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#72 #となりの外国人

〝台風のない国〟の父娘が実感「災害大国」の恐怖 日本人にも気づき

「大丈夫だろうが通じない」

都中心部のハザードマップを見るカミラさん、イエルキンさん親子。「本当にこうなったら、西(高地)に逃げるしかないね」と話した
都中心部のハザードマップを見るカミラさん、イエルキンさん親子。「本当にこうなったら、西(高地)に逃げるしかないね」と話した

目次

台風の襲来が相次いでいます。「台風がこない国」から来た少女は、ニュースで聞いた「強い風」という表現では想像できなかった、予想を超えるトラブルに見舞われました。「知識があれば自分を守れる」と実感します。日本で暮らす外国人の目を通して、「災害国」を生き延びる方法を、考えました。

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この記事は、日本で暮らす外国人をサポートする「ひらがなネット株式会社」(東京都墨田区)との共同企画です。本所防災館(同区)で出会った外国人の災害体験を3回に分けて配信します。
【イラスト】カミラさんの台風体験をイラストでも読むことができます

日本語(にほんご)にまだ()れていない(ひと)は、Facebookを()んでください。わかりやすい日本語(にほんご)とイラストで()きました。

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初めてづくしの日本

ウズベキスタンから移住したカミラさん(18)は、東京都中央区のマンションで、父イエルキンさん(53)と二人暮らしをしています。母国に一時帰国した母が、新型コロナウイルスの影響で日本に戻って来られなくなったためです。

9月、カミラさんはイエルキンさんと一緒に、東京都墨田区にある本所防災館に行きました。来日18年のイエルキンさんが、「日本の防災センターは面白いし、勉強になる」とカミラさんに勧めました。「『自分一人ならなんとかなる』とは言ってられなくなりました。僕は家族を守る責任があるから」

本所防災館で職員の説明を聞くカミラさん(左)とイエルキンさん
本所防災館で職員の説明を聞くカミラさん(左)とイエルキンさん

カミラさんは母国では火事の訓練をしたことがあるくらいでした。地震のときは「走って外に出る」。日本に来て、地震が来る前に地震速報が鳴ることや、台風が来る数日前から情報があることに、驚きました。「怖いですけど、情報があるのはいいことです。備えることができますから」

カミラさんが日本に来たのは4年前、14歳のときでした。

それまで毎年のように、夏休みは日本に遊びに来ていました。八景島シーパラダイスに遊びに行ったときは衝撃でした。ウズベキスタンには海がありません。水族館もありませんでした。「日本で初めて、海の生き物を見たんです。『すごい、この国』って思いました」とカミラさんは話します。

高層ビルや、清潔な町並み。どれもウズベキスタンで見慣れないものでした。

「怖くて、しかたなかった」

「ウズベキスタンにないもの」の一つには、災害もありました。

2011年、3月11日。ウズベキスタンにいるカミラさんは、父が働く日本を襲った大震災と津波のニュースにかじりついていました。父とは連絡が取れず、「津波は東京にも行くのかな」。東北と東京の位置関係がわからず、心配で、怖くて、しかたありませんでした。

イエルキンさんは、その頃、「帰宅難民」になっていましたが、同僚と周囲の状況が落ち着くまで、バーで飲んでいました。「一人暮らしだったから、どうにでもなると思っていたんです。まだ、あのときは」

台風の恐怖

津波への恐怖があっても、カミラさんは、日本へ来ることをあきらめませんでした。ウズベキスタンで日本語クラスに通い、日本の中学に編入しました。

でも、カミラさんは日本に来て、日本が「津波だけではない国」だと実感することになります。

2019年10月の台風19号。東京も猛烈な暴風雨に襲われました。接近の数日前からニュースを見て、イエルキンさんは、行政の資料などを参考に、断水に備えてお風呂に水を貯めておきました。東日本大震災でスーパーから食品がなくなった経験も思い出し、買い物も済ませました。

「強い風って、どれぐらい強いのかしら?」

台風が最接近したとき、カミラさんの母は外に出てみたいと言い出しました。ウズベキスタンにはない「台風」。どういうものか、予想がつきませんでした。

イラストは、日本語教育分野で挿絵について研究している楢原ゆかりさん(早稲田大学修士課程2年)が描きました。外国人と一緒に、防災体験ツアーを取材して、日本語が読めなくても伝わるイラストにしました。イラスト特集はフォトギャラへ。

カミラさんは止めましたが、何かあったら母を助けなければいけないと思い、付き添ってマンションの下に降りました。ロビーでは、暴風雨の中、コンビニまで行こうとしている日本人親子の姿もありました。

