連載
#91 #父親のモヤモヤ
「男らしさ」を問う動き、実は20年以上前にも なぜ下火になった?
1970年代に隆盛した「ウーマンリブ(女性解放)運動」の影響を受け、90年代に盛り上がったのは、「メンズリブ運動」と呼ばれています。各地で男性当事者の会が作られました。
「男は泣くな、強くなければ、と育てられたが、それからはずれた自分をどう認めてよいのか」
活動内容を伝える朝日新聞記事でも、当事者たちの声が紹介されています。一方、「男はなぜ暴力的なのか」といったテーマも。「男らしさ」をめぐり、「抑圧者」「被害者」双方の視点から問い直していたことが分かります。
「『メンズリブ』を名乗る団体が活動停止して自然消滅したり、メディアの報道が減ったり、『下火になった』ことは確かだと考えます」。そう指摘する多賀教授も、当時のメンズリブ運動に参加していました。
なぜ、活動が衰えたのでしょうか。
「語られてこなかった男性の悩みが言語化され、解決を模索する一部の男性たちに対しては、ある程度の歴史的使命を果たしたと思います」。多賀教授は、まずこの点を挙げました。
同時に、「運動内部の差異の顕在化」も指摘します。パートナーの影響で男性の「特権性」や「加害性」を自覚して問い直そうとする人もいれば、働き過ぎなど男性自身の生きづらさに焦点を当てる人も。同性愛者の男性や失業した男性など、「立場が異なれば、重視したい男性問題もそれぞれに異なる傾向にありました」
もう一つ挙げるのは「揺り戻し」です。「男らしさ」の問い直しの根源にあるジェンダー平等の考え方自体に、批判的な声が出ました。「男女共同参画などの自治体行政も、踏み込んだ事業が実施しづらくなり、連携してきたメンズリブ運動にも痛手でした」
今夏には『さよなら、俺たち』(清田隆之著)が刊行され、11月19日の国際男性デーには、「男らしさ」を問う報道が相次ぎました。なぜでしょうか。
一つには、主体的に子育てする男性の「気づき」がありそうです。「イクメン」が新語・流行語大賞のトップ10入りしたのは2010年。仕事と家庭の両立をめぐって女性が直面してきた困難を「追体験」する中で、「男らしさ」の「呪縛」に気づいたことがあるでしょう。「奥さんいるのに育休とるの?」「男は仕事優先で当然」。こうした現実に違和感を覚える男性は少なくありません。
経済低迷や雇用の不安定化といった状況も影響を及ぼしていそうです。男性を「大黒柱」としたモデルが限界に近づいてきた状況で、「仕事優先」や「稼ぐ」といった旧来の「男らしさ」に疑問を抱く男性がいます。
多賀教授は「女性たちによる『女らしさ』の問い直しや女性差別に対する異議申し立ての声がより大きくなったことも関係しているのでは」と話します。
かつてのメンズリブもウーマンリブの影響を受けたものでした。世界経済フォーラムの男女格差(ジェンダーギャップ)ランキングで日本は153カ国中121位。そんな事実が報じられたのは2019年末のことです。先んじて、性被害に抗議する#MeToo運動もありました。SNSを通じた発信などを受け「男性自身が、男としての特権性、女性蔑視や女性差別に気づき、省みたのだと思います」
多賀教授は、かつてのメンズリブ運動が「内部の差異」もあって下火になったとの分析に触れ、「現代の問い直しについても、SNS上で世代やコミュニティーが分断され、男性問題を体系的に捉えられなくなってしまわないかが気がかり」と指摘します。内部の対立に陥らないかという危機感です。一方で、「男らしさ」の問い直しが、「日本全体のより大きな層で起こっていてインパクトが大きい」と話し、期待感も示します。
この潮流をいかに安定した大きな流れにしていけるかが、今後の肝と言えそうです。
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