連載
#2 #戦中戦後のドサクサ
子どもの「狩り」が支えた食卓「まねするな!」戦争漫画の意外な展開
食糧難を乗り越えるための知恵
「今日はお兄ちゃんが用意してくれたおかずですよ!」。食卓を囲む4人家族のお母さんが、お椀を片手に笑顔で話します。
机に置かれた、皿の上に載っているのは……何と「蜂の子」(野生の蜂の幼虫)。それも市販品ではありません。長男である少年が手ずから獲(と)ってきた、鮮度良好な天然物です。
果たして、その「狩り」の方法とは? 順を追って見ていくと、子どもたちの知恵が、いっぱいに詰まっていました。
何よりもまず、「餌(えさ)」となるものを調達しなければなりません。少年は、友達と連れだって出かけた先で、何かを捕まえます。
ギュッと握りしめた両手の中で、うごめくもの。それは一匹のカエルでした。
生きの良い個体を、その場でさばいた後、お肉をひとつまみ。団子状に丸めたら、自宅から持ち出した「真綿」(蚕糸の余りからなる綿くず)にくくりつけます。お母さんの裁縫道具を拝借するという、ナイスアイデアです。
そして、地面に垂直に立てた木の棒の上に引っかけ、蜂がやってくるまで、ひたすら待ち続けます。
「暑い……」。炎天下の中、汗を流しながら、根気よく待機する少年たち。「ブーン……」。どこからともなく現れた働き蜂が、肉団子をしっかりつかみ、飛び立ちました。
「そらっ!」
一斉に走り出す少年たち。真綿を目印に、働き蜂の位置を確認しながら、全速力で追いかけます。しかし残念ながら、いつの間にか見失ってしまいました。
諦めずに棒を立て、肉団子をくくりつけ、蜂の姿を認めては追跡する……。そんな作業を何度も繰り返した末、彼らはとうとう、念願だった巣のもとまでたどり着きます。
さぁ、ここからが最後の難関です。巣がある木のうろの中に、枯れ葉やわらを投げ入れ、素早くマッチで火を付けます。いぶすことで、蜂の動きを一時的に封じるのです。
もくもくもく……。立ち上る煙を吸い、せきこみながらも、少年たちは必死で声を掛け合います。「今のうち!」「早く早く!」。見事な連携プレーで、巣から大量の幼虫を取り出し、一目散に元来た道を駆けていくのでした。
食糧難の戦時中、蜂の子は貴重なタンパク源として重宝されていました。少年は別の日も、お母さんとお父さん、そして妹に見送られ、再び「狩り」へと出かけます。「いってらっしゃい!」と送り出された彼の顔は、どこか誇らしげです。
そして、物語はこんなモノローグで締めくくられます。
「遊びの要素もあったことですが……子どもといえど、あの頃は役に立っている自負もあったものです」
今回の漫画の元になったのは、岸田さんが中学時代に学んだ理科教諭の体験談です。学期末、授業の余り時間を2コマ分も割き、熱量たっぷりに語ってくれたといいます。
「理科の先生だけあって、カエルの処理の仕方などについて、詳しく紹介してくれました。ちょっと怖いなと思いつつ、子どもだけで大変な『狩り』をするというエピソードが面白く、まるで冒険譚(たん)を聞いている気持ちになりました」
遊びと、生活の下支えを兼ねた、蜂の子採取。戦時中の子どもたちが、いかにたくましく生きていたか実感する話だったと、岸田さんは振り返ります。
今でこそ、昆虫食は珍味として広く受け入れられているけれど、日々の糧として頼りにされた時代も確かにあった――。先生の語りは、そんな歴史について、時を超え伝えてくれるようです。
「とはいえ、先生は『まねするなよ!』と付け加えていました。きっとクラスの誰もが『誰もやらない!』と思ったでしょう。読者の皆さんにも、あくまで過去の出来事ととらえるにとどめ、漫画と同じことはされないようお願いしたいですね」
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