話題
対談への反省…〝正解〟ばかりの枝野さんに語ってほしかったこと
消去法の政権交代で本当にいいんですか?
政治の現場は、フリーランスではなかなか入れない場もある中、タブー忖度なしにというのは、当たり前に見えて実はそれさえできていない議員が多いから、ありがたい。
一方で、これまでの経験から枝野さんの本音を引き出す難しさを感じていたので、事前のリサーチや官僚の方へのヒアリング、野党担当記者の方や専門家の方に相談を重ねた。
枝野さんは記者からの評判があまりよくない。本音が見えず、失言が少ないからだ。
「政権交代の戦略を教えてください」という質問にも、正面から答えてくれない。
たしかに、枝野さんの懸念はわかる。立憲民主党の結党大会の日程にぶつける形で、自民党の総裁選の日程などを組まれ、報道量が減ったと言われている。
森友や桜など長期政権による弊害は明らかである。民主主義の根幹である、記録を残すという原則を覆すことが行われた。だから、野党が強くなってくれないと困る。
昨年末、田原総一朗さんとご飯を一緒にする機会があった。その時、田原さんは、若者の投票率をあげるためには、野党に強くなってもらう必要があると強調されていた。「変わる」という期待もなく選挙にいけというのは、たしかにかなり無理があると自分も思う。
昨年9月にあった立憲民主党の結党大会で、私はこう質問した。
「枝野さん、政権交代はおこせますか?」
しかし、解散時期ももちろんわからないこともあり、「それは私にも分かりません」的な感じでかわされてしまった。
本当は、「おこせます。(にっこり)」との答えがストレートニュースになって、ばんばん報じられてほしかった。
せっかく取材に足を運んでも、誰からも文句がこないような答えをする枝野さんは、誰からも批判されないし、誰からの称賛も得ない。自民党の批判票が集まる。そして一定の議席数はとれる。でも、本気で政権交代狙っているの?もっともっとアピールしてよ、というのが私の本音だ。
そんな枝野さんの心を動かすために、私は自分を前面に出すのではなく、一有権者として聞いてみることにした。
そして、このYouTubeの動画を公開してから話題になり、ようやく1月31日の党大会で次期衆院選で政権交代を目指す考えを示した。
「正直、立憲民主党に入れようと思えないのですが……」
この質問を一番最初に持っていった。私は無党派層だ。いろんな政党に入れたことがある。特定の政党を支持していない。
今の自民党には、でも入れたくない。だからといって、立憲に入れたくもない。内閣支持率が下がっても、立憲民主党の支持率が急増することはない。野党は批判ばかりしているし、政権担当能力がないからと自民党に入れる。消極的に自民党を支持する人たちの気持ちが少し分かるのだ。
だから有権者として、枝野さんと話して気持ちよく立憲民主党と書きたい、中途半端な答えがきたら、気持ちよく書けないと伝えようと思った。
だが、枝野さんの答えは意外なものだった。
「気持ちよくなくてもいいから、立憲民主党と書いてください。期待値をあげすぎたらダメです。2009年の政権交代の時に失敗した。よりましな方を選ぶのが民主主義だから」と。
よりマシな方を選んだ結果、今自民党が選ばれ続けているのでは……?
組閣人事を発表し、立憲民主党が政権をとったら、この予算は増やし、こっちの予算は減らす。そういう国家像を示してくれないと、私にはイメージがわかない。
この立憲民主党の HPの綱領をみても、「みんな仲良く」ぐらいの美辞麗句が並べられているような気しかしないのだ。。。
枝野さんは頭はいいし、失言は少ない。だけど、言葉に力がないのかもしれないと思った。
この言葉とは、〝演説の出来〟みたいなものではなく、〝夢〟みたいなものだ。
売れない若手芸人の「M1優勝してやる」や「海賊王に俺はなる」的なもの、「武道館を満員にする」みたいに熱狂するようなものだ。「これからの未来はこうなるから、こういう国を目指している」という国家像だ。
ポピュリズムの危険性はもちろんあるのだが、今のままだと、具体案が出てこないから批判さえ起きないのではないか。議論にさえならないのではないか。
YouTubeのコメントでこのようなものもあった。
例えば、私が「教育費は今、およそ5%ぐらい年間で使われていると思うんですけど、立憲民主党が政権をとると、どのくらいになるんですか?」と聞いた時の答えは以下のようなものだった。
「そういうテーマを立てるからダメだと。国会で予算を通さないといけない。衆参でねじれがおきる可能性もあるし、やると宣言しても震災やCOVID-19などの場合は対応できない。将来的にはヨーロッパの先進国の水準にはもっていきたいし、大きなゴールは示せるけど、具体的な数字をしめすと大きな注目を集めてしまうことを過去に僕自身がやってしまい反省しています」
でも、その大きなゴールも今のままでは国民には届いていないのではないか。
数字を言ってもらって、じゃあそのためにはどうするんですか? と話して議論が転がっていく。具体例を言わないと議論や批判さえできない。
本来は、野党が自民党と違う国家像を示せば、議論が巻き起こるはず。しかし、今の野党は、次の選挙をどうするか、国家像をすり合わせず、野党共闘をどうするかばかり考えているように思う。政局ばかりで、政策論争が少ないように感じる。
枝野さんや立憲の国家像がやはりよくわからない。これは、枝野さんに限らず、自民党の総裁選でも思った。いまだに菅さんが目指す国家像がよくわからない。
本来なら、国家像を示し、期待値をあげすぎるべきでもなく、達成できる数値目標を掲げるべきではないか。そして、緊急時には、緊急時だから目標を変えると国民にしっかり説明すればいいのではないだろうか。
枝野さんと私の対談は最初から最後まで噛み合っていない。
