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お金と仕事

「子育ても仕事」がなぜわからない?イクメン10年、髭男爵のモヤモヤ

「もう、次の言葉があっていいし、あえて言葉にしなくてもいい」

娘をあやすのは得意な山田ルイ53世さん=本人提供
娘をあやすのは得意な山田ルイ53世さん=本人提供

目次

「イクメン」という言葉が使われるようになってから約10年が経ちました。タレントや政治家のような発信力のある人でも「イクメン」と呼ばれる人が生まれています。そんな中、自身も子育て中のお笑い芸人髭男爵の山田ルイ53世さんは、「イクメンが広まりきって一周回って恥ずかしい」と話します。男性学が専門の大正大学准教授の田中俊之さんは「功罪両面がある」と指摘します。誕生から10年。浸透したようでモヤモヤもする「イクメン」について、2人が語り合いました。

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髭男爵の山田ルイ53世さんと対談する田中俊之さん
髭男爵の山田ルイ53世さんと対談する田中俊之さん

はやらなかった「マイホームパパ」

対談は、2020年12月16日、「子育てのモヤモヤ」を語るイベントとしてオンラインで行われました。

山田さん「次女が生まれた時、抱きかかえる写真をSNSにあげたんですが、この上に『イクメン』ってつけられると、あざとさが半端ないですよね。まあ、あざとい趣旨はありましたけどもね。たしかに『イクメン』という言葉は、広まりきっている。むしろ、今言いたいのは一周回って恥ずかしい感じになってるっていうことです」

田中さん「言葉としての『イクメン』には功罪両方あると思っています。育児をしないと父親として役割を果たせてないというメッセージを、これだけわかりやすい言葉で伝えられるようになったっていうのはメリット。例えば、朝日新聞のデータベースなどで引いてみても『イクメン』という単語を使った記事はとても多い」

山田さん「それは現在も、ですか?」

田中さん「はい。ただ、1960年代にも『イクメン』のような父親像というのはありました。その時は、『マイホームパパ』って言ったんですけど」

山田さん「マイホームパパ!! ありましたね、そんな言葉」

田中さん「でも、『マイホームパパ』を朝日新聞のデータベースで検索しても数件しか出てこないですから。やっぱり『イクメン』に比べるとインパクトがないですよね。言葉として」

山田さん「『マイホームパパ』では刺さらなかった?」

田中さん「そうなんですよ。記事にならなかったんですね」

山田さん「でもやっぱり、今の時代の感覚で考えると、元々は子育てをしなくていい男が育児に参加しているのがすごくて、偉い、というギミックですよね? 『イクメン』という言葉は」

田中さん「そうです」

山田さん「令和の時代に入って、『僕、イクメンです』というのは、なんか気恥ずかしい気もするし、正直、自分はそんなに胸を張れるほどの子育てはしてない。していたとしても、胸を張ることでもないと思っている。なかなか、『イクメン』という言葉の扱いが難しくなっているんですかね?」

田中さん「それは『マイホームパパ』でもあったことなんですけど、人によって定義が違っちゃうんですよね。幅が広すぎるので、どこまでやったら『イクメン』なのかよく分からない。ちょっとだけ育児をやって『イクメン』と名乗ると、〝その程度か?〟となるし。逆に、〝育児に専念しているから自分は『イクメン』だ〟と言うと自慢しているみたいにもなる」

山田さん「もう、次の言葉があっていいし、あえて言葉にしなくてもいい。そんな時代に入っていないとおかしいですもんね」

田中さん「誕生から10年ですから」

山田さん「芸能界では商売になりましたからね。みんな『イクメン』と呼ばれたがった時期があって、実際、お仕事になるというところもあるし。それだけ強いメッセージではあったんでしょうね」

「子育ても仕事、仕事をしながら仕事はできない」

田中さん「『イクメン』の罪の部分として、仕事が効率的にできて短い時間でも成果が出せるという風に伝わってしまったところがあります。これまでの仕事量を維持したまま、プラスアルファで育児もしています、という」

山田さん「それは、しんどい」

田中さん「だから、私は〝普通の人〟の子育てという意味で『フツメン』の方がいいんじゃないかなと思うんです。僕自身が親になってみて、子育てをしたから仕事を効率的にできて成果は同じ、みたいなことは絶対にないなと思って」

山田さん「絶対ないですね。それは」

田中さん「そうですよね」

山田さん「うちも、次女を産む時に奥さんが2週間くらい入院したんですよ。その間、当時、小学校1年生に上がったばっかりの長女と朝から晩まで暮らす。朝ごはんを作ったり、髪を結うてあげたり。学校から帰ってきたら晩御飯でしょ。そして、お風呂に入れて、また髪をとかして、歯磨きさせて……全部やっていたらもう仕事なんか一切できないですよ。ていうか、あれが仕事ですもん。ここですよね?多分」

