話題
今はちょっと支持できないです…枝野さんに正直な疑問をぶつけてみた
昨年、旧立憲民主党と旧国民民主党が合流して、新党「立憲民主党」が誕生しました。その代表を務めるのが枝野幸男さんです。菅政権の支持率が低迷する中で、最大野党である立憲民主党に期待がかかる局面を迎えています。しかし十分にその存在感を示せているとは思えません。それはいったいなぜなのか。政権交代を本気で目指しているのか。笑下村塾たかまつななさんが枝野代表に直接疑問をぶつけました。
――最近の自民党の政治はひどいと感じます。かと言って立憲民主党を支持できるかというと、今はちょっとできないというのが正直なところです。個人的にはきょう枝野さんとお話しして選挙で立憲民主党に気持ちよく投票できたらいいなと思っています。
枝野:気持ちよく投票できなくてもいいから書いてください。今、我々は野党なので結果を出せないんですよ。実績を示せないけど政権担当能力を示せと言われているわけです。「何か心配だけど」とか「うーん」と思いながらでも「これはひどすぎるから、こっちよりはましだよね」と思って選ぶのが民主主義です。
僕は2009年の民主党の政権交代の失敗を中心のすぐ隣で見ていました。あのときは期待値が高くて政権を取ったから失敗したんです。それに応えようと無理をして結果的に失敗して期待を裏切ることになったんです。
――めちゃくちゃ意外な答えですね。
枝野:あのとき期待をあおった我々が一番悪いんです。日本は議会制民主主義、議院内閣制ですから全てのことを一気に変えられないんです。国会で法案を通さないといけないわけです。自民党さんだって衆参で3分の2の議席を長い間持っていて圧倒的な力があっても、安倍さんが一番やりたかったことはできなかったですよね。だからバランスを取りながらちょっとずつ良くしていくしかないんですよ。
――安倍政権で失策が続いて、菅政権でも学術会議のこともあって支持率がどんどん下がっているにもかかわらず、立憲民主党の支持はまったく広がっていないように思います。
枝野:それは安倍さんのプロパガンダが非常にうまかったですからね。そのプロパガンダに乗ってしまった。2017年の希望の党の騒動までの5年間というのは国民の皆さんが我々野党からどんどん離れていった。というか国民の皆さんから私たちが離れていったんです。
政権交代したあと期待に応えられなかったという反省が強ければ強いほど、何かしなければいけない、何とかして国民の皆さんの意識を変えなきゃいけないと、いろいろなことをやろうとしすぎたんです。目新しいことや奇をてらったことにどんどん走って、ますます信頼を失っていった5年間でした。
その行き着いた先が希望の党騒動だと思っています。僕は途中からもっと地に足をつけてやりましょうと言ってきた。信頼されるためには、安心と安定が大事なんです。
――私は立憲民主党の結党大会を取材しましたけど、枝野さんが国民に選択肢を示すとおっしゃっていたのがすごく印象的でした。例えば、政権をとった場合の組閣人事を発表するとかすれば、国民の選択肢につながるんじゃないかと思いましたが。
枝野:それこそ、まさに奇をてらっている話です。なぜかというと、誰かをネクストキャビネット(次の内閣)の大臣にしたら、その人にそのテーマの政策とか国会論戦についても先頭に立ってやってもらわないといけないじゃないですか。でもその人は他の仕事を持っているから現実的にはそんな余裕はない。そんなに豊富に人材がいるわけではないんです。
人気取りのために名前を並べるだけならできます。でも政権を取れたときに全然違う顔ぶれになってしまったらそれこそ不信を招きますよね。実際に2009年の鳩山政権のときもそうなりました。
――では、10月26日に菅さんが所信表明演説されたみたいに、枝野さんも政権を取った場合の所信表明演説をするといったことはできなかったんですか?
枝野:今の制度ではそれが代表質問です。あのときの代表質問の半分は私の所信表明です。それはメディアにも認めていただいていて、所信表明的代表質問という取り上げ方をされています。党の広報としてもそういう形で広報しています。
制度としてそういう仕組みをちゃんと作ってくれているんだから記者会見で30分演説しても誰も相手にしないじゃないですか。代表質問を読んでいただければ、菅さんの所信表明よりもよほどしっかりしていると思ってもらえる自信はあります。
――どうすれば、国民は枝野さんから選択肢を示されたという実感を得られるでしょうか?
