連載
#3 SDGsイノベーション部
共感は社会を変える! 寄付つきSDGs商品を広めるため取った行動
崇高な志だけではサステナブルにできません。
多くの企業で浸透してきている「SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)」。数々のSDGs関連プロジェクトに関わる一般社団法人こども食堂支援機構の代表理事・秋山宏次郎さんが、自身の関わったソーシャルビジネスの一例を紹介します。今回は、こども食堂支援の寄付つきの非常食を売るために何をしたのかをつづります。
前回こども食堂支援の寄付つきの非常食を作ってもらったこと、製品化されたのにあまり売れていないことを書きました。売れていない理由はシンプルです。販売店を開拓できていないんですね。
取次会社が数えるほどしかない書籍と違って、非常食を販売する商社は膨大な数が存在します。この市場を開拓するのであれば、そのような企業に取り扱ってもらえるよう1軒1軒交渉する必要があります。
しかし、納入する際の確認事項が多いのが非常食という商材。配送するトラックが大型だと車庫に入れず納品不能のトラブルが起こることもあります。企業側も売り慣れている製品があるので、新しい製品を担いでもらうのはかなりタフな交渉になります。自分にはその交渉をいくつもこなすマンパワーがありませんでした。これが誤算。
寄付つき非常食の自社利用購入を希望してくれる企業さんは時々います。しかし商社に取り扱ってもらうような説得がハードなので、話がある度に自分が直接販売する形式に逃げてしまってたんですね。これじゃ広がりません。
ということで、テコ入れしなきゃと思っていた時に埼玉県のこども支援イベントで出会ったのが、一般社団法人ミスワールドジャパン埼玉でした。世界3大ミスコンの一つであるミスワールドの予選大会を主催している団体です。
こどもの健全育成に向けたボランティア活動を行いたいということで、なんと大会ファイナリストがSNSなどで積極的にPRしてくれることに。さらに販売店として埼玉大会で直売コーナーも設置してくれることになりました。大会には大勢の人が観覧に訪れますし、そこには大会スポンサー企業の経営層も含まれます。
過去の受賞者も店員に立候補してくれ、企業の大規模な購入を見込んで準備を進めていたところを襲ったのがコロナです。あえなく大会は無観客に。昨年3月の話です。
寄付つき非常食をPRするミスワールドの受賞者
こども支援の寄付つき非常食を広めるアイディアを公募したところ、全国から様々なアイディアが寄せられました。その中でも最も熱がこもったアイディアを送ってきたのが都内の大学生3人組。提案の中には自分自身が企業に購入を提案したいという積極的な内容が含まれていました。
しかし、普通の大学生が突然企業に提案しても門前払いされるのがオチ。それも織り込み済みで、提案には、この取り組みに権威を与えるために行政のバックアップがもらえないかという内容も含まれていました。
ミスワールドジャパン埼玉とその提案を見た瞬間、私の脳裏に浮かんだのが埼玉県でした。こども支援担当者がズバ抜けたフットワークを持っているからです。
とはいえ、いかに柔軟で仕事が早くても県が応援する以上は県のメリットを作る必要があります。通常の方法ではいくら売れても「全国の」こども食堂支援になるため、県がこれを特別に応援することは難しい。
そこで目を付けたのが埼玉の「こども食堂応援基金」です。非常食販売によって発生した寄付を、全額ここに回せば埼玉県のこども食堂をピンポイントで応援できます。
そこでミスワールドジャパン埼玉が販売する際には寄付で応援する対象として「全国」だけでなく「埼玉県」も選べるようにしてもらいました。この選択肢を作ることによって県が取り組みを応援する理由も作れます。また県内の企業担当者としても地域密着の社会貢献が選べれば組織的な承認が取りやすくなります。県としてもメリットしかないのでSNSなどで取り組みをPRしてくれることになりました。
県内のミスワールドジャパン埼玉が販売店をつとめ、県がそれをPRし、企業が寄付つき製品を購入することによって県内のこども食堂を支援する。寄付が集まれば県内のこども食堂も運転資金問題が軽減され、目の前のこどもたちに集中できます。多くの人が強みを持ち寄ってこどもたちの成長を後押しする「街中みんなで子育てプロジェクト」です。
このような官民が一体になった取り組みが評価され、内閣府”地方創生官民連携SDGsプラットフォーム”から全国でも5例しか選定されていない優良事例に認定されました。
全ての製品に当てはまることですが、製品力や社会性だけでモノは売れません。適切な販路も必要だし、どんなに良い製品でも知ってもらえなければ誰も買ってくれません。これはソーシャルビジネスでも普通のビジネスでも変わりません。
ソーシャルビジネスが普通のビジネスと異なるのは、個人的利益を超えたパートナーシップが形成されやすい点です。
例えば、某トイレットペーパーやティッシュのメーカーでは途上国に安全なトイレを作る寄付をつけるキャンペーンを毎年行っていますが、理念に賛同したいくつかのドラッグストアはキャンペーンのたびに同社の製品を一番売れやすい場所に並べたり、キャンペーンポスターを掲示したりする形で販売協力をしています。お店でキャンペーンを知り、同製品を指名買いするようになった消費者もプロジェクトの重要なパートナーになっています。
今回の非常食も同じです。こども食堂の支援をしたいという企業や個人が自発的に協力し、県を動かし、多くの人の力がプロジェクトを政府が認める取り組みへと昇華したのです。
誰からも共感されなくても善い行動を粛々と実行する。企業のCSR担当者にはそのような崇高な志を持つ人は少なくありません。その精神はもちろん素晴らしいのですが、共感は善い行動を後押ししてくれます。単独で困難なことを実現する力を与えてくれます。
社会的に意義のある活動こそ、多くの人に知ってもらうための努力が重要です。ごくまれに社会貢献に対して「売名行為」と批判する人もいますが、名が売れない活動はサステナブルではありません。サステナブルでない取り組みで大きな社会改善はできません。
企業が自社の社会貢献を全力で告知できることが健全な社会には必要です。良い取り組みが売名と揶揄(やゆ)されることなく、多くの人に共感される空気を日本でも作っていきましょう!
秋山宏次郎
一般社団法人こども食堂支援機構・代表理事。大手企業の社員時代から他社や行政に様々な提案をし、10以上の新規プロジェクト発起人として多くの案件を実現に導く。SDGs関連のイベントも主催。監修した「こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本」は5ヵ月で7刷のベストセラーに。その他、大学での授業、講演、執筆活動など幅広く活動している。
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