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連載

#9 アニメで変わる地域のミライ

7万人のアニメファンが北海道に集う…「異色」アニメイベントの秘密

盛り上がりを受けて〝あとから〟聖地になりました。

洞爺湖町内にはTMAF公式グッズと共に「天体のメソッド」グッズを扱う店もある=写真はいずれも筆者撮影
洞爺湖町内にはTMAF公式グッズと共に「天体のメソッド」グッズを扱う店もある=写真はいずれも筆者撮影

目次

アニメの舞台を旅する「聖地巡礼」は、作品の舞台になることでその地域に注目が集まる展開が一般的ですが、北海道洞爺湖町は〝あとから〟聖地になった珍しい地域として知られます。10年前にはじまった「TOYAKOマンガ・アニメフェスタ(TMAF)」が、地元に愛されながら規模を拡大し、その盛り上がりを受けて2014年にアニメ「天体(そら)のメソッド」の舞台となりました。コロナ禍で今年のイベントは中止になりましたが、それでもファンがTwitterなどでイベントを盛り上げる様子もありました。どのようにファンから愛されるイベントになったのか。その過程をお届けします。

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同人誌即売会やコスプレイヤー、「痛車」も

アニメや漫画、ゲームといった日本が誇るサブカルチャーを用いて地方を盛り上げる方法は、「聖地巡礼」だけではありません。アニメの舞台など作品ゆかりの地で、同人誌即売会を開く取り組みや、コスプレイヤーや「痛車」と呼ばれる、キャラクターが車体に彩られた車を集めて展示するイベントを開く取り組みなどがあります。

北海道洞爺湖町でも、こうした取り組みを集成したようなイベント、「TOYAKOマンガ・アニメフェスタ(TMAF)」が洞爺湖温泉街で2010年から開かれています。洞爺湖温泉観光協会などが主催となっているイベントで、毎年6月下旬の土日を使って開催されています。

コスプレイヤーは歩行者天国となった洞爺湖温泉街を練り歩いて自由に撮影できるほか、駐車場では痛車の展示会が開かれ、ステージでは有名歌手や声優を呼んだライブやトークショーが開かれます。このほかにも、同人誌即売会や天体観測などといった有志主催による催しもあり、2日間の来場者数が7万人を超える北海道を代表するイベントになっています。

コスプレイヤーで賑わうTMAF2014の様子
コスプレイヤーで賑わうTMAF2014の様子

「懐疑的」から「好意的」へ

もともとは洞爺湖温泉開湯100年記念事業を記念して、2010年に1回限りで企画された取り組みでした。イベントを企画した一人で、地元で飲食宿泊業を営む佐々木卓一さん(47)は当時をこう振り返ります。

「それまで洞爺湖温泉街では、『夏祭り』など一般の方向けの取り組みしかしてこなかったのですが、100年記念事業ということで、『チャレンジ』をテーマに若い人からイベント企画の意見を募る機会があったんです。そこで自分の好きなアニメやマンガをテーマにしたイベントが出来るチャンスだと思い、提案させていただいたのがきっかけです」

第1回から今と変わらない、コスプレや痛車、同時即売会などを同時に行う形で実施。するとコスプレイヤーだけで300人が集まり、全体でも3000人が集まる反響となりました。

特にコスプレイベントは地域おこしを画策するイベントとして全国各地で開かれていますが、「100人集まれば成功」と呼ばれるほど、参加者集めに苦労する場合が多いです。いかにTMAFの反響が大きかったかがうかがえます。

「最初はアニメやマンガをテーマにイベントをすることに、年配の方を中心に懐疑的な目もあったのですが、3000人も集められたことで、『湖水祭りが復活したようだ』という好意的な声に変わりました」(佐々木さん)

「洞爺湖湖水祭り」は、1977年まで毎年7月上旬に開かれていた、3日間で3万人を集めていたお祭りです。ところが77年8月の有珠山噴火により途絶えています。洞爺湖ではこの時期に催されるイベントが長らく他になく、TMAFがそこに入った形です。

