連載
#73 #となりの外国人
初めての大地震、外国人が「一番怖かった」こと 耐えた魔の24時間
「200年に1度」はいつ起きるの?
大型の台風や地震が多い日本。日本語の日常会話に問題がないように見える外国人でも、災害の経験は少なく、いざというときどう行動すればいいか迷い、孤立してしまいがちです。タイと韓国、二人の女性の視点から、「災害大国」日本の備えを考えました。
この記事は、日本で暮らす外国人をサポートする「ひらがなネット株式会社」(東京都墨田区)との共同企画です。本所防災館(同区)で出会った外国人の災害体験を3回に分けて配信します。
【イラスト】外国人の地震・台風の体験をイラストでも読むことができます
東京都墨田区にある本所防災館の、防災体験ツアー。「都市型水害」のコーナーで、ひときわ力を振り絞る女性がいました。
タイ出身のダラポーンさん(40)です。
このコーナーは、地下の店や地下駐車場などにいた時、豪雨が発生し、地上から雨水が流入したときのことが体験できます。避難が遅れて、水深約50センチになった場合、ドアにかかる水圧は約190キロともいわれています。成人男性でもほとんど開けることは不可能。豪雨が予想されるときは、地階の利用に注意することを感じてもらうための体験です。
ダラポーンさんは、「びくともしない」はずのドアを、ものすごい力で動かしてしまい、周りの人を驚かせました。
「弟を大学に入れるために、力仕事ばっかりやってきたので」と照れ笑いしました。「でも、災害の本番で、こういう力が出せるかはわからない」
防災体験ツアーには、日本生まれで、まもなく2歳になる息子と参加しました。生まれた直後に、NICU(新生児集中治療室)に入院。2歳になるまで、たびたび手術を受けてきました。「つらくてもあまり泣かない、我慢強い子なんです」と誇りに思います。
その息子が、ツアーの最中、泣きじゃくりました。地震体験コーナーで、震度7の揺れを体験するダラポーンさんを見守っていた時です。体験中、預かったスタッフの腕をふりほどき、「ママー!ママー!」。大揺れの中にいるダラポーンさんの元に駆け寄ろうとしました。
息子を抱きしめながら、ダラポーンさんは「家族を守らなければと思っています」と防災に込める思いを話してくれました。
ダラポーンさんが災害の時に感じたのは孤独感です。
日本生活は11年になります。日常会話には問題ありませんが、文章の読み書きは難しいと感じています。
2011年3月11日、金曜日の日本語のクラスから帰宅した直後、地震に見舞われました。
日本人の夫とは連絡がつきません。部屋の窓から、お台場の方向に黒煙が上がっているのが見えました。
どうしたらいいのか、わからず、不安に駆られました。でも頼れる友達も近くにはおらず、ただひとり、家で夫が帰宅するのを待つしかありませんでした。
勤務先が遠くにある夫は、勤務先が落ち着いてから徒歩で帰宅。ダラポーンさんが再会できたのは地震発生から24時間後でした。
その頃、食料の備蓄はほとんどしていませんでした。地震が発生した金曜日は、いつもなら夫と外食。週末に一緒にスーパーに買い出しに行くのが日課でした。
地震発生から1日、スーパーに行ってみましたが、すでに食べ物はありませんでした。先の見通しが立たない中、少ない食料で暮らさなければいけない不安。「これが一番怖かった」と振り返ります。
「あの失敗は繰り返したくない」
いま、2歳の息子は、食事以外にもミルクで栄養補給をしています。いざというとき、子どもにひもじい思いをさせないため、防災体験ツアーの後に、子供が食べられる魚の缶詰など、食料を集めました。
大震災の後、すぐに家族に会えなかったときの孤独感。誰とも話せず、どんどん恐怖が増した記憶が残っています。「子どもがいるから、今はもっと大きい不安があります」
もし、近くにいる人と「大丈夫ですか?」「一緒に、避難所へ行きますか?」と声をかけ合うことができたら、「きっと、一緒に頑張ろうという気持ちになります」。
イラストは、日本語教育分野で挿絵について研究している楢原ゆかりさん(早稲田大学修士課程2年)が描きました。外国人と一緒に、防災体験ツアーを取材して、日本語が読めなくても伝わるイラストにしました。イラスト特集はフォトギャラへ。
韓国出身の安ヒブンさん(42)は、東京都江東区で夫と二人暮らしです。日本での生活はまもなく6年。韓国にも台風や地震がありますが、防災は日本の方が進んでいると感じ、「日本でいろいろなことを勉強したいと思います」と話します。
一方で、ヒブンさんが不安に感じたのは、いざという時の判断です。
2019年10月、東京にも迫った大型台風では、SNSで避難勧告が届きました。
「2階以下に住んでいる人は避難をしてください」という内容でした。ヒブンさんの家は3階。隣の人は避難をしていましたが、自分はどうするべきか判断できず、不安でした。
江東区から配られたハザードマップで洪水の予想を見ると、自分の地域は2階までが水没するエリアでした。「事前に調べておけば、安心できます」
本所防災館では、避難時に持ち出すカバンに入れるものや、備蓄について、熱心に聞いていました。
食べ慣れている大好きな日本のシーフードカップラーメンや、米などを準備しました。
防災館で「200年に1度」の災害について説明する職員にこんな質問をしました。「200年に1度なら、次はいつ起きますか?」
「それは、明日かもしれません」。職員の返答に、ヒブンさんは顔を引き締めました。
「大丈夫ですか?」
日常会話は問題なくても、ニュースの情報がわからなかったり、災害の事前知識がなくて不安な外国人がいます。
周りにいる人に「わかりますか?」「大丈夫ですか?」と声をかけることで、お互いに余裕が生まれます。
やさしさのポイントは、「ひらがなネット株式会社」に監修していただきました。
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