マンガ
コンビニの「変わったお客」が教えてくれた「優しい世界」マンガに
“10万いいね”が伝えた社会の窮屈さ
コンビニのアルバイト学生が目撃した、「ちょっと変わった」客を描いた漫画が、ツイッターで話題になっています。「ふつう」について、いろいろ考えさせられたという自身の体験を描いた作者に、話を聞きました。
舞台は、とあるコンビニ。
「”ふつう”というのは人や場所によって簡単に変わってしまう」との言葉で、物語は始まります。
バイトを初めてまだ、1週間。レジに立つ男性は、入店してきたある客の様子に、目を疑います。
ノースリーブのワンピースを着た、高齢の女性。腕には、大事にクマのぬいぐるみを抱えています。
「異様」な雰囲気を感じた男性は、思わず、隣で働いていた「水谷さん」をつつきます。
しかし、客を一瞥した水谷さんは、「ああ、ベアちゃんがどうした?」。何事もなかったかのように作業を続けながら、説明します。「いっつもお友達と一緒に来るんだよ」
バイトは、水谷さんの説明にも違和感が消えません。「一緒に来る、じゃなくて ”持ってくる”でしょ」
時は流れてある日、入店してきたその女性に、バイトはまた「異変」を感じ取ります。「ベアちゃんがいない」
女性は一人、さみしげに腕を抱えていました。
「ベアちゃんがいませんね…」。バイトが言うと、水谷さんも「あー喧嘩でもしたんだろ」と推測します。バイトは思わず、「早く仲直りするといいですね・・・」とつぶやきます。
いつの間にか、ベアちゃんは、バイトの中でも「すっかり生きてる扱いになっていた」。バイトの「ふつう」が変わっていった瞬間でした。
この漫画には、「優しい世界で好き」「そうよね、みんな違うんだもの」と反響が広がりました。
「普通の形が違うだけ」「普通って言葉は人によって違うから、なるべく使わない」「色んな人の普通を受け入れる世界になるといいな」と、「普通」について考えるリプライや、「うちのお客様にもいます!」など、ちょっと変わっているけど「町になじんでいる」印象的な人たちの目撃談も寄せられ、10万件以上のいいねがつきました。
作者のやじまさんは、10年以上のフリーター生活を経て、最近、漫画家になりました。今回の作品は、学生時代の実体験を描いたものだと教えてくれました。
「15年ほど前、僕が高校1年生の時のバイト先で本当にいらっしゃったお客さんの話です。そのお客さんは、いつもブルガリアヨーグルトを買って帰られてました」
バイト先では、「ふつうじゃない」と思っていたものが、ふつうに見えてきたり、「ふつう」だと感じていたことが崩れたり、考えさせることが多かったといいます。
「接客業をしていると、いわゆる『ふつう』のお客さんが、些細なことで突然怒ったりすることもありました。『ふつうって何だろう』っていうのはいつも考えさせられました」
学生時代の話を今描いたことには、思いがありました。
「今、SNS、特にツイッターなどでは、色んなことが炎上したり、叩いたりと『不寛容さ』が増えているな、と感じます」
「それってなんでかな、って考えたときに『自分のふつうを押し付けたり、他人のふつうを認められなくなってる』からじゃないかと思いました。その気持ちを僕のアルバイトで経験したエピソードを元にしてマンガにしたら伝わりやすいと思って描いてみました」
マンガに込めた「普通っていうものは、いろいろあるし、変わるもの」というメッセージ。
反響は予想以上でした。その反響の大きさに、いろいろな人の「窮屈さ」を感じ取ったと言います。
「結構同じように無意識に感じてる人が多かったから、それが言語化されて、共感してくれたんだろうな、と思いました」
「あるいはみんな『ふつう』に対して、苦しめられたり、不寛容さを感じて窮屈な思いを感じていたのかもしれません」
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