連載
#51 夜廻り猫
「もう治療法が…」つらさ隠して、にっこり 夜廻り猫が描く励まし
妹からかかってきた電話は「もう治療法がない」。それでも「つらいことがあるのでは?」という問いに笑顔で答える女性――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「笑顔」を描きました。
きょうも夜の街を夜周り中の猫の遠藤平蔵と子猫の重郎。ある女性の心の涙の匂いに気づき、ドアをノックします。「おまい様、心で泣いておられるな?話してみなさらんか」
冷たい風に震えるふたりを見て、女性はすかさず部屋の中に招き入れます。「何か食べていきなさい 塩分ひかえめの鶏ハムがあるわよ」
遠藤が「何かつらいことがあるのでは……」と重ねて問うと、女性は「妹が病気でね……」と漏らします。
それでも女性は、「大丈夫! 世の中だってね、いずれ落ち着く」とにっこりと笑います。
さらに、ふたりへ「寝るところはあるの?鶏ハムあとで食べなさい」と慮ります。自分にも心配事があるのに――。遠藤は「我々を守ってくれたのだ 子どものように」とぽつりと語るのでした。
作者の深谷さんは「コロナ禍によって、我々みんな、負担や心配が激増しています。コロナそのものも心配だし、子どもの貧困や、働く学生の困窮、失業などなど、世の中のほぼすべての面が心配なことになってしまいました」と振り返ります。
なかでも、高齢者の皆さんや、面会ができなくなったままの施設の入居者……。それぞれが「『ほかにしようがない』と忍耐を強いられている」と指摘します。「黙って耐え、誰かの力になり、この社会を支えているたくさんの人たちに、『足りないものは何ですか?したいことは何ですか?』とうかがいたい気がします」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本7巻(講談社)が2020年12月に発売予定。
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