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葉っぱ切り絵が生む感動 就職でわかった発達障害、見つけた創作の道

「皆と同じ事」出来なくても生きていく

リトさんが投稿した葉っぱ切り絵「エルマーのぼうけん」
リトさんが投稿した葉っぱ切り絵「エルマーのぼうけん」 出典: リト@葉っぱ切り絵

目次

空を背景に、1枚の葉っぱに刻まれた物語の世界。「葉っぱ切り絵」の作品がツイッターに連日投稿され、反響を呼んでいます。会社を辞め、大切なことに気がついたという作者に、作品に込めた思いを聞きました。

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「雲の模様や影の不思議な世界」

今月9日、「エルマーのぼうけん」という一言が添えられ、ツイッターに投稿された一枚の写真。

写っているのは、青空に向けて掲げられた葉っぱ。よく見ると、しま模様のりゅうと見つめ合う少年「エルマー」の姿や、たてがみを三つ編みにしたライオンなど、有名な童話の世界が刻まれています。

この投稿に対して、「懐かしい」「心があたたかくなる」「雲の模様や影もあわせて不思議な世界」などコメントが寄せられ、15万件以上のいいねがつきました。

残らない儚さも魅力

写真を投稿したのはリトさん(@Teriyaki_Cheese)。作品の背景に広がる大空や自然は、横浜市の自宅近くにある公園の丘の上だそうです。

リトさんは連日、葉っぱ切り絵の作品を投稿しています。毎回、葉っぱの形も、描かれる物語も、さまざま。

葉っぱの中に浮かんだ大きな水族館。
動物たちが思わず踊り出す、森のピアノ教室。
サメは、海に大切なものを落とした女の子に落とし物を届けます。

「森のピアノ教室」
「森のピアノ教室」 出典:リト@葉っぱ切り絵さんのツイッター

「毎日、葉っぱ切り絵をする時間以外は、葉っぱを探したり、創作のアイデアを出すために、ひたすら歩いています。2万歩ぐらい歩きます」


今回のエルマーは童話をモチーフにしましたが、ほとんどがオリジナルの物語だといいます。


「作品のアイデアは、すぐひらめくこともあれば、夜通し机の前で悩むこともあります」


物語はまず紙に描き出し、その後、葉っぱの裏にペンで模写します。デザインナイフで切る作業は「だいたい1~2時間で仕上げます」とのこと。

葉っぱは、数日で、枯れたりしおれたりしてしまいます。残らない儚さも、葉っぱ切り絵の魅力だと言います。

「得意なことを伸ばす生き方」

葉っぱ切り絵に力を注ぐリトさん。でも、まだ葉っぱ切り絵を始めて半年ほどだといいます。

創作の道を歩み始める前、リトさんは、約10年間、サラリーマンとして勤めていました。

大学を卒業して、就職。しかし、社会に出て待っていたのは、上司に散々怒られて、「自分は何でこんなに仕事ができないんだろう」と落ち込む日々でした。

集中すると、周りが見えなくなるほど没頭してしまいます。完璧主義で、仕事は丁寧、でも「スピードが遅すぎる」。2度転職しましたが、うまくいきませんでした。

ほかにも同じように悩む人がいないか調べたときに、たまたまADHD(発達障害)という存在を知ります。受診して、自分もADHDだったという診断を受けました。

会社を辞め、自分の障害についてより知りたいと、医学書などで勉強をしました。

そして、「サラリーマンという働き方が致命的に向いていないこと」「ゆっくりと時間をかけて一つの事だけに集中すれば、誰よりも頑張ることができる」という自分の得意・不得意が見えてくるようになりました。

「これからは自分の苦手な事を無理に克服するのはやめよう、得意な事を伸ばす生き方を探そう」。だんだんと、自分や障害に前向きになれるようになりました。

「ばれないように、小さく」

それでも、「得意なこと」がすぐに思い当たるわけではありませんでした。

障害があっても働ける職場を探そうと、働くことやコミュニケーションに不安を持つ人の就労支援をする「地域若者サポートステーション」に通いました。そんなある日、講習を受けながら、ふと、プリントの端に落書きをしました。

「僕は絵がまったく得意じゃなかったんです。だから落書きも、先生やほかの人にばれないように小さく描いていました」


その時に描いた「ヘンテコな機械の部品みたいな」集合体。それが、「なんかかっこよく見え」ました。これを、ノートにびっしりと埋めたらどうだろう、これに色を塗ったらどうだろう、という創作意欲が沸いてきたといいます。

ノートの隅にポールペンで書いた落書き
ノートの隅にポールペンで書いた落書き 出典: リト@葉っぱ切り絵さん提供

自分の武器になるものは、これではないか。

それから、ボールペンでの描写、スクラッチアート、紙の切り絵、様々な表現にチャレンジしました。

作品作りの原動力

試行錯誤の日々。創作をしていても、不安や焦りは常に生まれます。

昨年末、作っていたのは、粘土のカエル。表面は0.05ミリのペンで描いた模様で埋めていきます。作業だけで一日が終わります。
当時のツイッターには、そのときの焦りや不安がにじんでいました。

「皆がようやく仕事納めの中、自分は何をやっているだろう」

「『じゃあ働け』って話なんだけど、僕は皆と同じ事が出来なくても障害を活かして生きる道はあるって信じたい」

リトさんにとって、アートは「趣味」ではなく、生きる道の模索でした。

でも、なかなか注目を集める作品は生まれません。取り組む人が多いジャンルほど、SNSでも埋もれてしまいます。

ある日、海外の葉っぱ切り絵作家の作品を目にして、衝撃を受けました。
「葉っぱでこんな緻密な表現ができるのか」

これをやろう。

葉っぱ切り絵に絞って、作品を作り続けました。最初に作った作品は、「今見ると、すごく雑で恥ずかしい」と振り返ります。でもリトさんは、「これを自分の武器にして、これからは生きていくんだ」と毎日作品を作っては、SNSに投稿し続けました。

サラリーマンとして生活していたころは、「みんなと同じことができない」「頑張っても追いつけない」ことがコンプレックスでした。

でも創作は、「人と違うこと」が尊重してもらえる。

「コンプレックスを全部肯定してもらえてる気がする。無理に人の背中を見て走らなくても良いんだ」(当時のツイッターより)

一番最初に作った葉っぱ切り絵
一番最初に作った葉っぱ切り絵

表現力が向上し、徐々に「いいね」の数は増えています。フォロワーや、制作を依頼してくれる人も。

「最近は、少しずつ絵本の1ページみたいなストーリー性のある作品を作れるようになってきました。これからは、何枚かの葉っぱ作品で一つのお話に繋げる事が出来たらなと思います。それが本当に絵本になったりしたら、最高ですね!」

リトさんは、最後に、作品に込めた思いについて、こう語ってくれました。

「僕みたいに全く仕事が出来ず、それでも働かなきゃいけなくて無理して今の環境で頑張ってる人が、たくさんいると思うんです。そんな人たちに、『無理して出来ない事や苦手な事を続けるより得意な事を伸ばす生き方もある』って事を伝えたいんです」

「美大も行ってないし、コネも無いし、30過ぎて貯金も無い男がゼロからアートで成功すれば説得力もあるだろうって。僕が毎日作品作りを辞めずに続けていられるのも、それが1番の原動力です」

  ◇
リトさんのインスタグラム:lito_leafart
リトさんのツイッター:@Teriyaki_Cheese

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