IT・科学
知育玩具が恥ずかしい…髭男爵が感じた「何歳までにせな!」への疑問
「恐れず失敗すればいいじゃないの、小さい時くらい」
「イクメン」という言葉は広まったけれど、昔のままの考えや仕組みはなかなか変わらないのが現実です。自身も子育て中のお笑い芸人髭男爵の山田ルイ53世さんは、ステイホーム中でも、子どもと公園にいる時に「気まずさ」を感じたそうです。男性学が専門の大正大学准教授の田中俊之さんは、そもそも新型コロナウイルスという外部要因だけで社会が劇的に変わることはないと指摘、個人が内部から変化していることが重要だと説きます。言葉の誕生から10年。浸透したようでモヤモヤもする「イクメン」について、2人が語り合いました。
対談は、2020年12月16日、「子育てのモヤモヤ」を語るイベントとしてオンラインで行われました。
――新型コロナウイルスによって、子育てや家族のあり方は変わったのでしょうか?
田中さん「僕、この『コロナで社会は変わったか』というテーマに、うんざりしているところがあって。あんま変わんないんですよ。変わりますかって話してくる人にかぎって、男の人が家事をするようになったとか、みんな自分が思う理想の家族像に変わりますかって聞いてくるんです」
山田さん「新聞記者にありがちな」
田中さん「そこまでは言ってませんが……(笑)でもいい話にしよう、という意図を感じることはあります」
山田さん「ストーリーを誘導してくる」
田中さん「やっぱり、コロナのような外部から何かあっても、内側の本人たちの意識が変わらないと、根本的には何にも動かないんですよね」
山田さん「本当に、それって結構多くの人が持っている実感で、『意外と変わんないよね』と思っている」
田中さん「変わんないです。もちろん、飲食業や旅行業などに携わっておられる人のようにダメージを受けていることはあるんですけど。それ以外の社会は、実は前と同じように回ってるんですよ」
山田さん「それが良いことなのか、悪いことなのかは……」
田中さん「別としてですけど。仕組みとして今の社会はよくできちゃってるから、世の中は回ってしまうんですよね。東日本大震災の時だって、別に社会はそんな変わらなかったじゃないですか。今はもう電力をみんな気にせず使っているし。だから、あんまり外部からの圧で社会が大きく変わるってことはないんだろうなって思います」
――外出自粛でも以前と変わらない状況があると?
山田さん「ステイホーム期間中でも、近所の散歩くらいはしますよね。それでもですよ。娘と歩いて公園に行くと、ママの方が多いんですよね。そうなると、自分は異質なものになってしまう」
田中さん「ステイホームの時って、休校になったじゃないですか。やっぱり女性の方が仕事をセーブするというご家庭が多かったんですね。だからステイホームって言いながら、昼間はお父さんお家で仕事してるから、父親が子どもと公園に行くと、『え? あの人……』っていう風になってしまう状況は、実は変わっていなかった」
――仕事の面でコロナによる変化は?
山田さん「仕事の面は影響が出ましたね。しかも今年は、一番ショックだったのが、ボージョレ・ヌーボー仕事さえなかったという」
田中さん「僕も減りましたよ。講演会がなくなりました」
山田さん「最初の緊急事態宣言が出た際、ステイホームの真っただ中ですが、SNSなどで『こんな時こそ頑張ろう』って回って来たときは、いつやったら落ち込んでええねんと、言葉の暴力性に気づかされました。マスコミの方に言いたいのは、『つながろう、つながろう』と言い過ぎ。『がんばろう』って言い過ぎ。もっとバラバラでいい、と思いました」
田中さん「その言葉から力をもらえる人もいるとは思います。でも、『みんながんばろう』という『みんな』に入れない人もいる。しんどいなっていう人間も、いると思うんです。東日本大震災の時もそうでしたけど、緊急事態が起こると、言葉の暴力性があらわになります」
山田さん「良いことでもあるとは思うんですけど、ポジティブな言葉の方がより精査されずに発信されますよね。朝日新聞さんでもようそんなこと書いてあったと思いますけど、『これを機に家族を見つめ直して』とか。どっちもあっていいんですけど、どっちかに選ばされる空気への違和感はちょっとありました」
――仕事や会議、飲み会まで人と交わらずオンラインですることが増えました。
山田さん「コロナの影響で、1人でやる仕事が増えましたよね。現場に行っても、大概がアクリル板に挟まれた状態。僕は〝ほぼ一蘭〟と呼んでますけど。ただ、人が集まったところでやりたいんですよね。漫才とかお笑いは、丁々発止の話をして盛り上げていきたいから、なかなか難しいとこではありますけど」
田中さん「やっぱ仕事は難しいですよね。だからテレビなんかも今、観覧入れないですもんね。あれなんか芸人さんは辛いですよね」
山田さん「リアクションがわかりづらいっていうのがあって。あと、オンライン飲み会とかがはやりました。もちろん楽しいと思う方は、いいと思うんですよ。僕は実生活での社交性がゼロなので、実生活がオフラインの人間からすると、今までは家に入ればつながらなくてすんだのにって考えてしまいます」