外に一歩出ると、足元をとられるような激しい風。自動ドアが風で開きそうになるのを、必死で押さえる人たちも見ました。予想以上の危険を感じ、カミラさんと母が部屋に帰ろうとしたとき、高層階用のエレベーターが止まりました。「こんな影響が台風で出るなんて」と驚きました。

カミラさんたちの部屋は42階。40階までのエレベーターが動いていましたが、強風のため、乗っている最中でも、中で揺れを感じ、「死ぬかもしれない」と恐怖でした。

40階の先は非常階段のドアも閉まっていて、しばらく部屋に戻れなくなりました。

「何が起きるか予測できないと、自分たちを守れない」。カミラさんは、災害の教訓を学びました。

イエルキンさんは、強風で窓が破られるような恐怖を感じ、自宅で窓を押さえていた(当時の状況を再現)=カミラさん撮影
イエルキンさんは、強風で窓が破られるような恐怖を感じ、自宅で窓を押さえていた(当時の状況を再現)=カミラさん撮影

「大丈夫だろう」じゃない

本所防災館では、暴風雨体験コーナーに挑戦しました。現在は休止中の施設ですが、取材のため特別に動かしてもらいました。

滝のように降る、1時間に50ミリの「非常に激しい雨」。それに、走行中のトラックが横転するような風速30メートルの「猛烈な風」を体験します。

手すりにつかまり耐えますが、前を向き、目も開けていられません。

防災館の職員が「さらに風を強く感じたい人は最前列へどうぞ」と促すと、イエルキンさんとカミラさんは、進んで最前列に進みました。「こんな状況では、もう動くことができない」ということを実感しました。

とはいえ、住んでいるのはマンションの高層階。「外に出なければ、私たちは大丈夫だろう」と思っていました。
しかし、その後、川が氾濫した場合のシミュレーションを見て、考えが変わりました。海抜ゼロメートル地帯では、東京の中心部は、水没すれば2週間は水が引かないと言います。

豪雨の時に、水が流れ込む地下で、ドアを開ける難しさを体験するカミラさん。水圧でびくともしなかった
豪雨の時に、水が流れ込む地下で、ドアを開ける難しさを体験するカミラさん。水圧でびくともしなかった

見直す対策

イエルキンさんたちは、さっそく、ハザードマップをチェックして、「荒川が氾らんした場合には12時間以内に、中央区も浸水が始まる」などという洪水の予測を確認しました。

いざというときは、避難も考えないといけない。歩いて、近くの避難所を見に行きました。

東京都中央区のハザードマップ。1000年に1度の大雨で荒川の堤防が決壊したことを想定し、12時間で浸水予想
東京都中央区のハザードマップ。1000年に1度の大雨で荒川の堤防が決壊したことを想定し、12時間で浸水予想

2019年10月の台風では、神奈川県川崎市のタワーマンションで長期間、停電と断水に見舞われたこと、東日本大震災では物流が止まったこと。イエルキンさんの「経験」も元に、備えを見直し、食べ物は2週間分ぐらいはストックしてあります。「あとはポータブルトイレを準備しないといけないですね。トイレはとても大事」

カミラさんは、来年、日本にある大学に進学する予定です。日本で長く生活する自分と家族を守るため、備えは続けるつもりです。「いまから考えておけば、何かあったときに、少し自信をもって動けると思いますから」

コロナ禍も食料ストックを見直すきっかけになったというカミラさん、イエルキンさん。食料棚はパスタやレトルト食品がいっぱい=カミラさん撮影
コロナ禍も食料ストックを見直すきっかけになったというカミラさん、イエルキンさん。食料棚はパスタやレトルト食品がいっぱい=カミラさん撮影
やさしさのポイント


「ここはとても危ないです」

台風がない国から来た人は、台風のときにどんな行動をしたらいいかわかりません。「土砂災害」「特別警報」などの言葉では、イメージがつかないかもしれません。

「強い雨がたくさん降ると、山がこわれます」
「ここはとても危ないです。一緒に避難所へ行きましょう。避難所は安全な場所です」


もし、近くに困っている人がいたら、これから起こりえることを、やさしい表現で伝えてあげてください。日頃から、ハザードマップを見たり、住んでいる地域のリスクを一緒に考えられるといいと思います。

やさしさのポイントは、「ひらがなネット株式会社」に監修していただきました。

やさしい料理
9月27日(日)14時から、「やさしい料理」を生配信します。
料理研究家の渡辺あきこ先生と、朝日新聞で食文化を取材している長澤美津子編集員が出演。 今回は、台風や地震で電気やガスが止まったとき、どうしたらいいか考えます。鍋とビニール袋でできる調理方法も紹介します。
https://www.facebook.com/yasashiinews/posts/339086677533486

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