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連載

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#27 現場から考える安保

極限の出番、「突撃」支援の陸自野戦特科 155ミリ榴弾砲炸裂の現場

FH70(155ミリ榴弾砲)の射撃訓練に備える陸上自衛隊富士学校・特科教導隊の隊員たち=10月14日、静岡県の陸自東富士演習場。藤田撮影(以下同じ)
FH70(155ミリ榴弾砲)の射撃訓練に備える陸上自衛隊富士学校・特科教導隊の隊員たち=10月14日、静岡県の陸自東富士演習場。藤田撮影(以下同じ)

目次

陸上自衛隊「野戦特科」の主力・155ミリ榴弾砲(FH70)の射撃訓練を富士山麓で取材しました。立て続けに耳をつんざく発射音。砲弾の生温かい破片が散る着弾地点。制圧範囲を敵と削りあう極限を想定した現場を見て、考えました。(朝日新聞編集委員・藤田直央)

東富士演習場に破裂音と地響き

10月14日昼、曇天にすすき野が広がる静岡県の陸自東富士演習場。富士山麓へ6門のFH70が一斉に初弾を放ちます。破裂音と地響きに腰が抜け、スマホで動画を撮る手が激しくぶれました。1門につき1班9人が43キロもある弾を次々と抱えては装塡し、約10秒間隔で撃っていきます。

報道公開されたのは、陸自で野戦特科と呼ばれる部隊の訓練です。演習場入口で配られた鉄のヘルメットを着けながらの取材でした。

取材に参加した報道陣に着けるよう求められた鉄のヘルメット
取材に参加した報道陣に着けるよう求められた鉄のヘルメット

陸自火力の骨幹、野戦特科

まず野戦特科について説明します。

野戦特科の基本的な役割は、地上での戦闘で制圧地域を広げようと進む戦車や歩兵を支援することです。そのため目指す地域へまず大量の砲弾を打ち込み、敵を排除します。野戦特科の部隊自体が敵に攻撃されないよう、射撃は数キロ離れた丘を越えるような所から。照準を定めるため着弾地点の観測役もいて、それは「斥候」であったり、今後はドローンになったりするかもしれません。

射撃訓練の際に陸自富士学校が示したスライドより
射撃訓練の際に陸自富士学校が示したスライドより

6門のFH70が並ぶ発射地点の「射撃陣地」の訓練では、指導にあたる陸自富士学校特科部の教官から直前に説明がありました。「今回の目標までの距離は3500メートル。0.01秒ずれると距離2.8メートル、高さ60センチの誤差を生じます」

射撃の「誤差」をなくすことに野戦特科はこだわります。敵を排除するには破壊または威圧せねばならず、そのためには複数の砲からの着弾を、場所に加えタイミングもずらさないのが効果的だからです。

FH70の発射訓練について説明する地図
FH70の発射訓練について説明する地図

いま着弾(陸自では「弾着(だんちゃく)」と呼びます)と書きましたが、敵が堅固でない露天陣地にいる場合は被害を増すため砲弾を着弾直前に破裂させることもあります。その場合に砲弾に装着する「時限信管」も、0.01秒単位で「発射から何秒後」とセットできるという説明でした。

約10分の訓練で6門から放たれた砲弾は計72発で、各班が4発立て続けの発射を3回繰り返しました。各回の1発目と4発目は一斉射撃としてそろうよう、後方に立つ隊員が赤い小旗を振り下ろすのを合図に発射。それが地響きの正体でした。

陸自富士学校によると、FH70のような榴弾砲は米軍では「キングオブバトル(戦闘の王)」と呼ばれ、「第一線部隊は友軍の榴弾砲の飛翔音に鼓舞され、突撃を敢行」という説明でした。

固唾のむ着弾地点での取材

次に「近迫射撃」の取材へ向かいます。射撃は先ほどと同じFH70からですが、見る場所が発射地点ではなく、何と着弾地点です。もちろん危ないので、少し離れて着弾を確認できる頑丈な施設の中から。とはいえ200メートルの距離だそうです。

8800ヘクタールもある東富士演習場の未舗装の凸凹道を、陸自の大型トラックの荷台で揺られて移動。少し標高を上げ、10数分で「射弾下掩蔽部」というコンクリートむき出しの施設に着きました。その先に緩い斜面が広がり、目標らしき黄色い風船が並んでいます。

2009年にできたこの施設に入り、横長の細い窓越しに着弾を見ます。まず説明のアナウンス。射撃は2通りの状況を想定し、二部構成で行われるそうです。まず「戦車部隊先導に対する突撃支援射撃」、次に「普通科(歩兵)部隊単独の場合の突撃支援射撃」。この違いは後ではっきり現れます。

