連載
#54 ○○の世論
「GoToトラベル」利用したくない人の理由 世論調査で見えたモヤモヤ
肝いりの政策の成功を左右する「心配」
「新型コロナウイルス対策と社会経済活動の両立」を掲げる菅義偉首相が官房長官時代から旗を振る観光支援策「Go To トラベル」。朝日新聞が10月に行った全国電話世論調査で「Go To トラベル」について聞くと、世論の「モヤモヤ」が浮かびました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
「最優先の課題は新型コロナウイルス対策。そのうえで社会経済活動との両立をめざす。さもなければ国民生活が成り立たなくなる」。菅首相は9月16日の就任会見でこう述べ、自ら主導した消費喚起策「Go To キャンペーン」などを挙げ、「今後もちゅうちょなく対策を講じていきたい」と訴えました。
10月の調査では、「Go To キャンペーン」のうち、観光支援策「Go To トラベル」について聞きました。
全体をみると、「評価する」47%、「評価しない」43%と割れました。男女別で「評価する」は、男性51%が女性44%を上回りました。年代別に比べると、「評価する」が40代以下で50%以上だったのに対し、50代以上では50%を割り、特に70歳以上では「評価する」36%が「評価しない」50%を大きく下回りました。
そもそも、「Go To トラベル」を利用したいと思っているのでしょうか。同じ調査で尋ねました。
全体では、「利用したくない」46%が「利用したい」36%を上回りました。「すでに利用した」は15%でした。「利用したくない」は男性44%、女性48%。女性のほうが男性より「利用したくない」との思いがやや強いようです。
年代別をみると、「評価する」が50%を割った50代以上で「利用したくない」が44%~62%と高く、特に、「評価する」が36%だった70歳以上では「利用したくない」がもっとも高い62%でした。一方、「評価する」が60%近かった30代以下で「利用したくない」が低く、18~29歳31%、30代33%でした。
「利用したくない」と答えた人のうち、「評価しない」と答えた人は75%に対し、「評価する」は18%にとどまりました。「Go To トラベル」の利用に二の足を踏む思いが菅首相肝いり政策への評価を下げているようです。
こうした「Go To トラベル」をめぐる意識の背景にありそうなのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。同じ調査で、次のような質問をしました。
「大いに」「ある程度」を合わせた「心配している」は全体で88%にのぼり、「あまり」「まったく」を合わせた「心配していない」は12%でした。年代別にみると、「大いに心配している」は70歳以上が43%でもっとも高く、18~29歳が25%でもっとも低い結果でした。
同じ質問をした3回の調査を比べると、「心配している」は5月92%→7月94%→10月88%と高い水準にありますが、「大いに心配している」だけをみると、5月45%→7月58%→10月37%という結果でした。緊急事態宣言下の5月、宣言解除後の7月の調査と比べると、「心配している」度合いはやや下がった状態と言えそうです。
それでも、「Go To トラベル」の評価が割れた要因の一つには、この「心配」がありそうです。
「心配している」と答えた人を分析すると、「大いに」と答えた人のうち、「利用したい」31%、「利用したくない」52%、「すでに利用した」12%でした。「ある程度」と答えた人のうちでは、「利用したい」38%、「利用したくない」45%、「すでに利用した」14%という結果でした。
新型コロナの感染が再び広がる心配を「大いに」している人であっても、31%が「Go To トラベル」を「利用したい」と思っている――。こうした「モヤモヤ」した世論を解きほぐすような政府の対応が、今後の「Go To トラベル」の成否を握っているのかもしれません。
1/5枚