田中さん「そうです。そうです。」

山田さん「家事とか、子育てって職場でしょ? 仕事でしょ? 仕事しながら仕事できないですもんね」

平均の家事育児時間、ほとんど女性任せ

田中さん「『無償労働』と言いますが、報酬は出ないけど、人が生きていく上では本来、欠かせない行動なのに、軽視されている。場合によっては誰でもできるとか、簡単なものだとか思われがち。それを2週間も経験したのは大きいですよね」

山田さん「正直、その時はしんどかったです。まあ、しんどいと言いつつ色々やってはいますけどね。でも胸を張って言うほどはやってないな。田中先生はどうですか?」

田中さん「何を基準にして考えるか次第ですが、一般の日本の男性の家事育児の平均時間に比べれば、圧倒的にやってます」

山田さん「いわゆる、その平均的な一般的な日本の男性の家事育児の平均時間ってどれくらいなんですか?」

田中さん「育児と家事を足して週の平均で1日1時間半いかないくらいです」

山田さん「そんなに短い?」

田中さん「全然やってないですよね。さらに言えば、週の平均でこれなので、平日はもっと短いはずです。平日は基本的に日本の男性は仕事が忙しい、ということに尽きちゃうんで。ほとんど女性任せというのが現状です。うちは今、妻が育休中なんで、午前9時と午後4時の送りとお迎えを全部、私がやっています。労働時間は極めて短い。結婚して夫婦二人だけだった時には本を年2冊書けたけれど、今は2、3年に1冊みたいな感じになってきますもんね」

総務省が調べた国際比較では、夫の「家事・育児関連時間」の少なさが目立つ
総務省が調べた国際比較では、夫の「家事・育児関連時間」の少なさが目立つ 出典:コラム1 図表2-2 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(週全体平均)(1日当たり,国際比較) | 内閣府男女共同参画局

「イクメンじゃないとダメ」への違和感

山田さん「田中先生は、家事育児について、誰から言われたわけではなく、今のように取り組もうと自分で考えてやってらっしゃるんですね」

田中さん「そうです、そうです。『イクメン』の話で言えば、僕はやっている方だと思いますよ。でも、『だから君らは』みたいな話じゃなくて、僕はやりたいんでやっている、ということなんです」

山田さん「そう。そこに落とし穴というか、しんどいところがあるなと思っていて。『イクメン』じゃないとダメだよっていう感じになってくると、ちょっと違うなって思うんですよね」

田中さん「おっしゃる通りです」

山田さん「みんなが、おしめも変えつつスーパーサラリーマンで、スーパー仕事できてっていうのはありえないことやなとは思うんですね」

「自分は無力」を知る大事なプロセス

山田さん「おしめなんて今、進化しているので、余裕やなと思っていたんですが、いざやってみるとほんまに汗だく。使ったことない筋肉を使っている感じ。赤ちゃんの扱いとかわからへんし。おしめ一つ変えるのも重労働やって、本当にこの先どうなることやらって、途方にくれた時がありました」

田中さん「それは、本当にいい経験だなと思うんですよね。子育てってやる前は、子どもなんて不合理な存在なんだから、こちらが合理的に備えればいいじゃんっていうイメージがあると思うんですけど、そんな簡単なものじゃないんですよね。使ったことのない筋肉っていう表現がすごくいい。今まで人生の中で経験したことのないような経験をすると、自分って無力なんだって思うから、じゃあどうしようってなるわけじゃないですか。このプロセスがないとちゃんと親になることってできないんじゃないかな」

山田さん「まず、できないという挫折というか」

田中さん「それが極めて大事なんだろうなって思うんですね」

山田さん「育児関連の本は、まさに知識の貯金というかデータを蓄積しているようなものじゃないですか。でも、やっぱり、おしめ替えなり、抱っこなりのところでは、『ムズっ』ていう体験は必要ですよね。まっさらな状態で、きちんと『難しいな』と思う。思っていいし、それを言えた方がもっといいんですよね」

田中さん「それはそうですよね。だってできないから。不十分だから学ぼうとか、不十分だから技術をつけようとか、なるわけじゃないですか。その最初の挫折をママに任せちゃうと、その後、もうママしかできないことばっかになってしまう。歯磨きも、お風呂も、『ママと入る!』みたいになっちゃうから」

山田さん「できないこと、わからないことを言いやすい環境を作らないといけない」

田中さん「できないとか、やれないとか、辛いとか、そういう言葉をちゃんと吐けるかっていう問題とつながっていると思います」

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