「(窓の)防弾ガラスに破片があたり、破損することがあります」「合図があるまで絶対に外に出ないようお願いします」と最後に注意がありました。窓をのぞくと、訓練開始が迫る中この施設へ駆け足で向かう隊員の姿。200メートル先に並ぶ黄色い風船を固唾をのんで見つめました。

コンクリート施設の窓からのぞくと、射撃訓練の開始が迫る中こちらへ駆け足で向かう陸自隊員の姿
コンクリート施設の窓からのぞくと、射撃訓練の開始が迫る中こちらへ駆け足で向かう陸自隊員の姿

最初は戦車部隊先導を想定した支援射撃です。間もなく着弾を知らせる「だんちゃーく、いま!」というアナウンスとともに、空中で数発が破裂する光と煙、続いて腹に響く音。その破片で黄色い風船が割れました。戦車の中の味方は破片から身を守れるので、弾を空中で破裂させ広い範囲の敵に被害を与えたというわけです。

しばらくして500メートル先の山肌に数発着弾し、土煙が上がります。これは「戦車の突撃に合わせて射程を延伸し、我が戦車を狙う敵対戦車ミサイルを撃破するという想定で地上破裂射撃を実施」という説明でした。

次に歩兵部隊単独を想定した支援射撃です。まず200メートル先の黄色い風船があったあたりに立て続けに着弾し、土煙が立ちこめました。歩兵が着弾による穴も使い、身を隠しながら前進するための「地上破裂射撃」です。

そして最後の弾は500メートル先の山肌に落ち、黄色い煙が出ました。「突入のタイミングを確認する着色発煙弾」でした。

山肌えぐる着弾地点へ

射撃終了後、引率され「射弾下掩蔽部」から出て、緩い斜面を登ります。200メートル地点が近づくにつれ、山肌をえぐる直径1~2メートルほどの穴が増え、黄色い風船が割れたあたりはむき出しの地面が広がっていました。これまでの無数の着弾により、隅々までまるで巨大な重機で掘り返したようです。

先ほどの着弾によるとみられる生温かい破片や、古い信管の残骸が落ちていました。ここに来る時に大型トラックから見た「不発弾に注意」という看板を思い出し、今更ながらぞっとしました。

FH70による射撃の着弾地点。土囊の袋が避けていた。左奥には割れた黄色い風船
FH70による射撃の着弾地点。土囊の袋が避けていた。左奥には割れた黄色い風船

万一の誤射を考え、この場で実際に戦車や歩兵が支援射撃を受けながら前進訓練をすることはないそうです。ただ、私が体験したような着弾の目視と現場の確認は、陸自で教育の一環として行われているそうです。

穴だらけの斜面を歩きながら、中堅の隊員が話しました。

「野戦では身を守るため常に姿勢を低くしないといけません。伏せているかどうかで命にも関わりますが、つらいので若い隊員は訓練でつい身を起こしてしまう。でも富士学校での教育でここを訪れると、そういう態度が変わります」

200メートル離れて着弾の様子を見た施設から少し歩いた所の掲示。「負傷公算 1/100」とは、100人に1人が着弾の破片でけがをする可能性を示す
200メートル離れて着弾の様子を見た施設から少し歩いた所の掲示。「負傷公算 1/100」とは、100人に1人が着弾の破片でけがをする可能性を示す

陸幕長「火力で侵攻企図破砕」

射撃訓練の取材を終え、また大型トラックでゴトゴトと移動。少し開けたところで降りると、野戦特科の車両が展示されていました。FH70は35年前に配備されながら今も主力ですが、その後継となる19式装輪155ミリ自走榴弾砲もありました。牽引されるFH70に比べ、タイヤで走る車両と一体化し機動性を高めたものです。

陽が傾き曇天が暗さを増す東富士演習場で、そんな最新鋭兵器を見ながら考えました。野戦特科の出番とは、島国日本がそもそもどうなった時なのでしょう。

後ろから見た19式装輪155ミリ自走榴弾砲
後ろから見た19式装輪155ミリ自走榴弾砲

戦車や歩兵をある地域へ進めるため、まず大量の砲撃で敵を排除するというのは、日本が他国を侵略しない以上、日本の領土が他国軍に侵略された場合にそれを押し返すという、極限の状況になります。

しかも最近自衛隊は領域横断作戦ということで、陸海空の連携に加えサイバーなどの新領域にも力を入れ始めました。野戦特科の関係はどうなるのか。訓練の翌日、防衛省での定例記者会見で湯浅悟郎・陸上幕僚長に聞くと、こんな答えでした。

