました。

夏にある最後の大会に向けて気持ちを高めていこうという最中の3月、新型コロナウイルスの影響を受け、全国一斉休校が始まりました。それに伴い、部活も禁止に。
クラス担任から「部活は全部禁止」と告げられたとき、華帆さんは担任に食ってかかったといいます。「なんでできないんですか!」
担任から返ってきたのは「部活なんかしている場合じゃない」。

「大人にとっては部活は学校生活の一部かもしれないけど、私にとっては『部活こそしたいもの』でした」

とはいえ、部活禁止の期間もせいぜい1カ月くらいだろうと考えていた華帆さんは、気持ちを切り替え、休校中は自主練に励むことにしました。
部活の顧問からは、普段から「自分で考えて練習しろ」と言われていたため、自主練中は練習メニューをオリジナルで考え、近所に住む部活の後輩と一緒に競技場で走ったり、坂ダッシュをしたりしていました。
普段と違い、顧問からの叱咤がなかったり練習メニューが提示されなかったりすることで、大変さはありましたが、しばらくの間は「しょうがないから頑張るか」とモチベーションも保てていました。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

休校再び…「心が折れた」

なんとか自力で頑張ることができていた華帆さんでしたが、状況が変わったのは4月に入ってからでした。
華帆さんの通う学校では、4月に入り数日通学が再開されました。しかし、その直後、再度休校期間がはじまってしまったのです。
「競技場もしまってしまって、さすがに心が折れてしまいました」

「練習しなかったら確実に弱くなるからやるしかないんだけど、でも…」。そんな気持ちが続く日々。例年なら引退試合となる6月の県大会の開催も不透明になり、受験モードに切り替えつつあるチームメイトも出てきました。

「進学する生徒も多い学校なので、受験に向けてもみんながんばっていた。だから、大会があるかどうかもわからない中で、『がんばろうよ』とも言えませんでした。もし大会がなかったら、責任はとれないし」

「もし県大会があったとしても、みんなで一緒に引退することは無理だろうなと思い、悲しかった」

華帆さんは、自分一人で黙々と自主練を続けるしかありませんでした。

引退試合でもある県大会が中止に

そして6月になり、学校が再開しました。
それと同時期、引退試合と位置づけていた県大会の中止が発表されました。「ショックで詳しくは覚えていないんです」と、どこで情報を得たのかは思い出せないという華帆さん。

中止が決まってから1週間ほどは、「走っていても授業中も、なにをしていても涙が出てきた」と話します。

「放課後、担任の先生と友だちと一緒に話していたとき、『県総体ってワードを聞くと泣いちゃうんだよね』と冗談っぽく言ったつもりだったのに、そこから涙が止まらなくなってしまって。チームみんなで笑って引退したかったのにかなわないのが悲しかった」

代替試合の開催…出場の即決できず「一回悩みます」

7月に代替試合が開催されることが決まったときも、残って練習を続けるかどうか踏ん切りがつかず「一回悩みます」と顧問に伝えました。

そんなとき、相談に乗ってくれたのは担任の先生でした。
「受験もあるし、どうしたらいい?」華帆さんがそう打ち明けると、担任からはこんな言葉が返ってきました。

「あれだけ泣いて、出たい気持ちがまだあるなら、出た方がいい」

「まだ自分は活躍出来ていないという心残りがあったし、『お前なら行ける』と言ってくれた顧問の先生にも恩返しがしたかった」という華帆さん。担任の言葉で、代替試合に出場する決心がつきました。

このとき華帆さんは「後悔しないためにも出たい」と思うと同時に「出場しないみんなの分まで走りたい」と思ったそうです。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

大会前日、届いたたくさんのメッセージ

7月の上旬になり、本来なら県大会が行われる予定だった競技場で、代替大会が開催されました。
「大会を運営する先生たちが努力してくれた」と、大会はドローンなどを使って撮影され、動画がオンラインで配信されるなど工夫されたものでした。

華帆さんの高校からは、本来なら20人ほどが会場を訪れる予定でしたが、当日出場したのは華帆さんの同級生1人と後輩2人の計4人。そこに2人の先生が引率しました。

応援も禁止だったため、競技場は無観客。でも、大会前日、華帆さんがインスタのストーリーズにアップした「がんばってきます」の投稿に、部活の仲間やクラスメート、大学に進学した先輩たちなど、多くの人たちから応援のメッセージが寄せられていました。
「昔の県大会の集合写真に『諦めるな』とメッセージが書き込まれてある写真もあったし、まさかメッセージをくれるとは思わなかった人からメッセージが来たりして、本当に感動した」

その応援を胸に華帆さんは全力を出し切り、400メートルハードルの種目で賞状を持ち帰ることができました。

「顧問の先生はめったに褒めることのない人なんですが、最後に『がんばったな』といって、握手してくれて。満足でした」

「いまは大会に出て良かったという思いしかない」という華帆さん。チームメイト全員で引退すると言う希望は叶いませんでしたが、もらった応援メッセージを思い出すといまも胸が熱くなります。

「コロナを通して色んなことに感謝するようになりました。グラウンドを使えることも、部活ができることも、大会も、仲間がいることも、先生が教えてくれることも、全部当たり前じゃない。日頃から感謝を伝えないといけないと気付かされました」

華帆さんは、大学でもスポーツに関連することを学ぶ予定です。受験はこれからで、実技では400メートルを走ります。

イラスト・しろやぎ秋吾
イラスト・しろやぎ秋吾

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