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#83 #父親のモヤモヤ

イクメンの日に考える「育児と男性性」 仕事と家庭の葛藤、語る意味

在宅勤務の広がりで育児に関わる時間が増えた父親も(写真はイメージです)=PIXTA
在宅勤務の広がりで育児に関わる時間が増えた父親も(写真はイメージです)=PIXTA

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。

「仕事も家庭も、何もかもが停滞している」。共働きの妻と、4歳の長女と3人暮らしの記者(40)は、仕事と家庭の両立に葛藤する日々です。一方、「ワンオペ」育児や負担の偏重に苦しむのは多くの場合、女性です。男女の賃金格差のような男性優位の社会構造もあります。男性の立場で、モヤモヤを吐露していいのか、常にためらいがあります。

「恋バナ収集ユニット『桃山商事』」の代表で、文筆業の清田隆之さん(40)は、もうすぐ1歳になる双子の父親です。最近、男性「特権」について実体験を元に考察した『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)も刊行しました。父親のモヤモヤ語りについて、ヒントを与えてくれるのではないか。そんな思いでインタビューしました。

【#父親のモヤモヤが書籍に】
多くの父親の葛藤に耳を傾けてきた連載「#父親のモヤモヤ」が『妻に言えない夫の本音 仕事と子育てをめぐる葛藤の正体』というタイトルで、朝日新書(朝日新聞出版)から10月13日に発売されました。

「イクメン」の誕生から10年。男性の育児が促される一方、葛藤を打ち明けられずに孤立する父親たち。直面する困難を検証し、子育てがしやすい社会のあり方を考える一冊です。詳細はコチラから。刊行にあわせ、父親の子育ての現在地を考えます。

『妻に言えない夫の本音 仕事と子育てをめぐる葛藤の正体』(朝日新書)

複雑な難しさを含む言葉

清田さんは、共働きの妻と家事や育児をシェアしています。オンライン取材は、むずかる双子の赤ん坊を交互にあやし、離乳食も食べさせながら行われました。インタビューに支障を感じることはなく、自転車に乗るように自然と子育てする清田さんに、日ごろの深い関わりがみてとれました。
 
高橋:「イクメン」が新語・流行語大賞のトップ10入りしてから10年が経ちました。「イクメン」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか。10月19日は、10(トウサン=父さん)、19(イクジ=育児)の語呂合わせで、「イクメンの日」とされます。

清田:このごろは言わなくなってきた表現ですが、育児を「手伝う」「参加する」くらいで、過剰にほめられる風潮は、どう考えてもおかしいですよね……。そこには「そもそも女性がするものを男性がしている」という前提があるわけで、これも男性「特権」の一種ではないかと思います。

一方で、社会の中では、「男は働くべし」という規範が強く、男性の育児にはアゲインスト(逆の)の風も吹いている。早く会社から帰る、飲み会を断る、ということを、出世に響くかも労働時間が少なくなるかもとおびえつつも、いろんな工夫をしながら積極的にやっている人もいるはずです。

そうした人に対して「男性が育児しただけでほめられるのはおかしい」という言葉を浴びせてしまうのもどうなのか……と、「イクメン」とは複雑な難しさを含む言葉だと思っています。

「恋バナ収集ユニット『桃山商事』」の代表で、文筆業の清田隆之さん
「恋バナ収集ユニット『桃山商事』」の代表で、文筆業の清田隆之さん 出典: 朝日新聞

言語化することで、問題を「発見」

高橋:『さよなら、俺たち』の中では、男性「特権」の問題を取り上げています。「恋バナ収集ユニット『桃山商事』」の活動を通じ、語られる男性像は共通する部分があったとして、「判で押したような言動が量産されている背景には、間違いなくジェンダーの影響がある」と指摘されています。セクハラや、入試や就職での男子学生「優遇」を例にとり、「考えなくて済む」ことが「特権」なのだと書いています。

一方で、いまお話されたように、「男は仕事」という規範意識が強い中、仕事と家庭との両立に板挟みになる父親はいます。中には、精神的に追い込まれ、孤立する人も。私自身、男性「特権」を意識していて、だからこそ、「語っていいのだろうか」というためらいが常にあります。
 
清田:そうですよね……僕自身にもそういう感覚はありますし、同じような思いを抱えた男性はこれからも増えると想像します。ただ、さじ加減は難しいことを頭に入れつつ、子育てする男性が、当事者としてのモヤモヤを語ることは必要だと思います。言語化することで、問題を「発見」することもできる。語りが増えていけば、葛藤を語る上での「共通言語」もでき、自分自身を知ることにもつながると思っています。

『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)

えたいの知れない焦り、気付く「特権」

高橋:ご自身のモヤモヤはありますか?