記者会見に臨む湯浅悟郎・陸上幕僚長=10月15日、防衛省。藤田撮影
記者会見に臨む湯浅悟郎・陸上幕僚長=10月15日、防衛省。藤田撮影

「新領域で(有利な)環境をつくって最終的に火力で軍事目的を達成するというウクライナ紛争の例もあります。火力は相手の侵攻企図を破砕する物理的な力の骨幹です。陸自の特徴は残存性であり、(日本の)領域を直接守ることにあるので、火力や新領域の力を使って、領域を守り、海空戦力の基盤を守る形で、役割を果たしていきたい」

「残存性」とは戦闘の場で存在し続けるという意味です。日本への攻撃も、その排除も、最後の勝負は火力になる。陸自はサイバーなどの新領域と連携して火力を高め、退かないことで日本の領土を守る。それが海自や空自が領海、領空を守るために展開する土台となる――。湯浅氏の説明を私はそう理解しました。

東富士演習場での取材に話を戻すと、現場での陸自富士学校による説明でも、「野戦特科の概要及び将来構想」として、19式装輪155ミリ自走榴弾砲を筆頭に「最新・更に精密化」と紹介し、対地火力とサイバーなどの連携を強調していました。

射撃訓練の際に陸自富士学校が示したスライドより=10月14日、東富士演習場。藤田撮影(以下同じ)
射撃訓練の際に陸自富士学校が示したスライドより=10月14日、東富士演習場。藤田撮影(以下同じ)

ただ、その説明は対地火力による領土防衛にとどまりませんでした。やはり野戦特科が担う対海上火力の「将来」として、いま持つ地対艦誘導弾(SSM)というミサイルの改良型や、高速滑空弾といった新兵器に触れ、「長射程化、精密化、多目的化」と強調。陸自の火力で排除する範囲を海上へとより広げるものです。

そしてその方針はすでに、南西諸島へのミサイル部隊配備という形で現れています。東富士演習場には、沖縄の宮古島駐屯地にも今年置かれた野戦特科の12式SSM発射装置も展示されていました。

陸自東富士演習場に展示された野戦特科の12式地対艦誘導弾発射装置
陸自東富士演習場に展示された野戦特科の12式地対艦誘導弾発射装置

島国日本防衛のジレンマ

これは中国の海洋進出に対抗するためとはいえ、極めて厳しい状況になってしまっています。私が今回の訓練で見たように、野戦特科の出番は制圧範囲を敵と削りあう極限状態です。そのつばぜり合いへの備えを南西海域にまで広げようと対海上火力を狭い離島に展開しても、逆に外から狙われやすい。もし極限状態になれば、離島の部隊だけでなく住民も苦境に陥るでしょう。

防衛省の想定はこうです。南西諸島への侵攻を防ぐためにこそ陸自の対海上火力を置き、海自や空自と連携して抑止を強める。もし侵攻されても援軍を送り奪回する――。その際には、FH70のような野戦特科の対地火力が海自艦艇で離島に上陸するケースもあるでしょう。

でも、そうして陸自が分厚く展開するほど、「残存性」をかけた攻防が激化しかねません。逃げ場のない離島で住民をどうするかという「国民保護」の問題が深刻になります。「火力は相手の侵攻企図を破砕する物理的な力の骨幹」という湯浅陸幕長の言葉が、逆の意味で重く響きます。

2019年4月、地対艦・地対空誘導弾を配備予定の宮古島駐屯地の新設式典に臨む岩屋毅防衛相。柵の向こうで駐屯反対を訴える住民らが声を上げた=沖縄県宮古島市。朝日新聞社
2019年4月、地対艦・地対空誘導弾を配備予定の宮古島駐屯地の新設式典に臨む岩屋毅防衛相。柵の向こうで駐屯反対を訴える住民らが声を上げた=沖縄県宮古島市。朝日新聞社

今回目の当たりにした野戦特科の射撃訓練は、領土を守る陸自の覚悟と技能を示すと同時に、陣地確保のため味方の大量の砲撃の下に進む兵士が直面する緊張感を生々しく想像させました。もちろん実際には敵側の砲撃もあり、兵士もいて、一進一退の命の奪いあいになりえます。そうした戦場から住民の生活圏まで、離島なら遠くはないでしょう。

攻められれば排除せねばならないが、国民の巻き添えをいかに減らすか――。かつて沖縄戦で破綻し、最近では地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備停止で露呈した、島国日本の安全保障につきまとうジレンマです。

防衛強化だけで解決できるのか。そこまで考えるのは、敵との対峙に集中する自衛隊には無理な話でしょう。国家安全保障会議で外交や国民保護も含めた戦略を練るべき首相や外相、防衛相ら関係閣僚と、それを支える官僚の責務のはずです。そんな事を思いつつヘルメットを返し、東富士演習場を後にしました。

陸自東富士演習場に展示された野戦特科の車両=10月14日。藤田撮影
陸自東富士演習場に展示された野戦特科の車両=10月14日。藤田撮影
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