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連載

#10 凸凹夫婦のハッタツ日記

梱包がひどすぎて…怒りの返送 ADHD夫の「郵送」から得た気づき

「郵便物を出す」というのは、単純なことだと思っていた。

ADHDの夫・光さんにとっては、「郵送」一つも単純な作業ではありませんでした=写真はいずれも西出夫妻提供
ADHDの夫・光さんにとっては、「郵送」一つも単純な作業ではありませんでした=写真はいずれも西出夫妻提供

目次

こだわりが強いASD(自閉スペクトラム症)の妻。抜けもれが激しいADHD(注意欠如・多動症)の夫。西出弥加(さやか)さん(32)・光(ひかる)さん(25)夫妻は共に発達障害です。「妻が先生、夫が生徒」のような関係で、凸凹を補っているという2人。郵便物を送る作業も、夫にとっては単純なことではありませんでした。妻・弥加さんの視点でつづります。

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投函までの「細かく、長い工程」

私たちは今、離れた場所で自立した生活を送っているが、同居していた1年は私が旦那に家事や事務作業を全て教えていた。旦那はその「授業」を経て、一つの指示のみで理解するようになった。

例えば「出すべき自分の郵便物は期限までに出しておいてね」という指示。出会った頃は誤字が多く住所の抜けもあり、相手先に届かず戻ってきたこともある。のりの付け方も不器用で、切手の貼り方も甘かった。しかし今は「光くんの出すべき書類を出してね」というだけで完璧に郵便を投函し、報告してくれる。

私は「郵便物を出す」というのは、単純なことだと思っていた。

しかし、この考えは違っていたようだ。郵便物を出すのには細かい工程がある。

旦那の退職金に関する書類を会社に郵送する場合、まず書類を机に出し、ペンを持ってきて書き込む。それからハンコを押し、誤字脱字がないか確認し、書類をまとめて三つ折りにし、A4三つ折りが入るサイズの封筒を用意し、送り主と宛先の住所を書く。会社宛てなので宛名の後に「御中」をつけるが、これが誰か宛ての場合なら「様」をつけなければいけない。

その封筒に書類を入れ、中身が出ないようにのりで封をして、その封筒が重そうなら、切手が足りなくならないよう重量を調べて切手を貼り、その封筒をカバンに入れ、なくさないようにして、ポストへ投函。書類に締め切りがあるなら、期限内にこの行為をする。

ここまでの長い工程があるのだ。

西出弥加さん(左)、光さん夫妻
西出弥加さん(左)、光さん夫妻

「ひどすぎた」梱包

これまた「単純なこと」だと思っていた梱包も、基準が違いすぎるのでどうしようか悩んだ。

私たち夫婦は、出会ってから計4回引っ越しをした。1回目は私と女友達で梱包し、2回目からは旦那にも手伝ってもらったが、旦那は割れ物を包まず段ボールに入れる人だった。緩衝材があった方が割れないのではないかと思ったが、初めは言えなかった。堂々と一生懸命入れていたので、もしかして私の方が今まで間違っていたのではと考える日もあった。

考えすぎなのかと思ったが、ある日、旦那がメルカリで出したイヤホンを買ってくれた人が「あまりに梱包がひどすぎますのでいりません!」と怒りのコメントつきで返品してきたので、これは私が教えた方がいいのでは!? と決心がついた。返品する郵送代もかかっただろう……と申し訳ない気持ちになった。

3回目からは、イヤホンや充電器など細かい機械類は雨が入り込まないようファスナー付きの袋に入れるとか、割れ物は緩衝材で包むとかを一つ一つ一緒にしていった。

妻・弥加さんが書いた四コマ漫画
妻・弥加さんが書いた四コマ漫画

「できない自分」から「結構できてるかも」へ

郵送、梱包など、細かく教えることがほぼ24時間休みなく行われた同居生活だったが、旦那のおかげで私はとても大切なことに気づいた。

世の中のお母さんがしている家事には、何十もの工程がある。例えば洗濯は、洗濯物を集め、傷みやすそうな素材の服はネットに入れ、洗剤を入れて洗濯機を回し、そして干しに行く。風呂掃除という一つのタスクも、料理も、ゴミ出しも、食器洗いも単純ではない。

そして、それを教えるのには大変な労力が必要になる。よく母に「手伝わんでいい」と言われたが、なぜだろうと思っていた。きっと私に教えるような余裕が取れなかったのだ。

一つのタスクに何十もの工程があることを知ってから、私は変わった。仕事も、デザインを1枚作るという工程には、まずお客様から要望を聞き、メールでやりとりし、作って、修正して、提出して、請求書を出し、確認するという工程がある。今までは「なんでこんなこともできないのか」と自分を責めるばかりの人生だったが、この工程一つ一つが重なって一つのタスクが完了していることに気づいてからは「結構私は色々なことができてるかもしれない」と少しずつ自信を持てるようになったのだ。

洗濯にも多くの工程がある
洗濯にも多くの工程がある

旦那に感謝していること

私は、99点は0点と同じだと思っていた。どんなに頑張っていても、100点満点の完璧な仕事をしなければ何もしていないことと同じだ。「締め切りまでに完璧な作品を提出する」と言い聞かせて睡眠時間を削り、あとになって体調を崩して何日も寝込んでしまうこともあった。

しかし、旦那に出会って、少しずつ自分に言い聞かせる言葉も変わった。「10点でも20点でもいいから、まずやろう」「今日は80点できたよ、あと20点がんばろう」。こんなふうに、0点か100点かの極端な考え方ではなく、今ある点数そのものを見ることができるようになった。

精神面で旦那に感謝していることは、抱えきれないほどたくさんある。

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西出弥加(にしで・さやか)

1988年生まれ。「自閉スペクトラム症(ASD)」の当事者。2019年に「注意欠如・多動症(ADHD)」不注意優勢型の光と結婚。会社組織に所属するのは苦手で、フリーランスのグラフィックデザイナー・画家として文具などを作成している。描く絵は動物が多い。寝る時間が定まらないのが悩み。
Twitter:https://twitter.com/frenchbeanstar
ブログ:https://ameblo.jp/frenchbeanstar/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCSBIRwRWRQJ8apL48KEO8tQ

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withnewsでは、西出弥加さん・光さん夫妻のエッセイ凸凹夫婦のハッタツ日記〜先生と生徒になってみた〜を不定期で連載します。先生と生徒のような夫婦関係について、夫と妻それぞれの視点で描きます。

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