グルメ
カップヌードル実物大プラモの底力 模型アイドル香坂きのさんが解説
「ロゴパーツの美しさ」「寸分のズレもなくカチッ…キターーーー!」
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「ロゴパーツの美しさ」「寸分のズレもなくカチッ…キターーーー!」
“3分では作れない新感覚”
国内外で愛される日清カップヌードルのプラモデル「BEST HITCHRONICLE 1/1 カップヌードル」が9月に誕生しました。1分の1スケールの原寸大で、実物の具材を3Dスキャン。本物と遜色ない“変わり種”プラモデルです。その作り方のポイントと感想を、プラモデルをこよなく愛す「プラモアイドル」で動画クリエイターの香坂きのさんに聞きました。
プラモデルを作り始めたのは、社会人になってからです。私は小学校の頃から図工が大好きで、自由研究ではリサイクルのペットボトルで、椅子や机など、ものづくりばかりしていました。
DIYは得意で、今の住まいに引っ越したときは食器棚を作りました。自分で図面を作り、計算をしてから100円ショップへ木材などを買いに行きます。
理系です!実は、以前は看護師の仕事をしていました。でも、プラモデルへの熱がどんどん強くなり、2012年6月に今の仕事を始めました。
頭脳が理系のせいか、プラモデルの箱を開封してパーツを見て、「だいたいここにパーツがはまるな」と全体像を捉えることができます。でも、その予想を裏切られたとき「(メーカーに)やられた!」って思います(笑)
できるだけ多くのプラモデルを作りたいので、いかに作業効率をあげて組み立てるかは意識しています。その工夫の一つに、ニッパーは切れ味のいいものを使用しています。
初めて見たとき、「こんなプラモデル作っちゃったんだ!」って思いました。1番驚いたのが、「ロゴ」がシールではなく、プラスチックのパーツを二重に組み合わせる仕様だったこと。この大きさと細かさで「カーブのパーツ」の金型を作るのは、相当な技術が必要だと思います。はめ込むと美しく、いいパーツだと思いました。
あとは、麺の組み合わせと、カップ上部の組み合わせが面白かったです!麺のパーツは2個のパーツを組み合わせる「もなか」というタイプかと思いきや、8個もパーツがあることに驚きました。もはやパズル。単体で見ると、ちょっと気持ち悪いし(笑)。もちろん褒め言葉ですけど!
8個もあるので、組み立てが難しいかなと思ったんですが、接続部分がT字やL字など、絶対に間違わない仕様になっていたので、迷いませんでした。
完成した麺は本物に見えます。これは玄人向けの提案ですが、凹凸部分に茶色の塗料を流し込むと明暗が表現できるので、麺に粉がかかっているように見えます。そういった一手間を追加して、リアル性を追求しても面白いと思います。
カップヌードルには、ゴールドの「ギザギザ」模様がありますよね。模型ではその箇所もシールではなく、輪っか状のパーツを組み込む様式になっています。
一箇所だけハマる箇所があるのですが、それを目視で探すのが大変でした。そのため、寸分のズレもなくカチッとはまったとき、本当に気持ちいい。「キターーーー!」って心の中で叫びました。これだけでも、このキットを買った意味があったと思いました。
フタの部分は、“貼って剥がせる”シール状になっている点もこだわりポイントだと思いました。今までのプラモデルでは見たことがないので、斬新だと思いました。
プラスチックの量が多く、技術的な工夫が施されているので、妥当な値段設定だと思います。よく考えると、普通のカップラーメンが15個くらい買えますよね(笑)「本物」よりも値段が高いプラモデルは、初めてかもしれません。
はい、主に図書館や、児童館、障害をもったお子さんがいる福祉祉施設を中心に、プラモデルを持って行って、作って楽しむという活動をしています。「プラモデルを広めたい!」という気持ちで昨年始めました。
お店に行った気分で、選んでほしいので、クルマからアニメキャラクター、ガンダムなど色々な種類を持っていきます。自分が気に入ったものを作ってもらいたいと思っています。
