連載
#13 #アルビノ女子日記
鏡に映った「ダサい姿」アルビノの私がメイクを楽しむようになるまで
人生を豊かにしてくれる、化粧の魔法
生まれつき髪や肌が白い、アルビノの神原由佳さん(26)には、化粧品売り場に行くのが怖い時期があったといいます。肌の色に合うコスメがわからず、他の人と同じメイクをしても、「ふつう」の見た目になれない。そんな経験にまつわる、心のわだかまりが残り続けていたからです。しかし少しの勇気を出したことが、化粧を楽しむきっかけになりました。「私にとって、メイクはお守り」。そう思えるようになるまでの日々について、つづってもらいました。
「アルビノ メイク」
メイクに興味を持ち始めた高校生のころ、私はインターネットでそう検索した。
すると、メイクによってアルビノになりきった人たちの画像や、そのためのメイク法を記したサイトが出てきた。アルビノ当事者向けのメイク情報を求めていた私は、がっかりした。
どんなコスメなら、肌の白い私の肌に合うんだろうか……。日本人向けのファンデーションは正直、私には色が濃すぎるように思えた。
答えが見つからぬまま、私は地元の薬局で、千円前後の真っ赤な口紅を購入した。当時、私は他の大多数の人々と同じような「ふつう」の見た目に憧れていた。「みんなが使うコスメを使えば、少しは『ふつう』に近づけるんじゃないか」と期待した。
でも、鏡に映ったのは、やたらに赤い唇が目立つダサい自分だった。「私に合う色じゃないな……」と思い、洗面台でメイクを落とした。せっかく買った化粧品は、ほとんど使わぬまま引き出しにしまい込んだ。
それでも高校生のころは、すっぴんでも許される雰囲気があったので、それほど気にはしていなかった。でも、大学生になったとたんに、「女性はメイクしなければいけない」という同調圧力に襲われた。
最低限の身だしなみとして、ペールオレンジ(淡いだいだい色)のおしろいと、ピンクのチークをつけていた。ただ、ファッション誌にも、ネットにも、私に合うコスメの情報はなく、メイクを楽しむ心境にはなれなかった。
転機が訪れたのは、23歳のときだ。テレビに出演することとなり、「ちゃんとせねば」と焦った。
私は勇気を振り絞り、ショッピングモール内の化粧品売り場に足を踏み入れた。それまではどこか場違いな気がして、怖さを感じていた場所だ。
緊張しながら、優しそうな店員さんに「ファンデーションを探しているんです」と声をかけた。
案内された化粧台の前に座ると、景色が光って見えた。照明も眩しかったけれど、私が見た光はそれだけじゃなかった。
店員さんが私の頬(ほお)にファンデーションをのせる。その間、私はとてもドキドキ、ワクワクした。
タッチアップをしている間、沈黙が怖くて「自分に合う色を探すのが難しいんです」と話しかけていた。「そうですよね」と店員さん。会話をするうちに、緊張はほぐれていった。
「いかがですか?」と手鏡を渡されて、自分の顔を眺めた。丁寧に塗ってもらったファンデーションは肌になじみ、きれいに整っていた。2色塗ってもらったうち、肌になじんだ方を購入した。
あれだけ怖かった化粧品売り場で、自分に合うものを選んでもらうことができた。店を出た後、購入したファンデーションが入った小さな紙袋を何度も眺めた。
「もっと早く来れば良かったな……」
メイクによって自分自身を表現し、楽しんでいることに気づいた。女性として、ちょっとだけ可愛くなれた気がしたのだ。その日から、私はメイクが好きになった。
美容の話題に関連して、アルビノのムダ毛事情をちょっとだけ。
今夏、女性のわき毛を剃(そ)るかどうかは「本人の自由だ」と訴える広告が話題になった。多様な美の価値観が広がることはいいことだと思う。
しかし、私はムダ毛を好きになれない。あったら恥ずかしい。できれば、つるすべ肌がいい。周囲から刷り込まれた「女らしさ」が染みついてしまっている。
だから私は「面倒くさいな」と思いつつも毎日、お風呂場で手、足、脇の毛を剃っている。
何度か「毛が白いから目立たなくていいじゃん」と言われたことがある。確かに、ぱっと見は目立たないかもしれない。けれど違うんだ。アルビノのムダ毛は光に当たると、輝きを放ち、かえって目立ってしまう。
「永久脱毛すれば?」との声が聞こえてきそうだけれど、実はアルビノが脱毛するのは容易ではない。脱毛に使われるレーザーはメラニン色素に反応するため、色素が薄いアルビノには適さないからだ。
余談だが、「下の毛も白いの?」というセクハラにも遭ったこともある。中には私がアルビノと分かって聞いてくる人もいる。仮に冗談だとしても、ちっとも笑えない。そんな当たり前のことを聞かれても、ただただ困る。そうした質問はしないでほしい。
メイクの話に戻ろう。
私は「日本アルビニズムネットワーク」(JAN)というアルビノのセルフヘルプ・グループのお手伝いをしている。
数年前の話だが、JANの交流会に、アルビノの小さな女の子を連れた両親がやってきた。
お母さんは、わが子の学校生活や将来を気にかけているようだった。私が「メイクもファッションも楽しめるから大丈夫ですよ」と伝えると、お母さんの表情が明るくなった。
日焼けに弱かったり、弱視だったり……。アルビノゆえの苦労もあるけれど、私は今、楽しく生きている。そんな姿を若いアルビノの子や、当事者の親に見せるのも、先輩当事者としての役割かもしれないと思った。
メイクをしなくても生きていけるけれど、メイクが好きで楽しめるなら、メイクは確実に人生を豊かにしてくれると思う。
今では、メイクは私にとっては一日を乗り切るためのお守りだ。流行に合わせようとは思わないが、自分の肌色に合うコスメをこれからも愛用していくつもりだ。
今日も、私は自分のためにメイクする。
まあ、「かわいい」って褒められもしたいけどね。
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