連載
#10 ネットのよこみち
地味ハロウィン生みの親の気づき「面白いと言われたい人がこんなに」
言われて「ああっ」会話のだいご味
ハロウィンは、近年「コスプレをしてSNSにアップしたり、街に繰り出してはしゃいだりする」イベントになってきた。
ピークは数年前。渋谷ウォッチを続けている筆者は、駅前から道玄坂のてっぺんまで人がすし詰め(?)になり、思うように歩けなかったことを記憶している。林さんが「地味ハロウィン」を思いついたのも、その頃だ。
はしゃぎたいけど、ちょっと気後れする。派手な仮装やパーティーは無理だけど、仮装はしてみたい。そういう人たちが集まるのが「地味な仮装限定ハロウィン」だ。派手な仮装は禁止。地味過ぎて、馴染み過ぎて一見なんの仮装かわからない。それが地味に好評を博している。
――何故、「地味ハロウィン」をしようと?
林さん:ハロウィンの仮装、楽しそうだなとは思っていたんですが、激しいノリにはついていけないなと思って……。パリピみたいなのじゃなく、自分が参加できる地味なハロウィンをやりたいなと思ったのがきっかけです。
――「地味」とは一体…?
林さん:ハロウィンって、魔女だったりドクロだったり、仮装のわりに似たものになりがちですよね。自由なことをしていいのに、みんな“お揃い”。もっと変というか、「そこつくか!」というような仮装があってもいいと思ったんです。
――初回(2014年)は、どのように始めたのでしょうか。
林さん:最初はスナックを借りて、知り合いと知り合いの知り合いくらいだけで、地味~に。集まった人たちの仮装も、「ヤンキー」とか、「区役所で戸籍出してくれる人」とか地味なもので、僕は「本社から現場に来た人」でした。
――仮装なのかどうかわからないほど地味……! でもそれがネットでも話題になり、翌年からイベントスペースを借りたとか。
林さん:地味すぎて、だんだん何の仮装か当てるクイズみたいになってきた。最初は何の仮装かわからず、言われて初めて「ああっ」てわかる感じが、地味ハロウィンの面白さですね。やってみていいなと思ったのは、傍観者がいなくて、全員参加者であること。何の仮装なのか、どうしてその仮装をやろうと思ったか、というようなところから会話が広がるんです。
――仮装ひとつで、その人への興味がめちゃくちゃ湧きそうです。
林さん:わからないのもおもしろいんですよね。「実の妹」の仮装とかあって、わかんないけどわかるような気がしてくるというか、そうなんだっていう謎の説得力がある。
また、地味な仮装って、集まるとそれだけで物語が生まれるのも面白いポイントです。「人間ドック」という人がいて、たまたま「女医」がいて、一緒に写真撮るとか、「タレントから女性議員になった人」と「報道記者」がいたので、涙の記者会見ふうの写真を撮るとか。まったくの偶然なんです。スタバの店員が4人くらいになっちゃった時は、みんなで実際のスタバに行って写真を撮ってきたこともあります。
テレビの番組ADの仮装をした人がいた年に、実際にテレビの取材がきて。本物のADに「よくできてますね」って話しかけられたり、「入り口こちらでーす」って誘導している人がいると思ったら参加者だったり、裏方が多いのは地味ハロウィンならではかもしれません。
――「地味ハロウィン」をやるようになって、気づいたことなどはありますか。
林さん:「面白い」と言われたい人がこんなにいるんだとは思いましたね。カワイイとか、かっこいいとかはフィルタ(加工)とかでできますけど、おもしろいというのはできない。“とんち”のお祭りです。
地味ハロウィンの“お決まり”は、「通常はコスプレの対象になってないコスチュームを着てくる」ことだ。そんな地味仮装は、「見たことがある気がする」「こういうタイプの人いる」「見たことはないけど、何故かわかる気がする」もののオンパレード。絶妙なリアリティをついているのが特徴で、「細かすぎて、伝わりそうでちょっと伝わらなさそうで、でも伝わる」といったところか。
宅配便の受取に出られる最低限度の格好/ガリガリ君が外れた人/人間に化けているカッパ/オフのセレブ/アキバを探している観光客/回転寿司で値段を気にせず皿を取っちゃう人/アイダホ農家……。
こう書くだけで、その仮装をちょっと見てみたくなる。こだわりポイントはどこなのか、聞いてみたくなる。過去の天才たちの仮装をいくつかご紹介しよう。
■「生保レディ」
もともと仕事にしていたのではないかと疑いたくなるなりきりっぷり。
■「Mac Book Air 13インチ」
横から見た構図という見事な発想。
■「洗濯に非協力的な家族を持つ主婦」
まーた裏返しのまま!なんていう声が聞こえてきそう。
■「遅い夏期休暇でハワイに行き、お土産のチョコレートを会社で配る人」
少しまだ社会復帰できていない雰囲気が抜群。
■「鑑定団で自信満々だったのに外した人」
こういう地味な人の家にお宝ってあるものなんだな、と思わせておいて…。
デイリーポータルZは、3年前にニフティから東急グループのイッツ・コミュニケーションズ運営となった。
イッツコム広報の上岡さんは、当初はデイリーポータルZのユニークさが新鮮だったと振り返りながら、「デイリーポータルZのベースの考え方として、“人を傷つけない”というものがある。そこはイッツコムにマッチしているんじゃないかなと思っています」と話す。
また地味ハロウィンについては、「去年私も地味に仮装したんですけど、地味すぎて気づいてもらえませんでした……。仮装? “スリッパをはいて授業参観をするお母さん”というものです。今年はちょっとわかってもらえるようにしたいです」とにっこり。
なお、今年の地味ハロウィンは「会場は入場者を収容人数の半分に抑え、座席間のスペースを空け、会話も控えるなど、地味ハロウィンの名に恥じない地味な雰囲気作りを行います」とのこと。
リアル参加のほか、リモートやTwitterでも参加が可能で、Twitterでは「#地味ハロウィン #DPZ」というハッシュタグをつけるお約束。つまり、31日はそのハッシュタグを検索すると、天才奇才の仮装が見られるということでもある。
林さんは「リモートネタが出てくるのでは」と予想するが、一筋縄ではいかないのが地味ハロウィン。ただのリモート風景でないことだけは確かだ。
街を歩いていても、テレビを見ていても、全部が仮装に見えてくる。普段目立たないところに、目がいくようになる。そういう視点でまわりを見てみると、思いがけない発見もありそうだ。今年はどこに光を当てた地味仮装が見られるのか、楽しみにしていよう。
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