基本的なことを全体で説明したら、あとは、「困ったら手をあげてください」としています。それぞれのペースで進めてもらいたいと思うので。
注意しているのは、「押し付けない」こと。子どもたちが困っていると、つい手を出したくなってしまいますよね。でも、同席している保護者や施設の方には「助けを求められるまで放置してください」と毎回伝えています。
「悩む時間」は、大事です。自分で考えて、出来たときのよろこびは格別ですよね。それを味わってほしいので、勝手に手を出さないようにしています。
出来上がった後、これからどうしたいかを提案します。色を塗りたいのか、かっこいいポーズ取りたいのか、その子がやりたいことを選んでもらいます。
塗装用に簡易的なエアブラシを持っていくのですが、色を塗ることによって「自分だけのプラモデル」になるんです。それを握りしめて帰っていく姿が可愛いですし、うれしいです。
今年の3月から、すべての施設でのボランティア活動が自粛になってしまったので、もう少し落ち着いたら「またやりませんか」とお手紙を書きたいと思います。
これからもプラモデルから離れることはないと思っています。私の使命は、プラモデルメーカーが生き残れるよう支えることです。そのために、プラモデルを作るときに、もっと便利に簡単にできる方法やグッズを広めたり、子どもたちに楽しさを伝えたりしていきたい。
子ども時代にプラモデルを一瞬でも楽しいと思ったら、将来またやってみようと思ってもらえると思っています。自分の老後に、プラモデルが存在しているようにしたいです。
一言でいうと、「苦労して作ったものが、自分のものになる」ですね。完成品を買った方が早い中、あえて時間をかけてつくることが醍醐味です。
パーツをくっつけるときにずれてしまったり、色を塗るときに指紋がついてしまったりすることがありますが、その失敗を含めて「自分だけの味」になりますし、その失敗をどう修正するか工夫をこらすことで、さらに思い出が刻まれます。
今は、「ダメだったら捨てる」という風潮を感じることがありますが、プラモデルではその失敗をリカバリーして、また使えるようにすることも可能です。少し手を加えるだけで、モノは再び遊べたり、使えたりするということを、プラモデルを通して学べると思っています。
プラモデルとアイドルという組み合わせを最初に聞いた時、思い浮かべた「マニアックな人」という予想はいい意味で裏切られました。
今回のテーマであるカップヌードルにとどまらず、これまでに作った様々なキットの思い出を楽しそうに話してくれる香坂さんからは、プラモデルの楽しさを伝えたいという気持ちが全力で伝わってきました。
YouTubeチャンネルの登録が11万人を超えるほど影響力のあるクリエイターになった香坂さん。同じジャンルで女性のクリエイターが増えることは「大歓迎」だといいます。そこには、ライバル心なんてものはなく「男性の趣味と思われているプラモデルの楽しさを、老若男女に知ってほしい」という思いがあります。
その前向きさは、ネットへの向き合いにも表れています。
動画を顔出しで配信すると、どうしても避けられないネガティブな反応。そんな時は「仏モード」になるそうです。
「気持ちを発散するために私に当たっているんだな、と思うようにしています。もし次の日、その人が元気になっていたら役に立てたと思えます。私はとてもポジティブなので!」
看護師やアイドルなど、様々な経験を経て、今、突き詰める一つことを見つけた香坂さん。今では、各地のプラモデル教室にも呼ばれるなど、業界を盛り上げる人材として活躍の場を広げています。そんな香坂さんのひたむきな歩みは、競争が激しい動画クリエイターの中での一つの成功例といえるでしょう。
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〈香坂きの(こうさか・きの)〉1988年生まれ。プラモアイドルとして活動中。「香坂きのと模型人―もけんちゅーTV」でプラモデル作りを動画配信している。
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