ファンや地元からの評判がとても良かったことや、イベント継続を望む声がSNSで多数寄せられたことから、2011年以降も続けられます。

当初は、「湖水祭り並の規模に育てたい」と地元メディアの取材に対し抱負を語っていた佐々木さんでしたが、今では2日間で7万人規模のイベントに成長しています。

佐々木卓一さん
佐々木卓一さん

「ゲスト」をリピーターにさせる魅力

なぜ、ここまで大規模なイベントになれたのでしょうか。一つは、北海道でアニメやマンガをテーマにした大きなイベントが他になく、競合がいなかったのも要因だと考えられます。実際、参加者の多くは200万人以上の人口を擁する札幌圏からで、イベントに合わせ臨時バスも運行されています。

もう一つは、筆者も何回か参加しましたが、家族連れでコスプレしている姿がとても印象的だったのを覚えています。そのキャラクターも、「ガンダム」や「セーラームーン」など、一般向けの作品なのが特徴です。つまり、カジュアルにコスプレを楽しんでいる人たちが多いというわけです。これは、コミケをはじめとする東京の大規模コスプレイベントではあまり見られない姿です。

他にも、一部のゲストがイベントのファンとなり、リピーターとなっているのもTMAFの特徴です。例えば「北斗の拳」のケンシロウや、「シティーハンター」の冴羽獠、「名探偵コナン」の毛利小五郎などの声優として知られる神谷明さんもその一人で、第1回以降、ほぼ毎年のように参加しています。ファンだけでなく、ゲストをもリピーターにさせてしまう魅力がTMAFにはあるのです。

「天体のメソッド」の「聖地」の一つ。森と木の里センター(壮瞥町)の外観
「天体のメソッド」の「聖地」の一つ。森と木の里センター(壮瞥町)の外観

アニメの舞台にも

こうしてTMAFで盛り上がりを見せていた洞爺湖町ですが、2014年にあるアニメの舞台になることが明かされます。「天体(そら)のメソッド」です。「天体のメソッド」は、14年10月から12月にかけて放送されたアニメで、北海道の洞爺湖や札幌市などが舞台になっています。現在でも作品の展開は続けられており、不定期的にYouTubeで動画がアップロードされています。

製作側もTMAFの存在は意識しており、放送前の2014年6月のTMAFでは、「天体のメソッド制作発表会」が開かれ、主演声優によるトークショーや、主題歌を歌う音楽グループによるライブが開かれました。放送終了後の翌15年6月のTMAFでは、「天体のメソッド展」という原画展も開かれています。

TMAFと「天体のメソッド」がコラボしたのはこの2年間だけですが、これ以降も、TMAFを訪れる来場者の数は増加の一途をたどります。2015年時点で5万人規模のイベントになっていましたが、18年には7万3000人を記録します。近年は道外だけでなく、インバウンド旅行者の参加者も増えてきているといいます。「天体のメソッド」は海外からの人気も高く、この影響もあるのかもしれません。

洞爺湖をロケ地とした作品は「天体のメソッド」以外にも数多いことから、地域を挙げて「天体のメソッド」だけを応援するということはしていませんが、現在でも町内各地に作品のポスターが貼られているなど、その痕跡は確実に残されています。

町内には今でも「天体のメソッド」のポスターが随所に貼られている
町内には今でも「天体のメソッド」のポスターが随所に貼られている

コロナで中止…でもオンラインが大盛況

そして、2020年は記念すべきTMAF10周年……となるはずでした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、イベントは中止。オンライン企画のみの実施となりました。しかしその中でも、「#オンラインTMAF」というハッシュタグがTwitterなどで数多く投稿されたほか、オンライン企画でも神谷明さんをはじめとするゲストが公式にコメント動画を寄せています。

次回のTMAFは2021年6月下旬の開催を予定しています。その頃には国内の移動は元通りになっていると信じたいところですが、海外からの旅行者がどのようになっているかが気がかりです。

TMAFの取り組みは、他の一定の観光資源を持つ自治体でも模倣できるのも特徴だと思います。今のところ、TMAFのようなアニメ・マンガを扱う大規模な地方イベントは北海道にしか見られませんが、全国の各地方に、名物となるイベントが今後生まれることを期待しています。

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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