枝野:選挙の公示の日に認めてもらうことです。公示の日にならないとそういう意識を持っていただけないんです、残念ながら。
――選挙のときだけということですか?
枝野:違います。そのときに初めて選挙と選挙の間の何年間、うちの地域の議員や候補予定者が駅でよく頑張っていたなとか、ビラを受け取ったことあるなとか、国会であんなことをやっていたなとか思い出してもらえる。自民党と並べて考えてみようかと思ってもらえるのは、公示の日が初めてなんですよ。
――いますぐに政権交代をしたいとは言わないということですか?
枝野:今、私が政権交代と叫んでも耳を傾けてもらえる状況にはなっていない。選挙までの間に、さまざまな活動がちゃんと積み重なっていれば、公示の日に初めて「選択肢として私たちに政権をください」と言える。今言えることは「政権の選択肢を目指す」ということだけです。
――それまではやっぱり期待値を上げすぎないほうがいいと?
枝野:期待値はもちろん高いほうがいいんです。でも期待値を上げることを自己目的化しちゃいけない。求めているのは安心であり安定です。安心や安定は短時間では絶対にできません。信頼というのも短時間では絶対にできないんです。
――だからこそ、私は今から言ってほしいです。野党の党首に、政権交代を起こすから絶対に入れてくださいとやっぱり言ってほしいです。
枝野:私を信頼してくださいって言うのは詐欺師ですから。残念ながら今国民の皆さんの圧倒的多数は、日々の暮らしが大変で政権のことなんてどうでもいいんですよ。選挙のときに選ばなきゃいけないからということで初めて関心を持っていただくので。今、政権交代と言っても「あんたが総理になりたいだけでしょ」と誤解されてしまいます。
――選挙のときに報道される量が増えても、選挙のときしかやってないじゃんと言われませんか?
枝野:何もやってないわけじゃないですよ。今朝も僕はね、地元の駅の前で1時間街頭演説してきています。午前中、短い時間だけど地元で応援していただいているところは回ってきているんです。そういう活動はちゃんとやるんです。
でもそこで、野党第1党の党首ですから私を総理にするために応援してくださいなんて言ったら馬鹿だと思われますよ。それは違うんです。やっぱり今は何の話をするかといったら、医療崩壊であるとか、GOTOキャンペーンの右往左往であるとか、そういう具体的な政策や理念なんです。
だから政権交代が前に出ちゃうと、何のためにやるのかというところが伝わらないんです。政権交代が自己目的化しちゃうんです。なので、政権交代を高らかに叫ぶんじゃなくて、何をするのかと。あるいは何を変えるのかというところを繰り返し言うべき時期なんです。
――実際に政権交代が起きたら何が変わるんですか?何をしてくださるんですか?
枝野:少なくとも今までの「自助」や「自己責任」を強調する社会から、医療や介護や保育に代表される生きていくために不可欠なサービス「ベーシックサービス」を誰もが安い費用、負担可能な範囲で受けられる社会へと変えていく。その転換への第一歩を踏み出す。大きな方向の転換です。
これはたぶん中曽根内閣のときからの転換なので、35年ぶり、40年ぶりぐらいの転換です。だけど一気に全てが変わるわけではありません。政権交代したからといってすぐに保育所がバーっとたくさんできるわけではない。
介護サービスがガーッと数が増えるわけでもないけれども、間違いなくどんどん小さくなっていっていた方向から、どんどん大きくしていく方向に方向転換の第一歩を踏み出す。これが私たちのやることです。
――その分めちゃくちゃお金がかかりそうですけど、どういうところを減らしていくんですか?