清田:インプットの時間が思うようにとれないとか、体力的に万全の状態で仕事にとりかかることができないとか、仕事面でのフラストレーションは正直あります。同世代、同じジャンルで活躍している人のよい仕事を目の当たりにすると、えたいの知れない焦りがわいてきたりもする。

そういう中で、「育児がなければもっと」とか「子どもたちに関わらざるをない時間を仕事に使えたら」という気持ちになってしまう瞬間もあって。双子たちは大体夜の9時に寝つくんですが、「早く仕事にとりかからなきゃ!」って焦るあまり、食事中も気もそぞろで妻との会話も適当に……なんてことが結構あります。
 
高橋:『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(晶文社)では、「あるある」男性の一つとして、便利グッズや高機能アイテムを買いたがる様をあげています。これらは、自分がすごくなるような「気分」に対してお金を払っているとして「ファンタジー消費」と名づけています。ご自身の子育てでも、同じような傾向があったそうですね。
 
清田:不安を便利グッズで解決しようという部分が確かにありました。ハンズフリーでミルク授乳ができるアイテムは実際に重宝しましたが、赤ちゃんが魔法のように寝付いてくれるとうたっているクッションを買おうとしたり、ミルクをワンタッチで作れるコーヒーメーカーのような機械を海外から輸入しようとしたり……妻にいろいろ止められもしました(笑)。

そういう傾向の根底には「自分の時間とエネルギー=すべて自分のことに使うもの」という感覚があると思います。例えば女性は、生理によって毎月体調が変動しますよね。妊娠や出産の時は、おなかの命と自分の命を気にしながら慎重に生きることを余儀なくされます。仕事もセーブせざるを得ない。

「自分の時間とエネルギー=すべて自分のことに使うもの」などと無邪気に考えられることも、ある種の男性「特権」なのではないか……と思い至りました。時間と体力は有限なわけで、育児の合理化や効率化はとても大切なことですが、「なんのために」という部分を見誤るとすれ違いの原因になってしまうかもしれない。

当事者の立場から「育児と男性性の問題」を考える

清田:先日、女友達との会話の中で「女性は子どもを産んだ途端、命の責任者に勝手に任命されてしまう」という話が出ました。例えば子どもの離乳食について、自分は「双子だし大変だし、基本レトルトのものでいいんじゃない?」という発想をつい持ってしまうんですね。

もちろん妻もおおむね同じ考えなんですが、彼女は栄養バランスやアレルギーのこと、あじつけから食育的な観点も含め、より広い視点で食事を捉え、自作のレシピも織り交ぜながら日々の離乳食を考えている。その背景にはもしかしたら、命の責任者としてのプレッシャーもあるのかなと感じます。

父親である僕も間違いなく命の責任者なんですが、何かと合理化や効率化しようとしてしまうのは、もしかしたら責任感がまだまだ希薄だからなのかなと思ったりもする。ケアの観点から効率化に慎重な姿勢の妻と対立するシーンもあり……子育てをめぐるこうしたすれ違いの背景にも、男性「特権」的な問題が関係しているかもという観点から、引き続き「育児と男性性の問題」を当事者の立場から考え続けていきたいと思います。

<『妻に言えない夫の本音』刊行イベントを開きます>
#父親のモヤモヤの書籍化を記念し、取材班の高橋健次郎記者が聞き手となったトークイベント「育休にまつわる誤解とモヤモヤの正体」11月9日(月)に開催いたします。
 
ゲストは、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(PHP研究所)を上梓した小室淑恵さん(ワーク・ライフバランス)と天野妙さん(Respect each other)です。

父親母親はもとより、立場にかかわらず、多くの方の参考になる内容となるはずです。詳細・申し込みはコチラのページから。みなさんのご参加をお待ちしています。

父親のリアルな声、お寄せください

記事の感想や体験談を募ります。いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。
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