連載
#62 ○○の世論
世論調査の〝誤差〟の伝え方 正確性を高めるため、一番大事なこと
反対が多いのに「伯仲」とした理由
11月1日、大阪市を廃止して新たな特別区に再編する「大阪都構想」の是非を問う住民投票が投開票され、小差で否決されました。投票日1週間前の世論調査で、都構想に「反対」が「賛成」をわずかに上回りましたが、紙面では「賛否は伯仲」。なぜ「反対が上回った」としなかったのでしょうか。そのワケを解説します。(朝日新聞記者・江口達也)
朝日新聞社が投票日1週間前の10月24、25日に実施した電話世論調査では、都構想に「賛成」39%、「反対」41%でした。数字の上では反対の方が賛成より2ポイント多くなっています。しかし、世論調査でこうした僅差の結果が出た場合、「反対が賛成を上回っている」とか「反対の方が多い」とは言えません。
それはなぜかというと、調査には差が数ポイントあっても「誤差」が含まれている可能性があるから。この2ポイントの差では本当に反対が賛成を上回っているかどうか断言できないからです。数字の上では反対の方が多いのに、調査結果を伝える紙面(10月27日付東京本社朝刊)の見出しは「賛否は伯仲」でした。この調査結果から言えることは、賛否が割れていて、どっちが多いかはっきりしない、ということまでです。
11月1日に行われた大阪都構想をめぐる大阪市の住民投票の結果は、「賛成」49.37%、「反対」50.63%でした。結果として、住民投票は1万7167票差で反対が賛成を上回りましたが、その差は1.26ポイントとわずかでした。
では、なぜ世論調査には誤差が含まれている可能性があるのでしょうか。それは、世論調査は全員からではなく、無作為に一部の代表者を選んで意見を聞いているからです。これを「標本誤差」といいます。実は、誤差にはさまざまな種類があるんです。
その一つに「無回答誤差」があります。これは調査対象者全員から回答してもらえないことで発生します。調査に「答えた人」と「答えなかった人」の意見が同じならよいのですが、もし違いが大きければ誤差になってしまいます。
この誤差を小さくするには、調査に「答えなかった人」をできるだけ少なくすることが必要です。つまり、調査に協力してもらった人の割合を示す「回収率」が高ければ、無回答誤差が小さい調査だといえます。
また「カバレッジ誤差」と呼ばれる誤差もあります。これは、調査対象者を選ぶとき、調査したい集団全体をきちんとカバーできていない場合に発生します。例えば、朝日新聞社の電話による全国世論調査は、以前、固定電話だけを対象にしていました。
しかし、携帯電話の普及によって固定電話を持たない人が増えてきたため、固定電話だけでは有権者全体をカバーしきれなくなってきました。そこで、2016年7月から携帯電話も調査対象に含めるように調査手法を変更しました。これは「カバレッジ誤差」を小さくするための対応策というわけです。
そのほか、調査員が回答者から聞き取った回答を正しく選択肢に割り振れているか、質問文が回答者に正確に伝わる文言になっているか、といったことなども誤差の原因になります。
残念ながら誤差が全くない世論調査はありません。
しかし、誤差をできるだけ減らすために、調査手法を改善したり、記者が電話調査の現場に出向いて回答者とのやりとりをモニターして確認したりするなど、さまざまな努力をしています。
そしてなにより、正確な世論調査をするためには、調査対象に選ばれた方々の協力が不可欠です。
新聞社を含めたメディアや研究機関による世論調査に答えてくれる人がいることで、社会の今を知る貴重な手がかりを伝えることができています。
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