枝野:キャッシュで配っているところを、ある程度は抑制できると思います。
つまり高齢者の皆さんは年金の額そのものを気にされている方もいらっしゃるけれども、それ以上に多くの人たちが年金の範囲でちゃんとした医療が受けられるのか、ちゃんとした介護が受けられるのかということを心配しているんですよ。もらう年金の範囲の中で、そこそこの医療や介護が受けられるならば、年金を増額しなくても現在の年金の額でいいという人がほとんどなんです。
だから例えば受け取っている年金の額に連動する費用でそうしたサービスが受けられるようなことが作られれば、年金の額は抑制できます。こういうところが一つ大きなポイントだと思っています。
――野党がどうしても反自民、反安倍、反菅をすごく言っているイメージが強いです。ただ文句言っているだけだと、選挙で票を入れたくないという人もいると思いますが。
枝野:最近、明確に言おうと思っているんですけど、大手メディアの責任が大きいです。例えば先日もこの状況だから緊急事態宣言が必要だということで、ぶら下がりをしたわけですよ。これについてきちんと説明をしてやり取りもいろいろあったあと、最後に直接関係ないけど、桜を見る会の証人喚問をするのかということを一言聞かれました。
ここでうかつに答えると、ここだけ使われると思ったので「国対(国会対策委員会)に任せている」みたいなことを言ったんですけど、そこだけ夜のニュースで切り取って使われたんですよ。だから最近は相当ガードを固くしています。メディアの側がこれを取り上げて伝えたいと思っていることに答えちゃいけないと。答えてしまったらそこばっかり取り上げられるので。
野党は批判ばっかりって言われますけど、我々は批判するのも仕事です。野党が批判しなきゃ誰が批判するんだっていうこともあるので、堂々と言わなきゃいけないところもありますが、力を入れている話が取り上げられず、そうでない部分ばかりが取り上げられることをどう防ぐかというところには相当知恵を絞っています。
僕らの意識としてはメディアと戦っているみたいなところはありますね。
――最近、中道に近い人たちは票を入れる党がないと感じているのではないでしょうか。
枝野:まずリベラルとか保守とか中道とか、国民の皆さんのほとんどはそんな意識を持っていません。そんなことを考えているのはこの業界の近くにいる人だけです。自民党に投票している人たちも、別に保守だとか右だとかなんて考えて入れている人はほとんどいないです。ごく一部なんです。
逆に言うと、非自民の人たちも、左だとかリベラルだとか、そんなことを考えて非自民じゃないんですよ。今の自民党の政治で、直接、やっぱりまずいなということに気付かざるを得ないような状況を経験したことがある人たちなんですよ。
つまり、いい悪い別としてですよ、今の日本の民主主義って、結局、人に対する信頼なんですよ。各選挙区における候補者、議員、この人は信用できるのか、期待できるのかという、人に対する信頼とか期待が、特に小選挙区の投票行動のかなりの部分を占めています。
信頼される活動をしていれば、何党だろうと関係なく応援してくれるんですよ。ここの層を広げていかないといけないんですよ。
――若い人の声を政治に届けるにはどうすればいいですか?
枝野:まずは若い人たちが声を上げなくちゃいけないですよね。政治へのアプローチの仕方が分からないときはどうしたらいいのか。地元の地方議員を捕まえることです。
できれば大きな政党に属している議員を。教育や子育ては立憲民主党なり野党側だろうと思いますし、他のテーマだったら自民党かもしれない。共産党かもしれない。それぞれのテーマごとに得意な政党はあります。
今、我が党は国会議員151人だけど、自治体議員は1千人以上いるわけです。全然空白のところもあるけれども、それなりにいるわけですよ。そうすると我々とのネットワークがある地方議員もいるわけで、ここにアプローチすることでしょうね。
――最後に、若い人の声をより届けやすくするために、議員さんへの陳情の仕方とか、政治家をこういうふうに使ってくださいというような取説のようなものがあったらぜひ教えてください。
枝野:若い世代の最初のアプローチはネットがいいですよ。なぜかというといつでも読めるし共有できるから。ツイッターでも「#立憲ボイス」というのを集めていますけど、これも全部見てちゃんと統計を取って私のところに来ています。
あと、うちに声を寄せてもらうのもいいんですが、党首の私のところには山ほど声が来るわけですよ。そうすると何か動こうと思っても中堅か若手の仲間を見つけてきてそこに振るしかないんです。自分で動けないから。
だから本当に政治家を動かしたいならフットワークのいい中堅や若手、そのテーマに関心を持っている議員がいいです。
例えば教育関連なら衆議院のホームページから、文部科学委員会のリストがすぐに出てきます。彼らはそれを一番メインでやっているので、そういう人たちにとにかくメールを送ればいいんです。
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