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連載

#13 アニメで変わる地域のミライ

返礼品がアニメ「邪神ちゃんモデル」成功の理由 少ない自治体の負担

クラウドファンディングで募ることはありましたが、ふるさと納税は初めてです。

長崎県南島原市とのコラボパネル=写真はいずれも筆者撮影
長崎県南島原市とのコラボパネル=写真はいずれも筆者撮影

目次

地方創生の一手段として注目されているふるさと納税。実は、「聖地巡礼」がふるさと納税に貢献している例があります。ファンによるふるさと納税でアニメ制作に至った、「邪神ちゃんドロップキック」の例を紹介します。

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神保町の名店が登場

「邪神ちゃんドロップキック」は、ウェブマンガ原作の作品で、東京都千代田区の神保町を舞台に、お茶ノ水にある大学に通う女子大生「花園ゆりね」と、ゆりねによって魔界から召喚された「邪神ちゃん」がおりなすコメディです。

老舗喫茶店「さぼうる」、神保町カレーを代表する「まんてん」「ボンディ」などなど、神保町を代表する様々な名店が実名で登場するのが特徴で、「邪神ちゃん」ファンの間で神保町は「聖地」になっています。

既に2度アニメ化されており、第1期が2018年7~9月、第2期が20年4~6月に放送していました。「天才バカボン」のように社会風刺を取り入れたパロディ作品としても知られ、「邪教徒」と呼ばれる根強いファンがいるのが特徴です。

(C)ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキック’製作委員会
(C)ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキック’製作委員会

根強いファンへ二つの取り組み

根強いファン層がいることを活かした取り組みが、「邪神ちゃん」では行われています。

一つは、クラウドファンディングを用いたものです。

2019年3月、作中のキャラクターソングの制作費をクラウドファンディングで募る企画「天国への階段」が実施され、目標金額300万円を開始3日で突破。同年9月には、邪神ちゃんが作中で歌った歌謡曲「神保町哀歌」のCD化と、邪神ちゃんの声優・鈴木愛奈さんの出身地、北海道千歳市での凱旋ライブを企画したクラウドファンディングにより、目標額1500万円を超える約2600万円が集まりました。

もう一つが、ふるさと納税です。

クラウドファンディングによる盛況を受けての取り組みと言えますが、真っ先に動き出したのが、先述の千歳市です。2019年12月、千歳市は「邪神ちゃん」の製作委員会と協働する形で、「邪神ちゃん」の千歳市観光PRアニメの資金をふるさと納税で募ります。目標額2000万円で始まった施策ですが、最終的にその9倍以上となる、1億8438万円が全国から集まりました。

クラウドファンディングでアニメの製作資金を募ることは過去にありましたが、ふるさと納税を活用したのは初めてです。この千歳市観光PRアニメは、第2期のスペシャル回「千歳編」という位置付けで、6月22日にテレビ放送されました。


作品の主要登場人物が千歳市に旅行に行くという話で、「道の駅サーモンパーク千歳」や市内のお菓子店「もりもと千歳本店」、同市の支笏湖(しこつこ)にある温泉旅館「丸駒温泉旅館」などが実名で登場します。「丸駒温泉旅館」の社長や千歳市長も声の出演をしています。

「千歳編」の最後には、千歳市出身で邪神ちゃん演じる鈴木愛奈さんと、同じく千歳市出身でリエール役の声優・花井美春さんによって民謡「CHI☆TO☆SE愛歌」も歌われています。

千歳市のサーモンパーク内で売られているコラボグッズと展示されている声優サイン色紙
千歳市のサーモンパーク内で売られているコラボグッズと展示されている声優サイン色紙

ワインにカレーに手延そうめん

地方自治体の観光PRアニメがテレビアニメ本編に登場するという異色の事態を受けて、他の自治体も名乗りを上げます。北海道富良野市と帯広市、釧路市、そして長崎県南島原市です。

いずれもふるさと納税の返礼品に「邪神ちゃん」を取り入れました。富良野市は邪神ちゃんラベルの「ふらのワイン」を、帯広市は邪神ちゃんパッケージの「ビーフカレー」を、釧路市は邪神ちゃんスプーン付きの「いくら」を、そして南島原市は邪神ちゃんとコラボした島原手延そうめんや雲仙和牛などを予定しています。

返礼品だけではありません。4市では各種コラボイベントも予定しており、11月28日には帯広市で「ばんえい競馬」に声優を招くイベントが開かれます。

そして、2022年放送予定のアニメ第3期では4市の特別編が放送される予定です。

10月27日には都内でアニメ第3期の製作発表会が開かれ、4市の市長も登壇しました。帯広市の米沢則寿市長は「ふるさと納税を活用したアニメ製作という、大きな話題性のもとで帯広の観光地や景観などを知ってもらい、国内外の多くの人々に『聖地巡礼』してほしい」と期待を込めています。

こうした、地方自治体を巻き込む手法について、「邪神ちゃん」の宣伝プロデューサーを務める柳瀬一樹さんはこう手応えを感じています。

「ファンの方々に自分が好きになった舞台にふるさと納税してもらい、更にそこからコンテンツを生み出す方法は『邪神ちゃんモデル』と言っていいと思います。今やアニメが自治体とコラボするのは当たり前になってきていますし、他の作品にもこの手法が広まればいいなと思っております」

第3期のタイトルを掲げる製作総指揮の夏目公一朗さん(右)と宣伝プロデューサーの柳瀬一樹さん
第3期のタイトルを掲げる製作総指揮の夏目公一朗さん(右)と宣伝プロデューサーの柳瀬一樹さん

自治体の負担が少ない「邪神ちゃんモデル」

これまで、アニメの「聖地」となった自治体がふるさと納税の返礼品として、舞台にしている作品のグッズを製作することはありました。

例えばアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台である静岡県沼津市や、「ガールズ&パンツァー」の舞台の茨城県大洗町では、返礼品にふるさと納税限定のオリジナルグッズを据えたことがあります。

しかし、返礼品がアニメそのものというのは聞いたことがありません。

特に自治体目線で考えると、返礼品をグッズにしてしまうと、納税された分だけ業者に発注したり、納税してくれた人にグッズを返送しないといけなかったりなど、負担がかかります。その点、「邪神ちゃんモデル」のやり方は返礼品なしの寄付という形でいったん自治体に納税されるのが特徴です。自治体側への負担も少ないのも、「邪神ちゃんモデル」の強みと言えるでしょう。

アニメ第3期の製作発表会に登場した邪神ちゃん役の声優・鈴木愛奈さん
アニメ第3期の製作発表会に登場した邪神ちゃん役の声優・鈴木愛奈さん

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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