立憲民主党を積極的に支持したい私と、奇をてらったことをしたくない枝野さん。私は政治のプレー経験がないから、理想論をぶつけすぎたのかもしれない。でも、やはり私のような無党派層って結構多いと思うから、立憲民主党や枝野さんの声は私たちには届いていませんよ、というのをうまく伝えて気づいてほしかった。
そして、少しでも枝野さんのコミュニケーションを変えてもらい、強い野党になってほしかった。それに失敗した。
正直、どちらが正しいのかはわからない。できないことは言わないというような枝野さんの姿勢はある意味真摯なのかもしれないし、ビラをくばり、地元で頑張り続けること、個人が信頼をとり続けることが大事で、変な期待値をあげすぎないというのも分かる。
現に立憲民主党は、国民民主党の議員と一部合流したことで国会での議員の数を増やしたし、選挙で野党票が割れることも防げるから、次の選挙では増加する可能性が高いだろう。
でも、本当に本当に、ただ、よりマシなものを選びつづければ、この国はよくなるのだろうか。。。
対談への反省とは裏腹に、記事はYahooニュースでよく読まれた。
まず、4500件もコメントがついた。枝野さんは、国民の多くは、選挙期間中しか野党には興味をもってくれないと言っていたが、そうではないことが示されたのではないか。
Yahooニューストップのコメントには、2万9千ものいいねがついている。その他にも、たくさんのコメントがついた。
国民は、意外としっかりと見ているのではないか。
また、このような厳しい言葉もあった。
このように野党は批判ばかりしているという印象がどうしても強いようだ。
対談で私は、野党は批判ばかりしている(反自民・反安倍・反菅を言っているイメージが強い)から選挙で入れたくない人も多いのではないかと聞いた。
すると、「大手メディアの責任が大きい」と話した。一部を切り取って反対ばかりしている印象をもたらしていると。
そして、私が「安倍政権で失策が続き、菅さんも学術会議をはじめ信頼を落とし支持率が下がる中、立憲民主党はもっと国民に嫌われているのではないですか?」と聞いたら、「安倍さんのプロパガンダが非常にうまかったから、それに乗っかってしまった。国民の期待に応えようとしすぎて真新しいことをやったのが希望の党騒動だ」と。話した。
また批判か。。と思ってしまった。
そして、枝野さんは、こうも言った。
「僕は途中からだめだと、もっと地に足つけてやりましょうと。立憲民主党はいろいろ言われながらも顔ぶれも変わらずにやっている。変わらないことが信頼につながる」。そして、自分たちを振り返り「実はこの3年間、正しかったでしょう」と評していた。
そうか。それが溝か。
私は立憲民主党を評価していない。支持率が高くなく、(2021年1月の共同通信の世論調査では7.8%)このままでは強い野党にはなれないからだ。
でも、枝野さんは地に足をつけていることを評価している。消去法を繰り返した結果の政権交代って本当にいいものなのだろうか。
「野党は批判ばかりしているは、印象操作」という疑念はわからなくもない。
中谷一馬さん(立憲民主党の衆議院議員)の検証によると、第201回の国会では、審議された法案103本のうち、90.29%(93本)に賛成し、反対は、9.71%(10本)だという。ちなみに、野党議員のみで提出した法案は47本あるという。
しかし、これを見てもなお、野党は反対ばかりというのは、印象操作だとは思えない。
私がうまく引き出せなかったのかもしれないが、私は代表に取材しても、立憲民主党の結党大会に取材に行っても、立憲民主党がどんな国家像をもっているのか、何を具体的にすすめてくれるのかわからなかったからだ。
政治とはトレードオフであって、いろんな人の利害関係によってなりたっている。困っている人全員にお金を配った方がいいけど、お金には限りがある。そのときに、誰かが我慢する。誰に我慢してもらうべきか。具体的な痛みを話してもらわないかぎり、やはり納得できないのではないか。
野党の記事は読まれないと言われがちだ。そんな理由で、情報が少なくなるのは、悲しすぎる。
でも、そうではないことは、今回の記事は証明したのではないだろうか。
メディアも、もうちょっと頑張って政治家の本音に迫る記事や素朴な有権者の疑問をどんどんぶつけてほしい。
枝野さんはメディアにも切り取りをされると嘆いていた。枝野さんがどう思うかはわかないが、私は自分のYouTubeや、今回の記事で、枝野さんの発言を大きくねじ曲げたりはしていないと考えている。
私は枝野さんを持ち上げようとも、批判しようとも思っていない。日本がよくなるために、野党が強くなってほしい。だからこそ、いいところも悪いところも知りたいし、知ってほしいとしか思っていない。
だから、枝野さんが、頑なに政権交代の道筋を言わないのか気になったので、その疑問を本人にぶつけたにすぎない。
まずは、聞く。相手がなぜその思考なのか根底にあるものをあぶりだす。その人の考えや特徴を引き出す。
そして、枝野さん、これを読まれて印象操作だと思われたら、もう一度お話させてください。生配信なら、印象操作もできないはずです。
読者のみなさんは着実に信頼をとりにいく枝野さんの考えを支持しますか? 野党に何を期待しますか? 今までのメディアの野党批判は納得できますか? 枝野さんの話を聞いて、考えが変わりましたか?
ぜひ、YouTubeのコメント欄もあわせて読んでいただければと思います。あらためて、受け取り方というのは人によって様々なのだということを感じましたし、それを知ることが、議論の出発点になるのだと思いました。
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