連載
#56 ○○の世論
こんなところで「GoTo」が? 「大阪都構想」出口調査の意外な結果
前回より2時間も違った「日没時間」
11月1日に実施された「大阪都構想」の賛否を問う大阪市の住民投票は、5年前の前回に続き、反対多数で否決されました。しかも、賛否の差はいずれも1ポイントでした。どうしてこういう結果になったのか、朝日新聞社が実施した出口調査を詳しく読み解いてみました。(朝日新聞記者・君島浩)。
2015年5月の住民投票はわずか1万票差で否決され、都構想を提唱した大阪維新の会代表の橋下徹氏(当時大阪市長)は政界を引退しました。維新以外、自民、公明、共産などは反対でした。
しかし、昨年春の大阪府知事・大阪市長のダブル選で2度目の住民投票実施を掲げた維新側が勝利すると、公明は賛成に転じます。
公明は全国レベルで、同じ国政与党の自民と衆院選の選挙協力をしていますが、維新が公明の現職議員がいる関西の6小選挙区に対立候補の擁立をちらつかせたため、自民と袂を分かち、都構想への態度を一変させたのです。
公明は昨年夏の参院選比例区では大阪市で17万票を集めました。それが反対から賛成に雪崩を打つなら、形勢は逆転、賛成多数となることが予想されました。
朝日新聞社が実施した出口調査を分析すると、公明支持層の投票態度は、前回は党方針通り反対が圧倒的多数でした。
しかし、今回は、賛成が前回の21%から46%に倍増したものの、党方針通り賛成多数とはなりませんでした。
出口調査は当日だけでなく、期日前投票が行われている時期にも実施しています。
期日前投票を利用した人の投票者全体に占める割合は、前回は4分の1、今回は3割を占めており、投票傾向を探るには、期日前の出口調査は欠かせなくなっているからです。
公明支持層は一般的に期日前投票に熱心とされています。
前回の期日前調査をみると、公明支持層は反対が91%を占めました。しかも出口調査の回答者の割合を見ると、公明支持層は全体の11%もいました。
しかし、今回の期日前調査で公明支持層の賛成は43%でしかなく、しかも回答者に占める割合は7%に減りました。
今回は、党の方針が支持層に徹底されなかっただけでなく、投票所に向かう出足もやや鈍かったことが、この数字からうかがえます。
都構想の旗振り役である維新の支持層は、前回も今回も当日の出口調査では賛成が9割を占めました。
しかし、前回は97%だったのに、今回は90%と勢いを欠きました。前回の出口調査では当時の橋下徹市長の支持率は57%で、支持層の89%が都構想に賛成票を投じました。
今回は吉村洋文・大阪府知事の支持率は68%と橋下氏の人気を上回ったものの、その支持層で都構想に賛成したのは67%にとどまりました。
前回に比べて、維新シンパの熱気がやや冷めている様子が、この数字からも浮かび上がります。
住民投票だけでなく、国政・地方選挙のこれまでの傾向を見ると、維新支持層は公明支持層とは逆に出足が遅い傾向があります。言いかえると、期日前よりも当日になって投票所に向かう人が多めなのです。
前回の出口調査をみると、調査回答者に占める維新支持層の割合は、期日前は21%でしたが、当日は26%と膨らみました。しかし、今回の調査では、期日前は25%でしたが、当日は24%と伸び悩みました。
都構想反対派の自民、共産の支持層の動きはどうだったでしょうか。
当日の出口調査では、自民、共産支持層とも今回の方が前回より反対が増えています。前回の期日前調査での反対が自民は69%、共産は92%と、当日調査より高かったことを考えると、今回、反対した人の割合はあまり変わらなかったと言えます。
こうした情勢の中、都構想の成否のカギを握ったのは、無党派層でした。
無党派層は前回、今回とも期日前出口調査では反対がそれぞれ64%、63%と、ともに6割を超えていました。
しかし、前回は当日調査で賛否が拮抗したのです。
ところが、今回は当日調査では、反対が6割を占めました。無党派層は調査回答者の3分の1を占めています。この大きな塊の動向が、今回の反対多数の決め手となったとも言えるでしょう。
一方、今回の出口調査を性別にみると、期日前も当日も、男性の賛成が5割を超えるのに対し、女性は逆に反対が5割を上回っていました。
住民投票の投票者数は男性63万7235人、女性73万8078人。女性の方が10万843人多かったのですから、単純に計算すれば、全体では反対が賛成を上回ることになります。
当日の出口調査を年代別にみると、50代以下は賛成が多数で、特に30代が55%、40代が56%と山をなしています。
60代以上では反対が多数となり、特に70歳以上では反対が61%に達しました。
性・年代別に見ると、40代以下の男性の6割前後が賛成なのに対し、70歳以上の女性は反対が64%にのぼりました。こうした傾向は前回とあまり変わりませんでした。
ところが、当日の出口調査の回答状況を1時間ごとに区切って分析してみると、前回と今回では変化が生じていました。
前回は午後3時台から7時台まで、いずれも賛成が反対を上回りました。5時台がピークで、賛成は65%に達しました。
ところが、今回、この時間帯は一進一退で、賛成多数と反対多数の時間帯は2対3に分かれました。
年代別にみると、賛成層の核となっている30~40代の出足が鈍っていました。この時間帯の出口調査回答者に占める割合をみると、30~40代は、前回平均45%だったのに、今回は38%に目減りしていました。
昔なら合戦、現代では選挙において、季節や天候が勝敗に影響を与えることもあると言われています。
住民投票当日の大阪市の天気は前回、今回とも曇りでした。しかし、前回5月17日の日没は午後6時55分でしたが、今回は5時4分と、2時間近くも早く日が沈みました。
前回はゴールデンウィークの翌週でしたが、今回は「GoTo」効果で、行楽地の人出がコロナ禍で激減した頃に比べると、回復しつつある時期でした。
ひょっとしたら、こうした状況が大阪都構想の行方を左右したのかも……と思いを巡らせています。
1/6枚