田中さん「これを機に、ちゃんと言った方がいいかもしれないですよね。だって、サザエさんやちびまる子ちゃんを見れば明らかなように、電話って、最初は玄関の先にあったんですよ。なぜかというと、よそから人が来るから部屋の中に入れてないんですよね。それがいつのまにか家に入ってきて、今や体に電話っていうのがひっついちゃってるから、他人との距離が本来、近すぎるんですよ」
山田さん「元々の黒電話というのは、感覚的には、ほぼ外なんですか?」
田中さん「外の人が来るってことなんですよね。そこまでしか入れてなかったのに。それが電話ならまだしも、顔まで見せて来るっていうのは、ずうずうしいですよね。人の家なのに……」
山田さん「でも楽しい人は楽しいんですよ。うちの相方なんか、春先から毎週末オンライン飲み会やってますよ」
田中さん「そうですか。まあタイプですよね。楽しい人は……」
山田さん「楽しい人は、やればいいんですけど。そう思わない人もいるっていう」
田中さん「動画の双方向でのコミュニケーションがここまで普及してきたときに、本当に家の中まで他人が入ってきていいのかどうかってことは、本当にこれでいいのかよく考えた方がいいかもしれませんね」
山田さん「人類がそこまで進化できてるのかどうかっていうことだと思うんですよ。僕は対応できないですね、やっぱり」
山田さん「知育玩具を選んでる時、恥ずかしくないですか? 僕もいくつか手を出してるんですが。だってこれって、賢い子どもになってほしいという親の欲でしょ。もちろん効果はあるんでしょうけど、〝何歳までにせなアウト〟みたいな。あの感じが、ちょっと苦手なんですよね」
田中さん「今、子どもの数が少ないので、すごいおもちゃが必要になる。商売をしていけないと、アニメみたいなものを製作できなくなっちゃうんだと思うんですよね。今、やってる仮面ライダーもやたら変身するんですよ」
山田さん「カードとかもね。何作か前から、やたら増えましたけど」
田中さん「そういう風に売っていかないと子ども番組が作れない。子ども番組自体は素晴らしいものだから、作ってもらわないといけないので、親としては、ある程度投資しないとは思うんです。だけど、子どもの早期教育という場面では〝脅し〟のような形で出てきますよね」
山田さん「言い方の問題なんでしょうか」
田中さん「値段の設定も、その積み木が万単位するの?っていう感じじゃないですか」
山田さん「総じてちょっと高いですよね。それに、知育玩具って、おもちゃとしては素っ気ないし。知育玩具を手にとって見てる自分、アホに見えないかなって思う時あるんです。知育足りないのかって」
田中さん「わかりますよ」
山田さん「なんか滑稽ですよね、ちょっと」
田中さん「いったんそのレールに乗っちゃうと、もうやめられないですよね。小学校何年生までには塾入らないとみたいな。ある程度、距離を取った方が本当はいいんですけど、みんながやり始めた時に、うちの子だけやってないとすごく怖くなりますよね」
山田さん「あと決定的にね、子どもがすぐ飽きるんです。なぜ子どもが飽きない工夫はしないの?って思っちゃいます。絶対に飽きないシステムとか、形とか、手触りとか、なんでそこに知育を注がないのかっていう気持ちがすごいある」
田中さん「親はね、そっちの方がありがたいですもんね。長く遊んでくれた方が」
山田さん「そうですよ。本当に数日で飽きる時、ありますからな」
田中さん「やっぱり、いったんあおられると、そのあとも、乗らないとまずいんじゃないかって気持ちが加速するので。知育でその波に乗っちゃうと、そのあともズルズル行きますよね」
山田さん「別にやってもいいけれども、言い方を考えて欲しいです。そこで田中先生がいつも言っている『まずは落ち着いてください』が欲しいです」
田中さん「そうですね。全然流行んないですけど」
山田さん「もっといっぱい失敗させた方がいいと思うんです。よく、『選択肢を潰す作業』と言っているんですが、可能性は無限にあるって言われたら、人は立ち止まるしかない。選択肢をもっと若いうちにテンポよく潰していく方がいいと思う。恐れず失敗すればいいじゃないの、小さい時くらい」
山田さん「素敵な子育てはこの世にまんえんしてますけど、基本的にその手のものはエンターテインメントだと思ってます。自分の子育てが、その家の自分の子育てだっていうことです。他と比べてどうこうっていうのはないと思いますね。それぞれの親がため息をつき、嘆き、なるべく苦楽をして子育てをしましょう。お互い頑張りましょう」
田中さん「山田さんの新著『パパが貴族』(双葉社)に書いてあったことで、一番、素晴らしいなって思ったことは、子どもがやったことに全部リアクションするっていう。これは絶対やった方がいいですよね」
山田さん「僕の唯一の教育方針です」
田中さん「子ども目線というものが養われていくと思うんですよ。自分の子どもが、どんなタイプかってことが見えてくるので、世に流布する家族像、父親像、子ども像に振り回されないですむ。だから、自分の子どもをしっかり見ていただいて、どうコミュニケーションするかってことをしっかり考えるのが、本来、求められる子育てなのだと思います」
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