連載
#65 ○○の世論
菅義偉内閣の100日間、ハネムーン中の支持率急降下で〝不穏な動き〟
そもそもが消極的な支持…V字回復の道は?
菅義偉内閣が9月に発足してから、100日が経ちました。朝日新聞社が9月から12月にかけて行った全国電話世論調査を分析すると、菅内閣の岩盤支持層である自民支持層が〝不穏な動き〟をみせていました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
12月19、20日に実施した全国電話世論調査で、菅内閣の支持率は発足した9月の65%から、39%に急落しました。
新政権のはじめの100日間は「ハネムーン」と呼ばれ、有権者もメディアも好意的に見守ることが多いのですが、菅内閣の支持率はその期間に急降下しました。
9月から12月にかけての世論調査の内閣支持率の推移をみてみます。
支持率急落の一因に自民支持層の離反があったことがわかります。
自民支持層に限った内閣支持率でみると、9月87%→10月80%→11月83%と推移しましたが、12月は67%に落ち込みました。ただ、自民の政党支持率は、9月41%→10、11月39%→12月38%で、自民支持層の大きさはほぼ変わっていません。
つまり12月は、自民への支持は厚いまま、菅内閣への支持だけが離れた、ということになります。
菅首相は自民党のトップ・党総裁でもあります。それだけに、内閣の岩盤支持層である自民支持層の内閣支持率は、政権運営を左右します。政権を安定的に運営するうえで、7割が一つの目安になります。
安倍晋三氏の場合は、第1次政権発足から9カ月後、2007年6月末に初めて7割を切り、64%に落ち込みました。直後の参院選は惨敗し、同年9月の退陣につながりました。
2012年12月からの第2次政権では、自民支持層の支持率は7割~9割台で推移しています。7割を初めて切ったのは、財務省の公文書改ざん問題が発覚した後の2018年4月でした。新型コロナ対応に批判が集まった今年5月~6月には3回連続で7割を切り、結果として最長政権の体力を奪いました。
菅内閣は、短命に終わった第1次安倍政権と比べても、岩盤支持層がはがれる時期が早いことがわかります。
菅内閣を「支持する」理由は、何でしょうか。
菅内閣を「支持する」と答えた人に、「首相が菅さん」「自民党中心の内閣」「政策の面」「他よりよさそう」の選択肢で「支持する」理由を聞いたところ、「他よりよさそう」が4回とも4割を超え、12月は46%と最も高くなりました。
首相の人柄などを積極的に支持する「首相が菅さん」は9月の23%から10月は15%に下がり、その後も低調でした。
自民支持層でみても理由のトップは「他よりよさそう」でした。12月は最多の42%でした。有力な後継候補が今のところ自民党内にいないこと、野党第1党の支持率がおおむね1ケタ台で低迷していることが背景にあります。その点は第2次安倍政権と同じです。
さらに菅内閣を「支持しない」と答えた人の理由をみてみます。
9月から12月にかけて、全体では理由のトップが「自民党中心の内閣」から「政策の面」に変わり、自民支持層では理由のトップが「他のほうがよさそう」から「政策の面」になりました。特に、自民支持層の不支持理由として、「政策の面」が9月の30%から12月の72%に急増しました。
菅首相の自民党総裁としての任期は来年9月末までです。菅さん自身はピンチヒッターで終わるつもりはなく、総裁選の再選と、来年10月までに行われる総選挙の勝利をもって長期安定の本格政権樹立を狙っているはずです。
現行の選挙制度となった橋本龍太郎内閣以降の11内閣を分析すると、本格政権となるには、支持率の復元力が欠かせないことがみえてきます。
11内閣のうち、発足から100日前後の調査で支持率が大きく下がったのは8つ。このうち支持率が5割まで上がらず短命に終わった「右肩下がり型」が自民党の森喜朗氏や安倍氏(第1次)、民主党の鳩山由紀夫氏らの6内閣でした。
支持率を5割超に上昇させ、1年以上政権を保った「V字回復型」が、自民党の橋本氏と小渕恵三氏の2内閣です。
1996年1月に61%の高支持率で船出した橋本内閣は、不良債権を抱えた住宅金融専門会社(住専)を税金で救済することに批判が集まり、支持率が下落しました。それでも、沖縄の米軍普天間基地の返還合意で支持率を上向かせると、住専問題や沖縄の米軍用地強制使用問題に道筋をつけたうえで、衆議院を解散し、総選挙に勝利しました。行政改革への期待感もあり、支持率は総選挙後の同年11月、55%に回復しました。
菅内閣の支持率を左右するのは新型コロナウイルス対応です。自民支持層が菅内閣の新型コロナ対応に不満を募らせた結果、12月の支持率急落につながったからです。
新型コロナへの政府対応を「評価する」は全体で10月49%→11月46%→12月33%と下がり、自民支持層でも、10月64%→11月56%→12月46%と落ち込みました。
観光支援策「Go To トラベル」を全国で一時停止すると決めた時期や、菅首相が5人以上の会食に出席したことを、自民支持層も問題視しています。
菅首相が新型コロナ対策で指導力を「発揮していない」は全体で10月45%→12月70%と増え、自民支持層でも10月37%→12月58%と増加しました。
12月の調査で、新型コロナのほかに一番力を入れてほしい政策を4つの選択肢から一つ選んでもらうと、全体では、「社会保障」38%でもっとも多く、「景気・雇用」33%、「行政の規制改革」14%、「環境・エネルギー」7%と続きました。自民支持層では、「景気・雇用」40%がトップでした。自民支持層がまさに、菅首相がうたう「新型コロナ対策と経済の両立」という難題を突きつけていることがわかります。
そもそも、自民支持層は菅首相の本格政権を望んでいるのでしょうか。この調査で、菅首相にいつまで首相を続けてほしいか3択で選んでもらったところ、自民支持層では「任期を超えて続けてほしい」は24%にとどまり、「任期いっぱい続けてほしい」が66%でトップでした。「続けてほしくない」は8%でした。
一方、菅首相の3カ月の仕事ぶりについて4択で聞くと、自民支持層では「大いに」「ある程度」を合わせた「評価する」が66%に上り、「あまり」「まったく」を合わせた「評価しない」は33%でした。
自民支持層として菅首相にひとまず及第点の評価をしつつ、本格政権を望むほどには期待していない、という意識が読み取れます。
菅内閣は、「右肩下がり型」か、「V字回復型」か――。それは、菅首相が自民支持層の難題に結果で応えることができるのかにかかっています。早くも正念場です。
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