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#16 アニメで変わる地域のミライ

アニメ見てなくても楽しめる「聖地」 神社の〝痛絵馬〟見て目覚める

このクオリティ、すごすぎます。

「鬼滅の刃」の聖地「八幡竈門神社」にファンが奉納した絵馬の数々=写真はいずれも筆者撮影
「鬼滅の刃」の聖地「八幡竈門神社」にファンが奉納した絵馬の数々=写真はいずれも筆者撮影

目次

アニメやマンガの舞台を旅する「聖地巡礼」。しばしば「聖地」として取り上げられるのが、“神社”です。なぜ「聖地化」しやすいのか。どのような流れでファンの交流拠点になるのかについて解説します。

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「痛絵馬」の存在感

アニメの舞台を旅するとき、しばしば目的地に挙がるのが神社仏閣です。特に目当てのものになりやすいのは、ファンによって境内に掛けられた、作品のキャラクターなどが描かれた絵馬です。

こうした絵馬は「痛絵馬」とも呼ばれますが、一目見て「ここがこの作品の『聖地』なんだ」と実感しやすいことから、各作品の舞台を象徴する場合が多いのです。

「夏目友人帳」の聖地、熊本県人吉市の「田町菅原天満宮」に奉納された絵馬の数々
「夏目友人帳」の聖地、熊本県人吉市の「田町菅原天満宮」に奉納された絵馬の数々

「らき☆すた」以前から神社に巡礼する動きも

こうした「痛絵馬」が注目されるようになったのは、2007年に放送されたアニメ「らき☆すた」がきっかけだと考えられます。筆者はアニメ放送中の07年8月に舞台となった「鷲宮神社」に参拝していますが、この時から既に「痛絵馬」が飾られています。

「痛絵馬」がいつからファンによって奉納されるようになったのかは、よくわかっていません。しかし、作品の舞台を訪れたファンが神社仏閣に参拝する動きは、「らき☆すた」以前からあります。

著名な作品としては、1992年に放送されたアニメ「美少女戦士セーラームーン」があります。「セーラームーン」では主人公の一人の実家のモデルが東京都港区にある「麻布氷川神社」とされ、90年代当時からファンが神社に参拝していたといわれています。

「らき☆すた」の舞台となった「鷲宮神社」には10年以上経ってもなお、イラストの描かれた絵馬が掛け続けられていた=2018年6月
「らき☆すた」の舞台となった「鷲宮神社」には10年以上経ってもなお、イラストの描かれた絵馬が掛け続けられていた=2018年6月


なぜ、神社が「聖地化」しやすいのでしょうか。

一つは、神社が基本的に24時間開放されている点です。周囲の目を気にするような人でも、気兼ねなく訪れやすいという特徴があります。二つ目は、絵馬や境内に置かれた「巡礼ノート」によって、ここが「聖地」であるという安心感を与えてくれる点です。

お寺の場合も、神社同様に人の気配があまりないため出入りがしやすく、絵馬や巡礼ノートがあればファンが集まるところもあります。例えば、埼玉県秩父市を舞台にした「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の舞台の一つ、「定林寺」では、大勢のファンによる絵馬が奉納されています。

アニメ作品の数は年々増えることから、作品にゆかりのある神社仏閣の数も増え続けています。図表はアニメ作品などにゆかりのある神社仏閣100社をリスト化したものです。ただ単に背景のモデルになっているものから、「痛絵馬」が数多く奉納されていて、作品のファンが大勢訪れているものから様々です。

舞台でなくても「聖地」になる場合も

舞台のモデルとされ、作品と縁がある例が大半ですが、中には直接関係ないところからファンの「聖地」になっているところもあります。

例えば、「鬼滅の刃」の宝満宮竈門神社(ほうまんぐうかまどじんじゃ/福岡県太宰府市)や八幡竈門神社(はちまんかまどじんじゃ/大分県別府市)などは、作中に神社が登場するわけではありません。作品の主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の名前つながりで多くのファンが訪れています。

他にも、ファンとの交流を経て「聖地」になっている神社があります。「結城友奈は勇者である」の黄金持神社(こがねもちじんじゃ/香川県観音寺市)は、「道の駅とよはま」の敷地内にある神社です。この黄金持神社も道の駅とよはまも、現時点で作品には登場していません。ところが、道の駅とよはまでは長年主人公たちの誕生日会を開いており、作品を愛し何度も観音寺市を訪れるファンの間では「聖地」として知られています。このつながりから、隣接する神社も「聖地」になっています。

このように、作品の舞台に直接選ばれてなくとも、「聖地化」することも可能なのです。

淡島神社に奉納されている、「ラブライブ!サンシャイン!!」のキャラクターが彩られた「痛絵馬」の数々
淡島神社に奉納されている、「ラブライブ!サンシャイン!!」のキャラクターが彩られた「痛絵馬」の数々

ファンの“大好き”が可視化される空間

見方によっては、こうした神社にある絵馬は、どれだけのファンが訪れ、愛されているのか、というバロメーターにもなります。絵馬を見ると、どういうファン層なのかも見えてきます。絵馬の数や内容などの情報を研究に活用する人もいます。

筆者自身、70作品以上の「聖地」を訪れていますが、訪問時点でその作品を全て視聴できているかというと、必ずしもそうではないのが実情です。その状態でいざゆかりのある神社にお参りしてみると、ファンによって掛けられた絵馬の数々を突きつけられ、「この作品はこんなにすごいのか。帰って早く全話観なければ。そしてまた来よう」というように考えを改めさせられます。神社の「聖地」には、作品にはあまり関心がなかった層にも訴えかける力があると確信しています。

そのようなことから、アニメなどに興味がある人であれば、「聖地」になっている作品自体にはあまり関心がなくとも、ゆかりのある神社に参拝してみる価値はあると考えます。

新型コロナウイルスが一段落した暁には、「聖地」がある都道府県に旅行するついでに立ち寄ってお参りをしてみると、新しい発見があるかもしれません。

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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