連載
#86 #父親のモヤモヤ
仕事と家庭の両立、本当の敵は 男性の育休阻む「意識」変化の兆しも
【#父親のモヤモヤが書籍に】
多くの父親の葛藤に耳を傾けてきた連載「#父親のモヤモヤ」が『妻に言えない夫の本音 仕事と子育てをめぐる葛藤の正体』というタイトルで、朝日新書(朝日新聞出版)から10月13日に発売されました。
「イクメン」の誕生から10年。男性の育児が促される一方、葛藤を打ち明けられずに孤立する父親たち。直面する困難を検証し、子育てがしやすい社会のあり方を考える一冊です。詳細はコチラから。
朝日新聞のオンラインイベント「記者サロン」が11月1日に開かれ、ジャーナリストの治部れんげさんと「父親とジェンダー」をテーマにお話しました。今回は「育休」部分を抜粋してお届けします。
――父親の「産休」も議論されていますが、育休についてはどうお考えですか。
治部れんげさん(以下、治部さん):私は市場主義者なので、義務や強制は好きではありませんが、日本はあまりにも性別役割分担の意識が強い。
ユニセフの調査だったと思いますが、日本の男性育休の制度は世界で一番と言われています。ただ、取らない。これが非常に謎になっているわけです。「制度はあるけど雰囲気が…」「ちょっと白い目でみられるので」「(昇進が)遅れてしまうのでは」といった気持ちの部分が日本の特徴なんだなと思っています。
(より強い)育休の制度化もいいのでは。いったん逆にふるなどしないと、だんだん変わってくるのを待っていてもだめだと思います。
――男性育休の取得率が7.48%(2019年度)から上がっていっても、たとえば長時間労働であれば、元通りの働き方になってしまいます。あわせて変えていく必要があるのではないでしょうか。
治部さん:育休は取っておしまいではない。少なくとも、赤ちゃんの時はとても大変で、ベンチャー企業をつくるみたいなもの。立ち上げ期を夫婦一緒にやることで、明らかに男性の意識が変わります。私も妊娠を経験していなかったら、思考は男性的だったんじゃないかと思います。男性も、徐々に変わっていくと思います。
治部さんはこの日、仕事と家庭の両立が難しいと、パートナーに怒りの矛先が向いてしまうことがあると指摘。その上で「本当の敵は、会社の経営風土であるとか、人材マネジメントにあります」と話しました。「フェニミズムがスローガンとしてきたのは、『パーソナル・イズ・ポリティカル』。個人的なことは政治的なことにつながります。男性も気づいてきているので、モヤモヤやつらいということをできるだけ社会的なところに昇華していって、社会を変えていってほしいと思います」
男性の育休をめぐっては、「なぜ、男が育休を取るのか?」と会社から否定的な対応をされることも珍しくありません。社会の意思決定層には男性が多く、「男は仕事」のような価値観が根強いことも背景にあります。
――意思決定層のジェンダーバランスの悪さが、制度の欠陥につながっているとのご意見もいただいています。
治部さん:いいニュースもあります。ジェンダー平等の話は、市場主義的な観点からも進んできていて、2010年代くらいから機関投資家、主にアメリカの会社が、投資先の企業に「役員に少なくとも1人は女性を入れてね」とプレッシャーをかけるようになってきています。意思決定層に多様性が欠けているとリスク管理がうまくいかない、持続的な成長ができないという流れです。
市場的なところと、育休のような個人的な幸せのところ。色んなところがマッチして、今の仕組みを変えていこうという流れがきています。個人的なモヤモヤは、すごく大きなところにつながっているのではないでしょうか。
――「パタハラ」の訴えで、企業の株価に影響が出たこともあります。子育てをめぐるものが、社会や企業の評価につながるのは光かなと思います。
治部さん:あの例は、一昔前ならニュースにならなかったと思います。男性記者が取材していっぱい書かれていたのが印象的でした。
育児が女性だけでなく男性の課題であるし、男性もコミットしたいんだということがはっきりと可視化されました。あの企業にあまり就職させたくないという大学関係者の声も聞きました。社会の目もだいぶ変わってきたのではないでしょうか。
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