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お金と仕事

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「マイナー競技」食べていける? 五輪延期の裏側、選手が明かす胸中

カヌー・スラローム男子カヤックシングルの東京五輪代表になった足立和也選手。
カヌー・スラローム男子カヤックシングルの東京五輪代表になった足立和也選手。

目次

東京五輪日本代表に内定したカヌー・スラロームの足立和也(29)選手。カヌーの名門・駿河台大学を中退して世界への挑戦を決意、環境の良い山口県に移住して練習を積みました。

コーチ宅に居候、アルバイトをしながらの海外遠征――苦労が実を結び、ついにライバルを逆転してオリンピック初出場へ。しかし2020年3月24日、そんな足立選手の元に「東京五輪延期」のニュースが届きます。

先の見えない社会情勢の中、オリンピック選手は今、何を考え、どんな生活を送っているのでしょうか。またカヌーという、いわゆる「マイナー競技」でいかに「食べていく」ことができているのでしょうか。足立選手本人が紹介します。

「五輪延期」に頭をよぎった思い

僕は東京と山口の二拠点生活をしています。妻と娘は東京にいますが、普段は山口県体育協会の職員をしながら練習。単身赴任のようなイメージでしょうか。海外遠征も年に数回、強豪国の多いヨーロッパに行きます。昨年夏からは五輪会場として建設された東京地江戸川区のカヌー・スラロームセンターでも練習ができるようになりましたが、7月末まで新型コロナウイルスの影響で利用が中止されていました。

カヌー競技になじみのない人も多いかもしれません。カヌーには大きく、流れのある「スラローム」と流れのない「スプリント」の二つがあり、僕はスラロームの選手です。スラロームにもパドルの両端に水かきがある「カヤック」と片側にしかない「カナディアン」があり、2016年のリオ五輪で羽根田卓也選手がアジア初の銅メダルを獲得したのはカナディアン、僕はカヤックの選手。羽根田選手の活躍により、カヌー競技にも日が当たるようになってきました。

東京五輪の延期決定のニュースは、テレビを観ていて知りました。とはいえ、その1週間くらい前にはコーチや関係者から「1年後や2年後への延期、中止、いろいろな可能性がある」と聞いていて。そのさらに1カ月前、世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大する前に遠征先のオーストラリアから帰ってきて、各国の状況の悪化は肌で感じていたところでした。

大変な状況は続いていますが、中止ではなく延期となり、オリンピック開催の可能性が残ったことにはホッとしました。僕たちのような「マイナー競技」の選手にとって、オリンピックは国際大会ということ以上に、生活をしていく上で大きなチャンスを得られる場所なので。だからこそ、4月から7月にかけてはキツかった。世界的には5月くらいから多くの選手が本格的な練習を再開しているのですが、日本ではできませんでした。

「自粛」期間のアスリートの過ごし方

とはいえ、絶望したり、自暴自棄になったりということはありません。カヌー選手にとってもっとも脂の乗る時期は30歳代の前半くらい。僕はまだまだ伸び盛りだと思っているので、この1年はより強くなるための準備ができるということ。それに、僕は2024年のパリ五輪まで現役を続行するつもりなので、東京五輪がラストチャンスというわけでもない。そんな想いを抱えて、僕も練習を再開しました。

しかし、その後またアクシデントが。本拠地にしていた萩市の阿武川特設カヌー競技場が先の豪雨の影響で利用できなくなってしまいました。カヌー・スラロームセンターも3月以降、長らく利用できない中、ひとまず東京に戻り、川やプールなどでカヌーに触れながら、陸上での基礎トレーニングを重ねることに。例年であればヨーロッパに遠征をしている時期ですから、思うように練習ができないことはやはりストレスでした。

それでも心を落ち着かせることができたのは、僕にとって目標がはっきりしているから。それは「世界で一番になること」であり、ブレていません。今後、引退まで国際大会が一切、開催されないということはさすがに考えにくい。もともと練習環境ではヨーロッパに大きく水をあけられている。チャレンジャーの立場ですから、やるべきことをやるだけです。

一方で、東京五輪はこれまで応援してきてくれた方々に恩を返す格好の舞台でもあります。慣れ親しんだところでレースができる地の利もある。東京五輪にかける特別な思いはありますが、一喜一憂せず、モチベーションを保つようにしています。9月現在、カヌー・スラロームセンターは再開されているので、遠征はできないものの、練習の質は上がっている。「想定されるもっとも悪い状況よりはずっと良い状況」といったところでしょうか。

マイナー競技「食える」分かれ目とは?

カヌー選手をしているとよく質問されるのが「どうやって食べている(生活している)のか」。プロスポーツならともかく、ただでさえなじみのない競技では、イメージしにくいですよね。僕はまず、山口県の体育協会の職員であり、その上で複数の企業からのスポンサードを受けています。大会のときに着用するユニフォームには、その企業名が入っています。カヌーで食べていくことは「今のところできている」という感じです。

ですが、体育協会の職員は、2020年に東京五輪が開催されることを前提にした、今年度までの契約。スポンサード契約も企業にとっては、オリンピックなど注目度の高い大会で企業名を露出できることがメリットですから、この先どうなるかは不透明です。今のところ延期ということで、契約を継続していただき、新規のスポンサードもいただいていて、感謝しかありません。

このように、マイナー競技では「注目度が高まり、露出の場があること」が「食べていけるかどうか」の分かれ目です。幸いにも今は、前回のオリンピックで羽根田選手が活躍したことでカヌーの認知度が上り、また、国内でのオリンピック開催も引き続き予定されている。これから先、食べていけるかどうかは、僕がどれだけ国際大会で結果を出して、注目していただけるかにかかっていると思います。

大学を中退したときも、就活をしながら山口に通って練習をする選択肢がありました。でも、僕は自分をもっと追い込みたかった。退路を断って、「カヌーで世界と勝負できるようにならないと生きていけない」と思えなければ、当時日本どころかアジア勢が国際大会で通用しない時代に、カヌーで強くなることはできなかったでしょうから。決して安定しているとは言えない立場ですが、自分としては覚悟を決めているので、迷いはありません。

(第二回に続く)
東京五輪日本代表候補選考での足立選手。
東京五輪日本代表候補選考での足立選手。

足立和也(あだち・かずや)

幼い頃からカヌースラローム競技に触れ、世代別日本代表選手に選出される。大学の時に日本代表Bチームとしてワールド杯等の世界大会に出場。しかし思うような成績を収めることができず、自身と世界との差を痛感する。競技に集中できる環境と指導者を求めて大学3年次で退学し山口県に拠点を移す。その年の日本選手権で優勝。翌年、翌々年とその後日本選手権を3連覇。2014年韓国で行われたアジア大会で優勝を収める。2016年日本人で初となるワードカップでの決勝進出を果たす。また同大会で3位に入りこの種目初のメダルを日本にもたらす。 17年のワールドカップにおいても3位に入り実力を証明する。 19年NHK杯兼日本代表選手権大会で4位入賞し、東京オリンピック代表選手に内定した。

公式YouTubeチャンネル
足立和也の『東京五輪へ真っ直ぐ!』

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