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#9 帰れない村

「住めない場所」どう住めるように 原発事故に向き合う科学者の覚悟

放射線学習会で参加者の質問に答える木村真三・獨協医大准教授=2020年9月、福島県二本松市油井、三浦英之撮影
放射線学習会で参加者の質問に答える木村真三・獨協医大准教授=2020年9月、福島県二本松市油井、三浦英之撮影

目次

帰れない村
東日本大震災から間もなく10年。福島県には住民がまだ1人も帰れない「村」がある。原発から20~30キロ離れた「旧津島村」(浪江町)。原発事故で散り散りになった住民たちの10年を訪ねる。(朝日新聞南相馬支局・三浦英之)
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市民の質問に答える

「福島県内の山菜を食べても大丈夫でしょうか?」「公園で子どもたちを遊ばせても問題ありませんか?」

9月上旬、福島県二本松市で開かれた市の放射線学習会。参加者の疑問に、講師の木村真三・獨協医大准教授(53)は平易な言葉で答えていく。

「市販されている山菜や、市が開放している公園であれば問題ありません。一方、山林の放射線量については、すぐには減らないことも理解してください」

原発事故で放出されたセシウム137が、半分に減るまでの期間(半減期)は30年。

「でも、山林の場合、土壌にしみこんだ放射性物質を樹木が根から吸い上げ、葉にして落とす。その循環によって地表に放射性物質が濃縮され、30年たっても地表の線量が半分になるとは限らないのです」

帰還困難区域への立ち入りを制限するフェンス。旧津島村は森で覆われている=2020年9月、福島県浪江町、三浦英之撮影
帰還困難区域への立ち入りを制限するフェンス。旧津島村は森で覆われている=2020年9月、福島県浪江町、三浦英之撮影

生涯を通じて向き合う

2011年3月11日は、川崎市の労働安全衛生総合研究所に勤務していた。福島第一原発の事故を知った直後、放射線測定の必要性を研究者にメールし、3月15日にはNHKの取材班を連れて県内に乗り込んだ。

毎時300マイクロシーベルトまで計れる測定器の針が振り切れる場所が何カ所もあった。3月27日、別行動していたNHK取材班から報告を受けた。

「(旧津島村の)赤宇木集落の集会所に、まだ10人くらいが避難している」

赤宇木集落の集会場=2020年10月、福島県浪江町、三浦英之撮影
赤宇木集落の集会場=2020年10月、福島県浪江町、三浦英之撮影

翌3月28日に集会場に出向いて測定すると、駐車場で毎時80マイクロシーベルト、集会所内で同25~30マイクロシーベルトもあった。

住民に数値を示し、訴えた。

「すぐに避難してください。人が住める放射線量ではありません」

以来、原発事故に生涯を通じて向き合おうと決め、8月に獨協医大准教授に就任。二本松市にある国際疫学研究室・福島分室の室長として、福島県内の放射線量などの測定を続けてきた。

観測に使われた放射線測定器の1台=2020年9月、福島県二本松市若宮、三浦英之撮影
観測に使われた放射線測定器の1台=2020年9月、福島県二本松市若宮、三浦英之撮影

どうやって住めるようにするか

今年7月には、旧津島村の住民が起こした「津島原発訴訟」に証人として出廷し、当時の状況などを証言した。

「本音を言えば、(山に囲まれた)津島には人は住めないと思う」

取材に辛そうに語った。

「でも『住めない』と言った瞬間に、津島の人を切り捨てることになる。住めない場所をどうやって住めるようにするか。そこまで行政や私を含めた科学者は責任を負わなければいけない」

二本松市にある獨協医科大学国際疫学研究室福島分室=2020年9月、福島県二本松市若宮、三浦英之撮影
二本松市にある獨協医科大学国際疫学研究室福島分室=2020年9月、福島県二本松市若宮、三浦英之撮影
 

東京電力福島第一原発の事故後、全域が帰還困難区域になった福島県浪江町の「旧津島村」(現・津島地区)。原発事故で散り散りになった住民たちを南相馬支局の三浦英之記者が訪ね歩くルポ「帰れない村 福島・旧津島村の10年」。毎週水曜日の配信予定です。

三浦英之 2000年、朝日新聞に入社。南三陸駐在、アフリカ特派員などを経て、現在、南相馬支局員。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞。

南相馬支局員として、原発被災地の取材を続ける三浦英之記者
南相馬支局員として、原発被災地の取材を続ける三浦英之記者

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