連載
#67 ○○の世論
何のために働くの?世論調査でわかった「モーレツ社員」が減った理由
じわじわ増える「日々の生活のため」
コロナ禍で、ワーク・ライフ・バランスを見つめ直す人が増えています。かつて私生活を顧みず、仕事にうち込んだサラリーマンは「モーレツ社員」と呼ばれていました。今や、仕事ばかりしている人は「社畜」とやゆされる時代。日本人の仕事観の移り変わりは、この半世紀の世論調査からも、うかがうことができます。(朝日新聞記者・植木映子)
家庭やプライベートは二の次で、会社のために働きまくる「モーレツ社員」。「企業戦士」ともいわれ、その存在は日本の経済成長を支える象徴の一つとしてクローズアップされました。
1974年に行った朝日新聞社の世論調査(面接)で、仕事観を尋ねると、「仕事はうち込んでやるべきもの」53%が、「生活のためにやむを得ないもの」30%を大きく上回りました。
男性は、若いほど「生活のため」、年をとるほど「うち込む」傾向が強く出ました。「うち込む」は、戦後生まれの20代前半の男性では半数を割って45%と、年代別で最低に。
一方で50代男性は7割近くが「うち込んでやるべきもの」と答えました。当時の記事では「中年は猛烈型」という見出しで、調査結果を紹介しています。
その後、バブル経済がはじけ、「失われた20年」ともよばれる経済停滞期を迎えます。
2006年に行った面接調査で、「人が働くのは何のため」と3択できくと、「日々の生活のため」が67%を占め、「自分の生きがいのため」は26%にとどまりました。質問文も選択肢も違うので単純には比べられませんが、30年の時を経て、仕事観には、大きな変化がみられました。
一方で、年代別の傾向は、1974年の調査と重なる部分もあります。
20~40代は「生きがいのため」は20%前後にとどまり、「生活のため」が74~75%と他の年代より高めです。「生きがい」派は60代以上になると増え、60代では37%が「生きがい」派でした。
30年前の世論調査もあわせてみると、若い世代ほど、ワーク・ライフ・バランスにおける仕事への「重心」が低めなのは、時代を超えた傾向としてもありそうです。
2006年の調査では、日本が「努力すれば報われる社会」と思うかどうかも聞いています。「報われる」41%より「報われない」48%がやや多い結果になりました。
終身雇用制度が揺らぎ始め、がんばった分報われる、とも限らない。こんな思いが、仕事観にも影響しているようです。
同じ質問は、2013年の郵送調査でもしました。20代は「報われる」が32%にとどまり、「報われない」60%が大きく上回りました。30代以上でも「報われる」は37%で、「報われない」は54%。
「努力しても報われない」という見方がさらに広がっていることがうかがえます。
「モーレツ社員」という言葉が廃れていった背景には、こうした時代の空気の変化もありそうです。
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