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フィギュア選手を悩ます「おしゃれ心」あざだらけ脚、ムキムキ筋肉
サンダル無理!鍛えすぎてジーンズが…
フィギュアスケートの選手にとって、おしゃれをしたくなる年頃は、悩みが尽きません。スケート靴によって靴擦れになり、転倒であざは絶えず、トレーニングでムキムキの脚になるなど、みんなと同じファッションをするのに勇気が要るからです。フィギュアスケートの競技経験のある筆者も、そうでした。なぜ、おしゃれに不向きな体になってしまうのでしょう? 華やかな演技からは見えない選手の「あるある」を紹介します。
スケート靴を下ろしたその日は、まるで木靴を履いているようです。スケート靴は、足首まで硬い革で覆われています。内側にクッション性のある素材を使っていてもおろしたその日は、靴擦れができることも少なくありません。
少しずつ革が軟らかくなり、自分の足にフィットしていくのを待つしかありません。シリコンのシートや、スポンジなどを緩衝にして、乗り切ります。
それでも、指の付け根や、くるぶしなど、骨が出ている部分に毎日負担がかかって擦れていきます。すると、だんだん皮膚が硬化し赤茶色になります。外反母趾になる選手も多いです。私は、くるぶしに水がたまってぱんぱんに腫れ、大きな注射器で抜いたこともあります。
足首の周りも赤くなるため、格好悪くてサンダルを履くのに躊躇します。さらに、脚はあざだらけです。主にジャンプで転倒すると、膝にあざができてしまいます。エッジ(刃)を脚にひっかけると、すねにもできてしまいます。
フィギュアスケート選手は、パンツのサイズ選びも大変です。ウエストが細くても、太ももが太くつっかえてしまうのです。
フィギュアスケートは主に下半身の強化が必要なので、脚の筋力がついています。紀平梨花選手は体脂肪10%以下というように、見た目は優雅ですが、実はムキムキです。私も現役の頃は、太ももの外側の筋肉やふくらはぎがまるでししゃものようについていて、岩のような硬さでした。
なぜそんなに下半身に筋力がついてしまうのでしょうか。それは、スケートは下半身をたくさん使う競技だからです。
そもそも、スケート靴には刃がついていて重いので、足に重りを付けているようなもの。それでジャンプするので着氷で脚にかかる負担は大きくなります。
練習では、ジャンプやスピンだけでなく、基礎練習で、ただ滑っているだけ(に見えるが一番きつい)のスケーティングにかける時間が多くなります。
スケーティングはウォームアップなどで行いますが、早朝練習や合宿では数時間スケーティングだけの練習もあります。基本姿勢は、両腕を氷と水平に上げて、保ちます。さらに膝と足首はスクワットのように深く曲げて氷を押します。筋力トレーニングと同じです。
ずっと腕を氷と平行になるように保とうとすると、上腕がピクピクしてきます。さらに、太ももやふくらはぎはぴきぴき。腰は張りますし、息はゼーゼーです。
さらに、プログラム内で組み込まれる、ステップでも筋力を使います。滑っていない方の脚をまっすぐ後ろに伸ばしたり、横に高く上げたりと、様々な動きをします。同じ体勢をキープしたり、柔軟性の高いポーズを数々と決めることで、筋肉がぷるぷるというくらい疲れます。美しく見える姿勢するためには、筋力が必要なのです。
きれいな演技の裏には、他にも泥臭いトレーニングがあります。
氷から上がって行うトレーニングをスケート選手は「陸上トレーニング(陸トレ)」と呼び、その種類は多岐にわたります。
指導者や所属するクラブによって内容は変わりますが、スケート選手に必要な陸トレの種類としては主に、柔軟体操・筋力トレーニング・体幹トレーニング・ランニング・バレエ・ジャンプ・振り付けなどの練習が挙げられます。
私は毎回練習の間や後に最低1時間はしていました。学校のない日は2~3時間やることも普通でした。とくに、夏休みの合宿では、トレーニングの時間が多く設けられています。私も参加した日本スケート連盟が小中学生を対象に開く新人発掘合宿では、長距離のタイムをはかったり、身体能力を測ったり、陸上の時間も多かったです。
スケート選手が必要な主なトレーニング
・筋力トレーニング…ジャンプに必要な下半身の筋力のほか、体のバランスをとるため上半身では腕の筋力などを主に鍛えます
・体幹トレーニング…ジャンプの軸を作るために、体幹を鍛える必要があります
・ランニング…スケートのプログラムは、フリーだと4分と持久力が必要です。長距離走は欠かせません。また、瞬発力を上げるため短距離走もします
・ジャンプ…止まったところから構えて跳び上がり回転をします。陸上ではスピードや遠心力の力を使えない一方、氷上と違い安定感があります。鏡を見て正しい姿勢を確認します。トップ選手は3回転もお手の物です
・バレエ…基本的な身のこなしは、バレエが役立ちます。柔軟性もつきます
・振り付け…氷上で踊っていることをイメージし、振り付けや動きの細部を鏡を見ながら確認します。鏡がない大会の会場では、窓に映る自分の姿を見ていました
トップ選手には、専属のトレーナーがいたり、ジムに通ったりしている選手が多いです。
平昌五輪前に、坂本花織・三原舞依両選手が通っているジムに取材に行きました。プロ野球選手も取り入れている「初動負荷」のトレーニングをするため、「ワールドウィング神戸」(神戸市東灘区)に通っていました。
坂本選手は、週に2回ほど通い、何種類ものマシーンをゆっくり動かすトレーニングをしていました。筋肉を大きくするためのトレーニングではなく、上半身と下半身のバランスを整え、股関節や肩周りなどの可動域を広げることを目的としていました。「体が動かしやすくなった」と話していました。持ち前のジャンプ力も生かし、平昌五輪の個人戦で6位と大健闘をしました。
以前取材した、紀平梨花選手や宮原 知子選手も、リンク内の鏡張りのトレーニング室でバレエや新体操などのレッスンを専門のコーチから受けていました。私の選手時代は、週に2度トレーニングのコーチが来て筋力や体幹トレーニングを習い、週に1度はバレエのレッスンを受けていました。
表現の幅を広げるため、ヒップホップや日本舞踊など様々な種類のダンスを習う選手もいます。プログラムという作品を作り上げるための練習には、何でも挑戦します。
陰でハードな筋力トレーニングをしている姿を思い浮かべながら、選手たちの華麗な演技を見てみると、普段とは違った感動が味わえるかもしれませんね。
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